簡単で確実な送金および債権債務の決算手段を提供する郵政事業。郵便振替制度は、1883年にオーストリアで創設された。日本では1906年(明治39)3月1日から取扱いが開始された。
郵便振替は、郵便振替口座を有する加入者と、加入者以外との間、あるいは加入者相互間における送金および債権債務の決済の手段として利用されている。その利用法から、大きく3つに分けられる。
(1)払込み 加入者以外の者が、加入者の口座に払い込むことによって、送金、債務の弁済を行うもので、自分の口座へ払い込むこともできる。払込みについての郵便局相互間の通知を郵便で行う通常払込みと、通知書を電信(オンライン)で行う電信払込みがある。1982年(昭和57)6月から、電気、ガス、水道料金などの公共料金を、支払人の通常郵便貯金から自動的に事業者の口座に払い込む自動払込み制度が開設された。この取扱いは、その後大幅に拡大されている。
(2)振替 加入者相互間の、一方の口座から他の口座に預り金を振り替えることによって送金したり、債務の弁済を行うもの。これにも通常振替と電信振替がある。公共料金をはじめ、債務の弁済などを自動的に加入者の口座から事業者の口座への振替を定期的に行う定期継続振替制度もある。現金の授受を伴わず簡便で、他の送金方法に比べて料金も低廉である。
(3)払出し 加入者が、口座をもたない人に送金したり、債務の弁済をしたりするもの。払出しには、振替と同様に通常現金払と電信現金払があり、また小切手払(振替小切手による払出し)や、株式の配当金など定期的に多数の送金を行うための簡易払いの制度がある。
1983年7月、郵便振替の払出金を、相手方の通常貯金に預入(よにゅう)する自動払出預入、つまり自動受取の取扱いが開始された。さらに92年(平成4)3月には、郵便振替自動支払機(APM)による郵便振替通常払込みの取扱いが開始された。その後、国税の口座振替制度、電波利用料の口座振替納付、振替端末機を利用した電信振替、払込専用カードを利用した電信払込みの取扱いも開始されている。
郵便振替口座の開設は、郵便局で加入の申込みを行うと、郵便振替の口座を所管する貯金事務センターで承認のうえ、口座番号が通知される。
郵便振替制度が開設されたのは、現金による貸借の決済をしていたいわゆる貨幣経済時代から、現金の授受を行わない、帳簿上の操作によって決済を行う信用経済時代に対応した決済手段への移行ともいえる。この制度には、国内のみでなく外国にまでその取扱範囲を広げた国際郵便振替制度もある。
[金好次郎・小林正義]
郵便為替口座を仲介とした送金および債権債務の決済方法。地方貯金局に加入者が口座を設け,(1)払込人が加入者の口座へ資金を払い込む,(2)加入者の口座から他の口座へ預り金の振替を行う,(3)加入者の口座から預り金を払い出し受取人に引き渡す,という三つの利用態様がある。
歴史的には,振替預金Giroguthabenの存在を前提として,現金の授受ではなく,その預金の帳簿上の付替えによって支払取引を決済させるという,ドイツを中心としてヨーロッパ大陸で発達した振替制度Giroverkehrを模範とする制度。最初に国営の郵便為替制度を導入したのはオーストリアであり,1883年に郵便小切手および振替計算制度という名称で発足した。機能的には銀行の当座預金とほとんど同じであるため,他のヨーロッパ諸国では銀行の反対から郵便為替制度の採用は遅れ,日本は1906年下村宏(号,海南,1875-1957)等の努力により,オーストリア,スイスに次ぎ世界で3番目にこの制度を導入した。当初は,郵便為替貯金という名称で郵便貯金の一種として発足し,送金や決済後の口座の残高に対しては利子が付された。第2次大戦後,郵便貯金法から独立して郵便為替貯金法(1948公布)が制定され,その後これは66年に口座残高への付利が廃止されると同時に,郵便為替法に改称された。
払込み,振替,払出しに当たっては,郵便局窓口からの郵便あるいは電信による通知をそのつど行うことが原則であるが,公共料金を継続して支払う加入者に対してはそうした通知を行う手間を省くことができる定期継続振替制度が1965年に設けられた。さらに郵便振替口座間だけの振替ではなく,通常郵便貯金から公共料金などを定期的に収納事業者の郵便振替口座に振り替える自動振替制度が82年6月から創設された。
執筆者:安井 肇
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