伝染性膿痂疹(読み)でんせんせいのうかしん(とびひ)(英語表記)Impetigo contagiosa

六訂版 家庭医学大全科 「伝染性膿痂疹」の解説

伝染性膿痂疹(とびひ)
でんせんせいのうかしん(とびひ)
Impetigo contagiosa
(皮膚の病気)

どんな病気か

 黄色ブドウ球菌あるいは連鎖(れんさ)球菌が皮膚の浅い部分に感染し、水疱(すいほう)あるいは膿疱(のうほう)をつくる化膿性の病気です。黄色ブドウ球菌が原因の時は水疱ができるので、水疱性膿痂疹(ブドウ球菌性膿痂疹)と呼ばれ、連鎖球菌が原因の時(黄色ブドウ球菌との混合感染のことも多い)は膿疱や厚い痂皮(かひ)(かさぶた)ができるので、非水疱性あるいは痂皮性膿痂疹(連鎖球菌性膿痂疹)と呼ばれています。

 膿痂疹は、細菌で起こる皮膚の病気のなかで最も多い病気です。水疱性(すいほうせい)膿痂疹は0~6歳の乳幼児に多く、主に夏季に発生します。痂皮性膿痂疹は水疱性膿痂疹よりかなり少なく、季節や年齢に関係なく発症しますが、アトピー性皮膚炎をもつ人にできやすい傾向があります。

原因は何か

 水疱性膿痂疹は、虫刺されや擦り傷など皮膚の浅くて小さい傷に黄色ブドウ球菌が感染し、菌がつくる表皮剥脱毒素(ひょうひはくだつどくそ)という毒素によって皮膚の浅いところに水疱ができます。痂皮性膿痂疹は、主にA群β(ベータ)溶血性連鎖球菌(化膿連鎖球菌)が感染して発症しますが、その毒素がどのように関与しているのかは不明です。

症状の現れ方

 水疱性膿痂疹(図46)は、虫刺され、湿疹などの引っかき傷、あるいは小さいけがなどのところに膜の薄い水疱ができます。水疱内の液は次第にうみのように濁って、簡単に破れてただれた皮膚(びらん)となり、すぐに痂皮ができて手でかいているうちに周辺だけでなく他の部分にも広がり、“飛び火”してゆきます。軽いかゆみがありますが、熱は出ません。

 痂皮性膿痂疹(図47)は、季節や年齢に関係なく発症します。小さい水疱あるいは膿疱で始まり、すぐに黄色っぽい痂皮となって、これらが次々と急速に広がります。膿疱や痂皮の周囲では最初から赤みが強く、全身の熱が出てのども痛く、病変の近くのリンパ節もしばしばはれます。

 いずれの膿痂疹も、顔や四肢など露出部にできることが多く、口のなかなど粘膜にはできません。手・足では角質層が厚いので、膿痂疹の水疱膜がしっかりして張り切った大きな水疱・膿疱となります。これを(しゅ)(そく)部水疱性膿皮症(ぶすいほうせいのうひしょう)と呼びます(図48)。

検査と診断

 破れていない水疱や膿疱の内溶液を培養すると、黄色ブドウ球菌あるいは化膿連鎖球菌を検出できます。痂皮性膿痂疹では、血液検査で白血球数が増え、CRP(体のどこかに炎症があると血液中に出てくる蛋白質の一種)陽性となり、連鎖球菌に対する抗体(ASO・ASK)が上昇することがあります。また、糸球体腎炎を合併することがありますから、検尿などの検査も必要です。

 膿痂疹の診断は比較的簡単ですが、他の水疱ができる病気(虫刺され、接触皮膚炎水痘(すいとう)みずぼうそう)、カポジ水痘様発疹症(すいとうようほっしんしょう)天疱瘡(てんぽうそう)類天疱瘡(るいてんぽうそう)など)と間違えられることがありますので、治りにくい場合には皮膚科専門医の診断を受けることが大切です。

治療の方法

 水疱性膿痂疹では、黄色ブドウ球菌によく効く抗菌薬を3~4日間内服します。痂皮性膿痂疹では、ペニシリン系薬の内服が最も効果的ですが、黄色ブドウ球菌との混合感染も考えて内服薬を選びます。

 水疱内の液やびらん部の分泌液がまわりの皮膚に付かないよう、水疱は内容液を抜いてから、痂皮やびらん部には、抗生剤の軟膏(かゆみがあれば軽めの副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイド薬の軟膏でもよい)を塗り、その上にリント布に厚く伸ばした亜鉛華(あえんか)軟膏を貼って包帯をします。乾いてくれば抗生剤の軟膏(または副腎皮質ステロイド薬の軟膏)だけにして亜鉛化軟膏は中止しますが、痂皮が取れるまで治療を続けます。

 膿痂疹が治るまでは、風呂よりシャワー浴のほうがよく、痂皮や分泌物をよく洗い落とし、そのあとで軟膏療法を繰り返します。痂皮性膿痂疹の場合は、糸球体腎炎の合併を予防するために、よくなってもさらに約10日間は内服を続けます。

病気に気づいたらどうする

 湿疹・あせも・虫刺され・ちょっとした傷などができた時は、膿痂疹にならないように、これらを早めに治療しましょう。夏には汗をかいたままにしないようシャワー浴を心がけ、爪を短く切っておくよう注意します。

 膿痂疹ができてしまったら、数が少ないうちに専門医で治療を受けましょう。

多田 讓治



伝染性膿痂疹(とびひ)
でんせんせいのうかしん(とびひ)
Impetigo contagiosa
(子どもの病気)

どんな病気か

 黄色ブドウ球菌あるいは連鎖(れんさ)球菌による皮膚の感染症です。「とびひ」とも呼ばれ、接触によって感染します。

症状の現れ方

 伝染性膿痂疹は2種類に分けられ、ひとつは水疱(すいほう)みずぶくれ)を生じ、びらんをつくる水疱性膿痂疹、もうひとつは炎症が強く痂皮(かひ)(かさぶた)が厚く付く痂皮性膿痂疹です。

 水疱性膿痂疹は、初夏から初秋に多くみられ、乳幼児・小児に好発します。虫刺されや湿疹病変、すり傷などから発症し、小さな水疱ができて次第に紅斑を伴ってきます。水疱は破れてびらんとなり、離れた部位にも伝搬(でんぱん)します。黄色ブドウ球菌が原因です。

 痂皮性膿痂疹は、季節に関係なく発症し、小児より成人に多くみられます。小さな水疱に始まり、膿疱(のうほう)とびらんを生じ、厚い痂皮へと変化していきます。発熱、リンパ節のはれ、時に咽頭痛など全身症状を伴うこともあります。

 また、アトピー性皮膚炎に合併する場合は激烈な症状を示すことがあります。原因としては連鎖球菌によるものが多いといわれています。まれに後遺症として腎炎を起こす可能性があります。

治療の方法

 ペニシリン系やセフェム系の抗菌薬を内服します。有効であれば急速に改善しますが、水疱性膿痂疹の場合は軽快後も2~3日間は再発しないように内服します。痂皮性膿痂疹では腎炎の発症予防のために10~14日間の内服が必要になります。

 抗菌薬を含有する塗り薬が有効な場合があります。抗菌薬の内服を行う場合では、亜鉛華(あえんか)軟膏などを貼ってガーゼでおおうことで、ほかへの伝搬を防ぐよう努めます。入浴は制限せず、泡立てた石鹸で病変部をこすらずにていねいに洗い流します。

病気に気づいたらどうする

 抗菌薬の内服が治療の基本なので、皮膚科または小児科を受診します。他の園児学童にうつす可能性があるため、露出部に病変がある場合はガーゼなどでおおった状態で登園・登校してください。

安元 慎一郎

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「伝染性膿痂疹」の解説

でんせんせいのうかしんとびひ【伝染性膿痂疹(とびひ) Impetigo Contagiosa】

[どんな病気か]
 皮膚の表面に黄色(おうしょく)ブドウ球菌(きゅうきん)が感染しておこる病気です。夏に幼小児がかかる代表的な皮膚の細菌感染症で、成人がかかることはまれです。すぐに破れる薄い水疱(すいほう)がからだのあちこちにできます。
 この水疱(水ぶくれ)は、黄色ブドウ球菌がもつ表皮をはがす毒素(ET、Exfoliative Toxin)によってできます。水疱の中や、破れた水疱の表面(びらん面)、痂皮(かひ)(かさぶた)には、多数の黄色ブドウ球菌がいるため、そこからつぎつぎととんだように感染してゆくので、とびひの名前があります。
 日本のとびひは、ほとんど黄色ブドウ球菌による水疱性膿痂疹(すいほうせいのうかしん)です。
 少数例ですが、季節に関係なく、赤みから始まり、膿(うみ)や黄褐色痂皮ができ、痛みがあり、圧迫により膿汁(のうじゅう)を出す痂皮性膿痂疹(かひせいのうかしん)もあります。ひどい場合は発熱をともないます。これは化膿(かのう)レンサ球菌の感染によるものです。
 成人にもみられることがありますが、多くはおとなのアトピー性皮膚炎に発症する場合です。
[治療]
 とびひのできた部位をよく消毒し、抗生物質の軟膏(なんこう)を塗ります。かなりたくさんできているとき、あるいはつぎつぎと新しい皮疹(ひしん)ができるときには、黄色ブドウ球菌、化膿レンサ球菌に効く抗生物質を内服します。
 鼻腔(びくう)に常在する黄色ブドウ球菌が原因で、鼻腔周囲にとびひがあるときは鼻腔にも軟膏を塗ります。かゆみがあるときは、かゆみ止めも内服します。
 化膿レンサ球菌が原因の場合には、抗生物質の内服が必要となります。
 日常生活では、皮膚を清潔に保つことを心がけます。手洗いを励行し、爪を短く切り、まめにシャワー浴するようにします。これらは自分のとびひの治療に役立つだけでなく、他人にうつさないためにも有効です。

出典 小学館家庭医学館について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「伝染性膿痂疹」の意味・わかりやすい解説

伝染性膿痂疹
でんせんせいのうかしん

化膿(かのう)菌が表皮内に感染して、浅い水疱(すいほう)、膿疱、びらん、痂皮(かひ)(かさぶた)を生ずる皮膚疾患。黄色ブドウ球菌によるものは水疱を主症状とし水疱性膿痂疹、また連鎖球菌によるものは痂皮を主症状とし痂皮性膿痂疹とよぶこともある。水疱性膿痂疹は、夏季に幼小児に多く、顔、手足をはじめ全身至る所の皮膚にできる。最初はエンドウ豆大の水疱を生じ、かゆみがあり、まもなく膿疱になるが、水疱は破れやすく、破れると赤いびらん面となり、また薄い痂皮をつくる。年少の幼児ほど大きな水疱をつくる傾向がある。水疱の内容液やびらん面の滲出液が皮膚につくと新しい水疱を生じ、また他人にも伝染して広がるところから俗に「とびひ」とよばれる。痂皮性膿痂疹は、顔や手足など衣類から露出している部分の皮膚に、季節や年齢を問わず発症する。最初は中央に膿(うみ)をもった紅斑(こうはん)や丘疹が生じ、やがて黄褐色の厚い痂皮をつくり広がってゆく。痂皮の周囲には赤い炎症がみられ、痂皮の下の分泌物が皮膚につくと伝染する。リンパ節が腫(は)れることが多く、小児では腎炎(じんえん)(膿痂疹腎炎)をおこすことがあるので、早期治療が望ましい。

 治療としては、病変部の分泌液が周囲の皮膚につかないように注意し、抗生物質軟膏(なんこう)をガーゼに伸ばして病変部を覆ってしまうように貼(は)る。また抗生物質の内服を併用する。伝染性膿痂疹は、湿疹、虫さされ、小外傷などに化膿菌が感染して生ずることが多く、またかゆみのためにひっかいて悪化することが多いので、ことに夏にはこれらの皮膚病を早く治療しておくことや、日ごろから皮膚の清潔、衛生に注意することがたいせつである。

[野波英一郎]

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百科事典マイペディア 「伝染性膿痂疹」の意味・わかりやすい解説

伝染性膿痂疹【でんせんせいのうかしん】

とびひ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「伝染性膿痂疹」の意味・わかりやすい解説

伝染性膿痂疹
でんせんせいのうかしん

とびひ」のページをご覧ください。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の伝染性膿痂疹の言及

【飛火】より

…化膿菌とくに黄色ブドウ球菌の感染による膿皮症の一種。高温多湿の季節に,おもに乳幼児にみられ,水泡性膿痂疹または伝染性膿痂疹ともよばれる。顔面,軀幹,四肢など全身の一見健康な皮膚面に,突然大小いろいろな水泡がつぎつぎに生じ,すぐに破れて糜爛(びらん)面となり痂皮(かさぶた)がつく。…

※「伝染性膿痂疹」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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