酸化バナジウム(読み)さんかバナジウム(英語表記)vanadium oxide

改訂新版 世界大百科事典 「酸化バナジウム」の意味・わかりやすい解説

酸化バナジウム (さんかバナジウム)
vanadium oxide

酸化数Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴの化合物がある。

化学式VO。金属バナジウムと酸化バナジウム(Ⅲ)V2O3の計算量混合物を真空中1200~1600℃で長時間加熱して得られる灰色粉末比重5.76。空気中で熱すると融解せず燃える。水に不溶,酸に可溶

化学式V2O3。酸化バナジウム(Ⅴ)V2O5水素気流中約600℃で還元して得られる黒色粉末。比重4.87(18℃),融点1970℃。酸,アルカリに溶ける。電導性がある。

化学式VO2。酸化バナジウム(Ⅲ)V2O3と酸化バナジウム(Ⅴ)V2O5の計算量混合物を真空中で長時間熱して得られる暗青色粉末。比重4.34,融点1967℃。

化学式V2O5。メタバナジン酸アンモニウムNH4VO3を300~330℃でゆっくりと加熱分解して得られる赤色晶粉。比重3.36,融点690℃,1750℃で分解。水にわずかに溶け,水溶液は淡黄色で酸性を示す。酸には溶けにくいが,アルカリにはよく溶け,バナジン酸塩をつくる。エチルアルコールに不溶。塩酸には徐々に溶け,塩素を放って4価の塩となる。硫酸,その他の合成工業で触媒として重用され,サーミスターその他の特殊ガラスに用いられる。

V2O3とV2O5の各種組成混合物の加熱によって,あるいは水熱合成などによって,VnO2n-1n=3~8)などが得られ,さらにはV6O13(暗青色単斜晶,比重3.83(25℃)),V3O7,V4O9などがつくられている。
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化学辞典 第2版 「酸化バナジウム」の解説

酸化バナジウム
サンカバナジウム
vanadium oxide

】酸化バナジウム(Ⅱ):VO(66.94).一酸化バナジウムともいう.V2O5をKで還元するか,またはVCl3Oと H2 の混合物を赤熱炭素上で熱すると得られる.灰色の金属光沢をもつ粉末結晶.密度5.45 g cm-3.電気伝導性を有する.水に不溶.鉱酸に溶け,Vの水溶液となる.非化学量論的化合物としての傾向がかなりあり,VO1-0.25~VO1+0.20が得られている.[CAS 12035-98-2]【】酸化バナジウム(Ⅲ):V2O3(149.88).三酸化二バナジウムともいう.V2O5を赤熱して H2 またはCOで還元すると得られる.黒色の粉末結晶.密度4.87 g cm-3.融点1970 ℃.電気伝導性があり,抵抗率55×10-46 Ω m(1100 ℃).完全に塩基性である.水に微溶.酸に溶けてアクアイオン [V(H2O)6]3+(青色)になり,これにOHを加えると水和した酸化物を生じ,空気中できわめて容易に酸化される.アルカリにも可溶.空気中で熱すると燃える.水素添加触媒に用いられる.[CAS 1314-34-7]【】酸化バナジウム(Ⅳ):VO2(82.94).二酸化バナジウムともいう.V2O5をシュウ酸で融解還元したのち,空気を断って赤熱すると得られる.黒ないし暗青色の粉末状結晶.密度4.34 g cm-3.融点1940 ℃.両性で,酸,アルカリに易溶.常温では半導体であるが,68 ℃ において可逆的に金属的となり,電気伝導率や赤外光反射率の急激な変化を示す.温度により黄-緑-青色に変化する.温度調光ガラス薄膜材料,光触媒などに用いられる.[CAS 12036-21-4]【】酸化バナジウム(Ⅴ):V2O5(181.88).五酸化二バナジウムともいう.[CAS 1314-62-1]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「酸化バナジウム」の意味・わかりやすい解説

酸化バナジウム
さんかばなじうむ
vanadium oxide

バナジウムと酸素の化合物。バナジウムの酸化数が+Ⅱ~+Ⅴとなる各酸化物が知られている。

(1)酸化バナジウム(Ⅱ) 化学式VO、式量66.9。金属的で導電性を示す灰色粉末。

(2)酸化バナジウム(Ⅲ) 化学式V2O3、式量149.9。酸化バナジウム(Ⅴ)を高温度で水素還元して得られる黒色粉末で、組成は不定比である。

(3)酸化バナジウム(Ⅳ) 化学式VO2、式量82.9。酸化バナジウム(Ⅲ)と酸化バナジウム(Ⅴ)の等モル混合物を真空中で赤熱すると得られる黒色ないし暗赤色の粉末。

(4)酸化バナジウム(Ⅴ) 化学式V2O5、バナジウムの粉末を空気中で熱すると生ずる橙赤(とうせき)色の結晶で、式量181.9、融点690℃。1750℃で分解し、酸化バナジウム(Ⅲ)となる。

 VO以外の酸化物は触媒として使われることが多い。酸化バナジウム(Ⅴ)の水和物はバナジン酸ともよばれ、水溶液中ではpHによって異なる各種のイソポリ酸イオンを与える。

[岩本振武]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「酸化バナジウム」の意味・わかりやすい解説

酸化バナジウム
さんかバナジウム
vanadium oxide

(1) 酸化バナジウム (II) 。一酸化バナジウムともいう。化学式 VO 。ただし一般には不定比化合物 VOx (x=0.8~1.2) である。金属状粉末結晶 (立方晶系) 。比重 5.55。導電性を示す。加熱すると融解せずに分解する。水に不溶,酸に可溶。 (2) 酸化バナジウム (III) 。三酸化二バナジウムともいう。化学式 V2O3 。黒色粉末結晶 (六方晶系) 。比重 4.84,融点 1970℃。空気中で加熱すると燃える。 (3) 酸化バナジウム (IV) 。二酸化バナジウムともいう。化学式 VO2 。黒青色の粉末結晶 (単斜晶系) 。比重 4.26,融点 1967℃。酸,アルカリに可溶。 (4) 酸化バナジウム (V) 。五酸化二バナジウム,五酸化バナジウムともいう。化学式 V2O5 。赤橙色の粉末 (斜方晶系) 。比重 3.35,融点 690℃,1750℃で分解する。水にわずかに溶ける。酸,アルカリに可溶。エチルアルコールに不溶。酸化反応の触媒として利用され,接触法による硫酸製造の触媒として重要。

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