日本大百科全書(ニッポニカ) 「重力収縮」の意味・わかりやすい解説
重力収縮
じゅうりょくしゅうしゅく
中心部に核融合反応によるエネルギー源をもたない段階の星は、自らの重みで準静的に収縮していく。これを重力収縮とよぶ。このとき、重力と圧力勾配(こうばい)との力学的平衡は保たれており、力のつり合いが破れたためにおこる重力崩壊とは異なる。この重力収縮によって重力エネルギーが解放され、その一部が星の表面から光として放出されるエネルギーをまかない、残りが内部エネルギーを増加させる。その結果、放射輸送などによって星の中心部のエントロピーは減っていくにもかかわらず、中心部の温度は高くなっていく。これは、星のような自己重力系の特徴であり、星は見かけ上、負の比熱をもつという。
星間ガスから生まれたばかりの星(原始星)は、内部の温度はまだ低すぎて、水素の核融合反応はおこっていない。そのため重力収縮を続け、中心部の温度が十分に高くなると主系列星に落ち着く。また、主系列星の段階を終えて、ヘリウムの中心核ができたばかりの星の中心部は重力収縮し、ヘリウムの核融合反応が開始されるまで中心部の温度が上昇していく。このように、星は重力収縮と核融合反応とを繰り返しながら、高温高密度の状態へと進化し、新たな元素を合成していく。この意味で重力収縮は、星が進化していく原動力ということができる。
重力収縮は、熱が中心部から表面へと運ばれるのに伴って進んでいくので、その段階の寿命は熱輸送の時間で決まり、主系列星の寿命に比べると非常に短い。この重力収縮が進行する時間尺度をケルビンの時間尺度という。ヘリウムの中心核が重力収縮すると、星の外層はその反動で膨張する。その結果、星はHR図上を左から右へ、すなわち高温側から低温側へと横切る。この移動は速いので、HR図の上で、星の数が少ない領域ができる。これをヘルツシュプルング・ギャップとよぶ。星の進化が炭素燃焼段階になると、大量のニュートリノが星の中心部から放出され、エントロピーを持ち去る。この場合も星の中心核は重力収縮し、温度を上げる。温度が高くなると、ニュートリノの放出はますます速くなる。その結果、重力収縮は加速度的に速くなっていき、ついには重力崩壊の段階を迎えることになる。
星団の進化でおこる重力熱力学的カタストロフィーも、原理的には同じ現象である。
[野本憲一]
『野本陽代著『星は生きている――星の誕生からブラックホールまで』(1987・筑摩書房)』▽『斉尾英行著『星の進化』(1992・培風館)』▽『高原文郎著『宇宙物理学』(1999・朝倉書店)』▽『尾崎洋二著『星はなぜ輝くのか』(2002・朝日選書)』▽『野本陽代著『超新星1987Aに挑む――壮烈な星の最期をさぐる』(ブルーバックス)』