適応制御(読み)テキオウセイギョ(英語表記)adaptive control

デジタル大辞泉 「適応制御」の意味・読み・例文・類語

てきおう‐せいぎょ【適応制御】

制御する対象変化に応じて、制御装置を自動的に変化させて制御する方式

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改訂新版 世界大百科事典 「適応制御」の意味・わかりやすい解説

適応制御 (てきおうせいぎょ)
adaptive control

自動制御の一つ。自動制御において,制御される対象物(制御対象とかプラントという)の運動特性は微分方程式とか伝達関数で表される。自動制御系は,プラントの周りにコントローラーを設備して,閉ループ-フィードバック系を構成したものであって,自動制御系を設計することは,この閉ループ系がある希望した性質を持つようにコントローラーを算出することである。閉ループ系の持つべき性質を列挙したものを設計仕様という。設計仕様を満足することは,閉ループ系がある希望する伝達関数を持つということと等価であり,自動制御系を設計することは,プラントの伝達関数と閉ループ系が持つべき希望伝達関数が与えられて,コントローラーを算出することである。しかし,実際にはプラントの伝達関数のパラメーターがよくわからないとか,運転中に変動することがある。このときには,コントローラーの方にも調節可能なパラメーターを持たせ,閉ループ系の運動特性が漸近的に希望伝達関数に一致するように,コントローラーの調節可能なパラメーターを自動的に調節する制御系を構成しなければならない。これを適応制御という。すなわち,適応制御系は,普通の自動制御系のようにフィードバック制御をすると同時に,自分自身内のコントローラーのパラメーターをも常時調節するものをいい,コントローラーのパラメーターを調節する動作のことを適応動作という。適応制御は,自動制御系の設計を自動的に行う自動設計とみなすことができる。理論的にいえば,適応機能を持った汎用のコントローラーを持っていれば,どんな未知のプラントも自動的に良い(その意味は,閉ループ系の運動特性が希望伝達関数に一致する)制御ができることになり,プラントを建設したときに行われるべき自動制御のための試運転なしに,いきなり正式運転に入れることになる。

 コントローラーのパラメーターは,ある数学的理論にもとづいて調節される。その数学的関係式を適応法則という。適応法則で最も重要なのは,適応制御系全体が安定に制御されることである。適応制御の試みは古くから行われてきたが,適応制御系全体の安定性が確保される適応法則を得るための理論は1974年にモノポリR.V.Monopoliによって見いだされたのであり,適応制御はまだ盛んに実用されるという段階に至っていない。適応法則で次に重要なことは,コントローラーのパラメーターが,すみやかに真の値(真の値は当然未知である)に収束するということである。いまのところ,適応制御系全体の安定性を確保するのがやっとであり,パラメーターの収束速度を意のままに変える適応法則はまだ研究段階にある。

 プラントには,入出力がそれぞれ1個という簡単なスカラー系から,これらが多数ある複雑な多変数系まである。スカラー系に対する適応法則の設計法をうまく拡張発展させれば,多変数の適応制御も可能である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「適応制御」の意味・わかりやすい解説

適応制御
てきおうせいぎょ

制御する対象の変化に応じて制御系自らの構造、機能あるいは動作点を積極的にかえることのできる制御をいう。適応制御には二つの大きな機能がある。まず第一は対象の変化を把握することで、同定アイデンティフィケーション)とよばれる。対象系から得られる情報に応じて物理・化学法則に基づいた確定的方法や、統計的な方法で対象の数学的モデルがつくられる。第二の機能は、対象がこのモデルで表現されるとして、所定の目的である評価関数を最大化するように制御系を動かす最適化制御の実行である。最適化の方法としては、数理計画法で用いられる変分法、線形計画法、ダイナミック・プログラミング、勾配(こうばい)法などが用いられている。最近では計装での調節計として広範囲に用いられるPIDコントローラーにも制御対象の変化に応じて制御パラメーターを変化させるオートチューニング機能が付加されたものがある。これも一つの適応制御系といえるものである。

[立花康夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「適応制御」の意味・わかりやすい解説

適応制御
てきおうせいぎょ
adaptive control

普通の制御系では制御装置やその中のパラメータ値が固定されている。このような制御系では目標値の大きな変化,負荷や外乱の性質の変化,制御対象の変更,制御性能に対する要求の変更など,周囲環境条件の変化があった場合に適切な対応ができない。そこで,ある程度の環境変化に対応できるような機能をもった方式が考えられ,適応制御と呼ばれている。適応制御系では,上記のような環境条件の変化を検出する装置,環境条件に応じた制御系のよさを判定する基準 (設計基準) ,およびその基準に照して制御装置の構造やパラメータを変更するアルゴリズムがそなわっていなければならない。パラメータ摂動法,モデル参照法,感度関数法などがある。

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世界大百科事典(旧版)内の適応制御の言及

【自動操舵装置】より

…神経質に舵を取ると,それによって抵抗が増加し速力低下,あるいは燃料消費の増大をもたらすことになる。 最近では,このような運航の局面に合わせて舵の取り方をかえる,あるいは外乱の状況に合わせて制御方式をかえる適応制御の考え方がとり入れられるようになっている。さらに,航路計画,位置測定,針路修正,衝突回避など自動操舵に関連する諸機能を総合した自動操縦システムへと進みつつある。…

※「適応制御」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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