連鎖球菌・腸球菌感染症

内科学 第10版の解説

連鎖球菌・腸球菌感染症(Gram 陽性球菌感染症)

(2)連鎖球菌(streptococcal infection)・腸球菌感染症(enterococcal infection)
定義・概念
 連鎖球菌(Streptococcus)ならびに腸球菌(Entero­coccus)によって起こる感染症.引き起こす感染症としては,皮膚・軟部組織感染症,髄膜炎,中耳炎,副鼻腔炎,咽頭炎,肺炎,カテーテル関連菌血症,感染性心内膜炎,脊椎炎,腸腰筋膿瘍,化膿性関節炎などがある.ペースメーカや人工関節といった体内に留置された人工装置に関連した感染症の起因菌にもなり得る. 腸球菌については,尿路感染症,胆道系感染症,腹腔内感染症などの腸内細菌科が引き起こすような感染症の起因菌となるが,カテーテル関連菌血症,感染性心内膜炎,手術後の創感染症も引き起こす.
分類
 血液寒天培地での発育後に生じる溶血の状態からα型(不完全溶血,緑色不透明環),β型(完全溶血,透明環),γ型(非溶血)に分類される.また,細胞壁のC多糖体抗原によっても分類がなされており(Lancefieldの分類),20種に群別される(表4-5-1).
病態生理
 連鎖球菌は皮膚の常在菌であるが,外傷や静脈へのカテーテル留置などから皮膚のバリアが破綻すると組織内に侵入する. A群連鎖球菌の場合,M蛋白が主たる病原因子で補体の活性化抑制や抗貪食作用を有する.莢膜を有する菌株も存在する.また,ヘモリジンや連鎖球菌発熱毒素も重要な病原因子である.ヘモリジンとしては,ストレプトリジンOやストレプトリジンSがあり,赤血球の溶血や白血球の破壊を行う.ほかには,ストレプトキナーゼ,ヒアルロニダーゼ,DNase,抗C5aペプチダーゼなどの酵素などの働きにより,宿主防御機構を回避しながら組織での定着,増殖,侵襲が進んでいく.また,発熱毒素のなかには,毒素性ショック症候群を引き起こすものがある.
 組織で増殖した細菌が血中に入ると菌血症となり,それが持続して心内膜組織での感染が起こると感染性心内膜炎となる.黄色ブドウ球菌ほどではないが,感染性心内膜炎からさらに骨髄炎,腸腰筋膿瘍,化膿性関節炎,脳梗塞へと進展する可能性もある. また,肺炎球菌の病原因子としては,莢膜,ニューモリジン,ノイラミニダーゼなどが知られている.
臨床症状
1)A群連鎖球菌:
咽頭炎,扁桃腺炎,猩紅熱,皮膚・軟部組織感染症,毒素性ショック症候群,肺炎,産褥熱などを引き起こす. 
 咽頭炎,扁桃腺炎では発熱,悪寒にて急激に発症し,咽頭,扁桃腺の腫大と発赤がみられ,ときに膿苔をみる.A群連鎖球菌による咽頭炎,扁桃炎は感染症法上における定点把握五類感染症に指定されている. 猩紅熱では,おもに咽頭炎,扁桃炎に罹患後2~5日の小児で頸部や胸部から全身に広がる赤色の皮疹で発症する.イチゴ舌や粘膜疹もみられるが,口の周囲や手掌,足底には発疹は少ない.多くは4~5日後から落屑し,2~3週で軽快する.連鎖球菌発熱毒素であるstreptococcal pyogenic exotoxin-A(SPE-A)による症状であるが,最近では,抗菌薬の早期投与により,みることは比較的まれになった. 皮膚・軟部組織感染症では,黄色ブドウ球菌とともに,感染する部位により毛包炎,癤,癰,丹毒,蜂窩織炎,壊死性筋膜炎といった感染症を生じる【⇨4-2-7)】.手術後の創感染症も重要な感染症である【⇨4-2-9)】.また,小児でおもにみられる伝染性膿痂疹を引き起こす.発熱,感染部位の炎症所見(発赤,腫脹,疼痛,熱感),膿疹,膿瘍などが認められる.壊死性筋膜炎など重症なものでは,紫斑や壊死,血圧低下や意識障害といった敗血症に伴う循環障害などの所見も認められる.
 A群連鎖球菌による軟部組織感染症,壊死性筋膜炎,肺炎,産褥熱などは急激に進行して現在でも致命的となり得る疾患である.A群連鎖球菌に限らないが,β溶血を示す連鎖球菌を原因とし,突発的に発症して急激に進行する敗血症性ショック病態を呈する劇症型については,感染症法上における全数把握五類感染症に指定されている.
2)B群連鎖球菌:
妊婦の膣に定着し,産褥熱,新生児の肺炎や髄膜炎,菌血症の原因となる.また,免疫能が低下した成人でも皮膚・軟部組織感染症などで問題になる.特に,糖尿病における皮膚・軟部組織感染症の起因菌の1つとして重要である.ほかに,肺炎,菌血症,骨・関節感染症をきたすこともある.
3)C群・G群連鎖球菌:
近年増加傾向にあり,咽頭炎,皮膚・軟部組織感染症,菌血症,感染性心内膜炎,関節炎などをきたすことがある.
4)肺炎球菌:
肺炎,慢性気道感染症の急性増悪,副鼻腔炎,中耳炎,髄膜炎,感染性心内膜炎の起因菌となる.ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)感染症は,感染症法上における定点把握五類感染症に指定されている.しかし,感受性判定基準が米国では2008年から変更となり,髄膜炎とそれ以外で判定基準が変わり,髄膜炎以外の場合には,ペニシリン耐性と判定される株はまれとなっている. 肺炎では,発熱,悪寒戦慄で発症し,咳,膿性痰がみられる.痰の色はときに鉄さび色と表現される.範囲が広範となれば呼吸困難,胸膜まで炎症が及べば胸痛を伴う.高齢者の場合にはいわゆる呼吸器症状は呈さず,全身倦怠感や意識障害などの全身症状が主となることもあり,注意が必要である. 慢性気道感染症の急性増悪では,発熱,咳や膿性痰の増加,呼吸困難の増悪などが認められる. 副鼻腔炎では膿汁ならびに前頭部痛をきたし,中耳炎では発熱,耳痛,難聴を呈する. 髄膜炎では,発熱,頭痛,嘔吐,意識障害を呈する.項部硬直,Kernig徴候,Brudzinski徴候といった髄膜刺激症状も認めるが,診断に必須ではない.肺炎球菌は,小児,成人,高齢者といった各世代での髄膜炎で,最も頻度が高い起因菌である.また,意識障害を呈した肺炎として治療を進めたものの反応が思わしくなく,髄膜炎の合併が見つかったという例も見受けられる.
5)緑色連鎖球菌グループ(S. bovis species groupを除く):
口腔内常在菌であり,感染性心内膜炎の重要な起因菌である.S. anginosus species groupはかつてS. milleriグループとよばれていたもので,化膿性感染を引き起こし,扁桃周囲膿瘍,肺炎,肺化膿症,膿胸,脳膿瘍などをきたす.
6)S. bovis species group:
Lancefieldの分類ではD群に分類される.現在は正式にはS. bovisから細分化され,名称も変更されているが,慣用的にはS. bovisでも通用する.S. bovisによる感染性心内膜炎では,菌種によって大腸癌との関連が報告されているものや胆道系感染症との関連が報告されているものがある.
7)腸球菌:
腸球菌としてはEnterococcus faecalis,E. faeciumなどがあり,E. faeciumについては耐性度が高い.Lancef
ieldの分類ではD群に分類される.尿路感染症,胆道系感染症,腹腔内感染症などの腸内細菌科が引き起こすような感染症の起因菌となる.カテーテル関連菌血症,感染性心内膜炎,手術後の創感染症も引き起こす.
検査成績
 白血球数増加,核の左方移動が認められる.ほかに炎症反応としてCRP増加や赤沈亢進が認められる.感染が疑われる部位から採取した検体のGram染色では,連鎖状のGram陽性球菌と好中球が認められる.特に肺炎球菌は2つがペアとなった双球菌の形でみえることがよく知られている(図4-5-3).培養では連鎖球菌または腸球菌が検出される.血液培養で連鎖球菌(図4-5-4)または腸球菌の検出が認められることがある. 画像検査においては,肺炎では胸部X線,感染性心内膜炎では経胸壁ならびに経食道心臓超音波検査,骨髄炎ではMRI,腸腰筋膿瘍では腹部・骨盤部造影CTが診断の一助となる.
診断
 培養検査で連鎖球菌や腸球菌が検出されたからといって,連鎖球菌感染症,腸球菌感染症と診断できるわけではない.ただ定着している菌を検出していたり,血液採取時に汚染した菌が検出されることもある. 感染が疑われる部位に炎症所見(発赤,腫脹,疼痛,熱感)が認められたり,咳・痰・呼吸困難などの炎症に伴う所見が認められるときに,感染が疑われる部位から採取した検体のGram染色で連鎖状のGram陽性球菌と好中球が観察され,培養で連鎖球菌や腸球菌が検出されるとき,連鎖球菌感染症,腸球菌感染症と診断される.Gram染色で好中球が連鎖状の細菌を貪食している像を認めるときは,より連鎖球菌感染症や腸球菌感染症の存在を示唆する. 最近,迅速検査として,尿中肺炎球菌抗原検査ならびに咽頭のA群連鎖球菌抗原検査も汎用されているが,偽陰性,偽陽性の可能性もあるので,あくまでも補助診断として用いることが勧められる.
合併症
 A群連鎖球菌感染症罹患後の非感染性の合併症として,急性リウマチ熱【⇨10-19-2)】と急性糸球体腎炎【⇨11-3-2)】がある.
1)急性リウマチ熱:
A群連鎖球菌による上気道感染後1~5週間の潜伏期を経て発症する非感染性炎症性疾患.学童期以前の時期に好発.Jonesの診断基準として,①大症状(心炎,多発関節炎,小舞踏病,輪状紅斑,皮下結節),②小症状(臨床所見(関節痛,発熱),検査所見(急性期炎症反応上昇,心電図上PR時間延長)),③先行するA群連鎖球菌感染症の証明(咽頭培養陽性もしくはA群連鎖球菌抗原迅速検査陽性,連鎖球菌に関する抗体価の上昇)といった項目がある.③を前提として,①2項目もしくは[①1項目+②2項目]であるならば,急性リウマチ熱の可能性が高いと診断する.治療については重症度によって,鎮痛薬,アスピリン,ステロイドを用いる.また,再発予防のためにペニシリン長期投与をすることが多い.
2)急性糸球体腎炎:
A群連鎖球菌による上気道感染後10日程度もしくは膿痂疹罹患後3週間程度経ってから発症する疾患.学童期以前から学童期初期に好発.特徴としては浮腫(特に顔面や眼窩周囲),高血圧,血尿が認められる.循環動態に関する治療が必要とはなるが,降圧薬まで必要なことは少ない.ペニシリン投与は勧められるが,急性リウマチ熱ほど長期間には勧められていない.
治療
 膿瘍,感染を起こした壊死組織,人工装置関連感染症の場合には,抗菌薬を投与したとしても病巣まで到達しないため,物理的に感染巣を取り去ることが基本となる.膿瘍に対しては切開排膿やドレナージ,壊死組織に対してはデブリドマン,人工装置関連感染症に関しては人工装置の抜去が基本となり,それに加えて化学的に感染巣を取り去る抗菌薬投与が必要となる.髄膜炎患者に投与する場合には,1回投与量を増やしたり,投与頻度を多くする必要が出てくる. 抗菌薬の選択は,肺炎球菌を含めて連鎖球菌の場合は静注ではベンジルペニシリンが第一選択となり,経口ではアミノペニシリン系薬が第一選択となる. 肺炎球菌については,わが国の肺炎球菌の約8割はマクロライド系薬耐性であるため,感受性結果が出ていない場面で肺炎球菌を標的としたマクロライド系薬投与は危険である.また,髄膜炎における起因菌が肺炎球菌と予想されるものの感受性結果が出ていない場合や,起因菌がPRSPの場合には,第3世代セフェム系薬の[セフトリアキソンまたはセフォタキシム]+バンコマイシンが第一選択となる. 連鎖球菌による感染性心内膜炎の場合には,ベンジルペニシリンに加えて相乗効果を狙って低用量のアミノグリコシド系薬を併用することも多い. TSSや劇症型の感染症の治療の際には,毒素産生を抑える目的でクリンダマイシンを投与するのが一般的である.免疫グロブリンを投与することもある.
 腸球菌に対してセフェム系薬が無効であることは重要である.E. faecalisの場合にはペニシリンやアンピシリンに感性,E. faeciumの場合にはペニシリンやアンピシリン耐性のことが多い.ペニシリンやアンピシリンに感性のときにはアンピシリンが第一選択となり,耐性のときにはバンコマイシンが第一選択となる.また,心内膜炎の場合には,アミノグリコシド系薬に対する高度耐性の有無を検査し,高度耐性がなければ低用量のアミノグリコシド系薬を併用する.高度耐性のある場合には,治療に難渋することが予想される. また,バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterocci:VRE)による感染症の場合には,リネゾリドが第一選択となる.
予防
 A群連鎖球菌の咽頭炎,猩紅熱,肺炎,重症な侵襲性疾患の場合には,効果的な治療開始後24時間を経過するまで飛沫予防策が推奨されている. B群連鎖球菌が膣で保菌されているかについては,妊娠33~37週に検査することがわが国の産科のガイドラインにおいて勧められている.前児がGBS感染症の既往,GBS陽性妊婦,GBS保菌状態不明妊婦の場合には,経腟分娩中あるいは前期破水後,ペニシリン系薬剤静注による母子感染予防を行う. 肺炎球菌ワクチンについては,2歳以上で以下の場合に,肺炎球菌多糖体ワクチンが勧められている.高齢者,脾臓摘出の手術歴,脾臓機能不全,心疾患・呼吸器疾患の慢性疾患,腎不全,肝機能障害,糖尿病,慢性髄液漏などの基礎疾患,免疫抑制の治療を予定されている患者.また,2歳以下の小児向けの肺炎球菌結合型ワクチンについては,定期接種化の方向で検討が進んでいる. VREは院内感染対策上最も警戒すべき病原体の1つである.接触予防策を行い,個室管理を原則とし,入室時からの手袋,ガウンの着用,物品の専有化などの対策を取る.感染症法上における全数把握五類感染症にあたり,発症例の場合には保健所への届出が必要となる.[松永直久]
■文献
東山康仁,河野 茂: グラム陽性球菌感染症. 内科学 第9版(杉本恒明,矢崎義雄編),朝倉書店,東京,2007.
Mandell GL, et al eds: Principles and Practice of Infectious Diseases 7th ed, Churchill Livingstone Elsevier, Philadelphia, 2009.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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