日本大百科全書(ニッポニカ) 「通商拡大法」の意味・わかりやすい解説
通商拡大法
つうしょうかくだいほう
アメリカでケネディ政権下の1962年6月失効の互恵通商協定法(1934成立)にかわり、同年成立した通商法。その要旨は、(1)5年間に関税を50%切り下げる権限を大統領に賦与する、(2)アメリカ、EEC、イギリス、デンマーク、ノルウェー、アイルランド、ギリシアとの間で、西側の総輸出額の80%を超える鉄鋼、機械、自動車などについては関税全廃の権限を大統領に与える、などである。通商拡大法が成立した当時、アメリカ政府は、国際収支の赤字拡大とそれに伴う巨額のドル資金の海外流出、企業利潤の低下に苦しんでいた。このため、ドル資金の流出防止のための利子平衡税(一種の対外投資税)などとともに、アメリカの国際収支・貿易収支の抜本的改善を目的として打ち出した措置であった。しかし、その後の世界経済構造の根本的変化とアメリカの地位の相対的低下、さらにウルグアイ・ラウンドの成立と、世界貿易機関(WTO)の成立によって同法の実質的意義はアメリカにとってもさほど大きなものではなくなっている。
[陸井三郎]