占有者の意思に基づかないでその所持を離れた物、いわゆる落し物のこと。その取扱いについては、民法(240条・241条)のほか、遺失物法に詳細な規定が設けられている。なお、漂流物、沈没品も同じようなものであるが、その拾得については水難救助法が適用される。
まず、落し物を拾った人は、落し主に返すか、警察に届け出なければならない。拾った場所が他人の家、汽車、船の中などであれば家主、車掌、船長などに届け出る。それをしないで、かってに自分の物として使ったり売ったりすると遺失物横領となり処罪される(刑法254条)。
届け出を受けると警察は公告をして、3か月以内に落し主が現れなかった場合、遺失物を拾った人がその所有権を取得する(民法240条)。車内や船内などで拾った場合も同様である。ただし、拾い主が拾った日から7日以内(車内・船内などの場合は24時間以内)に届け出なかった場合にはこの権利を失う(遺失物法34条)。また、3か月たって拾い主に所有権が生じてからも、2か月以内に遺失物をとりに行かないと、その所有権を失うことになる(民法240条・241条、遺失物法36条)。落し主が現れた場合には、拾い主はこれに対して100分の5以上、100分の20以下の報労金(謝礼)を請求できる(遺失物法28条以下)。その額については前記の範囲内で落し主が自由に決めることになるが、具体的な事情を考慮に入れて妥当な線を客観的に決めることが望ましい。しかし、小切手など権利を表象しているにすぎない物や貯金通帳、定期券などの拾い主に対する報労金をいくらにするかに関しては問題が多い。宝くじを拾った者もその所有権を取得すれば、自分で購入した場合と同じように当籤(とうせん)金の支払いを受けることができる。なお、遺失物法では、誤って占有した他人の物、他人の置き去った物、埋蔵物、逸走した家畜なども遺失物に準じて扱うことにしている(遺失物法2条1項)。
[高橋康之・野澤正充]
落し物,忘れ物など,占有者の意思によらないでその所持を離れた物。遺失物は所有者,遺失主に返還されるべきであり,遺失物法(1899公布)が民法240条にもとづく特別法として,そのための手続を定めている。同法によれば,他人の遺失物を拾得した者は,遺失主または所有者に返還するか,警察署長に差し出さねばならない。電車,建物などの中で拾得したときはそれを管理する者を経由して差し出される。警察署長は返還を受けるべき者に返還し,その氏名・居所がわからなければ公告をする。遺失主または所有者が現れればその者に返還される。返還を受けた者は拾得者に,物の価格の5~20%を報労金として支払わねばならない。もっとも,同法による公告がなされ,6ヵ月が経過しても所有者が現れない場合は拾得者がその所有権を取得するとされる(民法240条)。ただし,拾得者が拾得の日から7日以内に警察署長に届出をしないとき,または所有権取得の日から2ヵ月以内に物件を引き取らないときは所有権を失う。以上の手続を踏まず,拾得者が不法に遺失物の占有を取得した場合には,遺失物横領罪に問われ,1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料に処せられる(刑法254条)。なお,所有者が所有権放棄の意思の下で放置した物(無主物という)は遺失物ではなく,もちろん,これを取り込んでも本罪は成立しない(民法239条参照)。なお,他人から動産を買った場合,それが遺失物(および盗品)であることが判明した場合は,遺失主からの返還請求に,2年間は応じなければならない。ただしその場合でも,商人から買ったのであれば,遺失主に代価弁償を請求しうる(民法193条,194条)。
執筆者:安永 正昭
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