日本大百科全書(ニッポニカ) 「過越祭」の意味・わかりやすい解説
過越祭
すぎこしのまつり
pesah. ヘブライ語
passover 英語
「種(たね)入れぬパンの祭り」ともいい、ユダヤ教の三大祭の一つ。春分後に祝われる。『旧約聖書』は、この祭りの起源を、モーセに導かれたイスラエル民族のエジプト脱出前夜と結び付け(「出エジプト記」12章ほか)、奴隷状態にあった民族の苦しみと、出エジプトによる自由と解放を想起し、感謝を捧(ささ)げる日と定めている(同13章ほか)。今日でもユダヤ教徒はニサンの月(3~4月)の13日の日没とともに家中のパン種を除いて火で焼き、14日から21日まで種入れぬパンを食す。晩餐(ばんさん)には家族が集い、出エジプトとその後の民族の艱難(かんなん)時代を象徴する食物をとって歴史をしのび、賛美の詩篇(しへん)を唱和して解放と自由の祭りを祝う。「過越」の語は「悪霊が小羊の血を戸口と鴨居(かもい)に塗った家を過ぎ越して行った」という聖書の記事によって明らかだが、同時にこれは種入れぬパンを食す期間でもある。これは起源的には、前者が春先に動物の群れが移動を開始する前に、遊牧民の間で行われていた小羊の血による魔除(まよ)けの儀式をさす。後者は春分のころ豊作を祈願してパレスチナの農民の間で行われていた実りに有害な古い酵母菌を取り除く行事、除酵祭である。この両者の祭儀が結合して古代イスラエルに受け継がれ、さらにこれが出エジプトという民族の歴史的門出の記念行事に結び付けられて、独特の祭りとなったものと説明されよう。
[秋輝雄]