日本大百科全書(ニッポニカ) 「過酸化ベンゾイル」の意味・わかりやすい解説
過酸化ベンゾイル
かさんかべんぞいる
benzoyl peroxide
有機過酸化物の一つで、いわゆる過酸化物結合、すなわちO‐O結合に、2個のベンゾイル基が結合したもの。正しくは過酸化ジベンゾイルdibenzoyl peroxideであるが、慣用的にこのようによばれる。塩化ベンゾイルと過酸化水素からアルカリ存在下で製造する。白色結晶で、結晶のままあるいは濃い溶液を加熱すると急速に分解して爆発する。水に溶けず、アルコールにも溶けにくいが、クロロホルムやジクロロメタンにはよく溶ける。この薄い溶液を加熱すると活性の高いフリーラジカルを発生するので、スチレンや酢酸ビニルなどのビニル単量体のラジカル重合の開始剤として、プラスチック工業で広く用いられる。
過酸化ベンゾイルを分解すると、まず過酸化物結合が開裂して、ラジカル(C6H5)2C(=O)O・が2個生成し、これらはたとえばビニル単量体に付加するが、その過程で競争して、このラジカルはさらに二酸化炭素を放出、分解して、フェニラジカルC6H5・を生成する。前者のラジカルはその800ナノメートル付近の近赤外部における過渡吸収(短寿命の化学種が短い寿命の間に示す吸収)と電子スピン共鳴により、後者のラジカルは電子スピン共鳴により観測することができる。
過安息香酸(ペルオキシ安息香酸)は過酸化ベンゾイルから得られる過酸化物で、過酸化水素の1個の水素原子をベンゾイル基で置換した構造である。酸化力に富み、アルケンに酸素原子1個を与えてエポキシド(オキシラン)とする。吸湿性に富み、特有の刺激臭を呈する。試薬としては扱いやすく安定な3-クロロ過安息香酸あるいはm-クロロ過安息香酸が利用される。合成反応や二重結合の定量に用いられる。結晶のまま、あるいは濃い溶液を加熱すると分解する。多くの有機溶媒に溶ける。なおエポキシドは反応性に富み、各種合成中間体に利用される。
[徳丸克己]
過酸化ベンゾイル(データノート2)
かさんかべんぞいるでーたのーと
過酸化ベンゾイル/過安息香酸
分子式 C7H6O3
分子量 138.1
融点 41.3~42℃
沸点 97~100℃/13~15mmHg
過酸化ベンゾイル(データノート1)
かさんかべんぞいるでーたのーと
過酸化ベンゾイル
分子式 C14H10O4
分子量 242.2
融点 105℃
沸点 ―
爆発点 110℃