通信機工業(読み)つうしんきこうぎょう

改訂新版 世界大百科事典 「通信機工業」の意味・わかりやすい解説

通信機工業 (つうしんきこうぎょう)

通信機械器具およびその関連機械器具を生産する電気機械工業の一分野。情報を伝送する通信機械は,有線通信機器と無線通信機器とに大別される。有線通信機器には,(1)プッシュホンなどの電話機,(2)交換機,(3)ボタン電話,テレビ電話などの電話応用装置,(4)ファクシミリなどの電信装置,(5)搬送装置がある。無線通信機器には,(1)テレビなど放送装置,(2)トランシーバー,自動車・携帯電話などの無線通信装置,(3)レーダー装置などの無線応用装置がある。日本における生産額は4兆3672億円で,その内訳は有線通信機器2兆4670億円,無線通信機器1兆9002億円である(1997年)。なかでも無線通信装置が全体の35.7%,交換機が全体の20.5%と,大きなウェイトを占めている。

日本の有線通信機器工業は,1869年(明治2)の東京~横浜間の電信の開通による電信電話事業をその始まりとしている。現在の大手4メーカーも明治・大正時代に出そろっている。東芝前身である田中製造所が75年に設立された。沖電気工業は81年に明工舎としてスタートし,89年に沖電機工場,1912年に現社名になっている。日本電気は1898年に設立され,富士通は1923年に富士電機製造としてスタートしている。一方,無線通信機器工業は,1897年の無線電信の実験成功をその始まりとしている。さらに,1916年の無線公衆電話の商用化,22年のラジオ商業放送開始と大正時代までに基礎を築いている。

 現状をみると,電話機については1979年3月末までに,(1)全国即時ダイヤル通話化と(2)積滞電話の解消が達成されたため,電話機需要も一巡し,1977-81年で年平均10%の生産の伸びにとどまっている。伸びているのは,(1)データ通信,(2)画像通信,(3)移動通信である。データ通信とはコンピューターを接続することにより,データ伝送,データ処理を連続的に行う通信である。たとえば,企業内のオンラインシステム,JRの〈みどりの窓口〉,全国銀行データ通信システムの加入データ通信システムなどがあげられる。その普及背景には,1979年11月のディジタル通信網(DDX)の実用化,82年10月の第2次通信回線開放がある。データ通信普及とともに電子交換機の生産が急速に伸びている。画像通信とは,文字どおり,画像伝送により通信することである。たとえば,ファクシミリ電信装置,テレビ電話などである。企業のOA化,消費者の利便性の追及がその背景にある。移動通信とは,通信主体(送受信)が移動しながら通信し合うものである。たとえば,公用車を中心に急速に普及している自動車電話,外務員用のポケットベルなどがこれにあてはまる。目新しいところでは,転送電話装置がある。これは,受信した電話をあらかじめ設定した転送先に転送する通信装置である。事務所スペースの節約,利便性が受けて,急速に普及している。とくに80年代後半から携帯電話の普及が著しく,こうした移動体通信サービスへの加入者の大幅な増加を受け,無線通信装置は,1987-97年の10年間に年平均で13.4%の高い成長を遂げた。

日本の通信機工業の特徴は,(1)日本電信電話(NTT)グループのウェイトが,依然として高いこと。(2)日本電気,富士通など大手メーカーのウェイトが高いこと,である。輸出は,北アメリカ,ヨーロッパを中心に,無線通信機器などが伸びている。大手メーカーのウェイトが高いのは,(1)ディジタル技術などの高度な技術力を要求されること,(2)したがって中小メーカーの系列化が進んだこと,(3)NTTグループが実績を尊重してきたこと,などによる。

 今後は,インターネットのさらなる普及による搬送装置などの拡大や,パソコン,情報家電,携帯情報端末などとのディジタル通信が可能な通信装置の伸長が予想される。
通信
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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