日本大百科全書(ニッポニカ) 「遺伝子検査ビジネス」の意味・わかりやすい解説
遺伝子検査ビジネス
いでんしけんさびじねす
ヒトより採取した血液や唾液(だえき)、口腔粘膜(こうくうねんまく)、毛髪、爪(つめ)などの検体を使い、遺伝子解析によって遺伝的な疾病罹患(りかん)リスク、体質、才能、性格などを検査し、リスクの程度や体質の傾向といった情報を一般消費者向けに提供する事業。DTC(direct to consumer、消費者直接販売型)遺伝子検査、消費者向け遺伝子検査、遺伝子検査、遺伝子ビジネスなどの名称でもよばれている。遺伝子解析の検査は、ヒト遺伝学的検査(生殖細胞系列遺伝子検査)とよばれているもので、個人ごとの遺伝子を調べ、これまで報告されている情報に基づき、検体と同じ範疇(はんちゅう)に分類される遺伝子の疾病リスクや体質などから判定されている。母体血を用いた出生前遺伝学的検査(出生前診断、NIPT:non-invasive prenatal genetic testing)に用いられる検査もこの検査の一つで、糖尿病や痛風などの疾病罹患リスク、太りやすさ、肌や髪の質、長寿などの体質、知能、音楽、記憶力などの才能、楽観性や社交性などの性格といった要素を判定することも可能である。
このような遺伝子検査ビジネスの業態にはおもに三つの種類がある。(1)検査サービスを提供する事業者が、検査の受付から遺伝子解析、結果報告までを一環して提供する、もしくは遺伝子解析だけを委託する。(2)エステティックサロンやスポーツクラブ、薬局や整体院、インターネットサイト運営会社などが、自社のサービス利用と組み合わせて遺伝子検査を取次店として行う。(3)病院、歯科医院、健康診断センターなどの医療機関が利用者からの申込みを受け、検査サービス提供事業者などへ取り次いで実施する。これらの事業者から遺伝子解析の検査だけを請け負っているところを受託解析会社という。日本国内で検査を依頼しても、海外の受託解析会社に検査だけが依頼されている場合が多いともいわれている。
2013年、アメリカの女優が遺伝性の乳癌(がん)や卵巣癌の発症リスクに関する遺伝子検査の結果から、両乳腺(にゅうせん)切除手術を受けたことを公表し、これをきっかけに予防的治療のための遺伝子検査に国際的な注目が集まった。インターネットで販売される検査キットを利用する検査だけで解析できる疾病リスクが多いことや、手続きや試料の採取が簡単なため、遺伝子検査ビジネスは世界的に急成長を遂げている。その一方、判定の基準となっているのは海外の学術論文や検査結果がおもで、日本人に対する判定材料の蓄積はまだ少ないという現実もある。また、遺伝子検査は日進月歩の発展途上段階にあるのが実態で、消費者の理解も十分ではなく、予見された結果や倫理面に関する深刻な問題が生じることが懸念される。
経済産業省が2014年(平成26)4月に公表した調査報告では、法的な規制が遺伝子検査の進歩を妨げかねないと指摘。当面はNPO法人の個人遺伝情報取扱協議会が定めた自主基準を徹底しながら、事業者の自主性に任せ、着実に検査の質を担保する国際的な認証規格の取得などへつなげていくべき時期にあるとして、法的な規制等は見送られている。
[編集部]