野兎病は、北半球のみに発生する動物由来感染症です。病原菌は野兎病菌で、地リス、ウサギ、ハタネズミ、キツネ、クマなどの野生動物をはじめ、キジ、ウズラなどの鳥類、ウシ、ヒツジなどの家畜、イヌ、ネコなどのペットに感染します。125種以上の動物種が、この菌の
北米には弱毒型と強毒型があることが知られていますが、日本やスカンジナビアの菌は弱毒タイプといわれています。
バイオテロで使用される可能性のある菌とされており、感染症法で4類感染症に位置づけられました。
2~10日の潜伏期ののち、発熱、
西半球では約85%が潰瘍リンパ節型で、リンパ節の
結膜から感染した場合は眼リンパ節型と呼ばれ、まぶたの浮腫(むくみ)ならびに小潰瘍を伴う結膜炎とリンパ節の腫脹が生じます。このほか、リンパ節腫脹を示すものには、鼻リンパ節型と
リンパ節腫脹を伴わない肺型はエアロゾル(空気中に浮遊する微小な粒子)感染によるもので、片方あるいは両側の肺炎を起こします。
汚染されたウサギの肉あるいは水を介して経口的に感染するチフス型はまれですが、診断が難しく、胃腸炎、発熱、毒血症を示し、肺炎症状が現われることもあります。
確定診断は菌の分離によって、あるいは血清学的に行います。血清診断の場合には、ブルセラ症、エルシニア感染症との交差反応(抗体がそれらとも反応してしまう)があるので注意が必要です。
病型が多様なので、多くの感染症との区別が必要です。リンパ節型、潰瘍リンパ節型では
ストレプトマイシンが第一選択薬で、クロラムフェニコールやテトラサイクリンでは、再発しやすいとされています。
流行地を訪れたあとに該当する症状があれば、動物との接触の有無も含めて、受診時にそのむねを告げる必要があります。
山田 章雄
野兎病は野兎病菌という細菌の感染によって起こる急性の熱性疾患です。主に感染した野生のノウサギやネズミなどやその死体に触れたり、解体した時に手指から細菌が侵入して感染します。また、ダニやアブなどに刺されたり、この菌に汚染された水、食べ物、ほこりを飲んだり吸い込んだりしてかかることもあります。
過去には関東から東北地方で多くの患者報告がありました。まれですが現在もあります。米国やヨーロッパでは毎年多数の感染者が報告されています。
潜伏期間は3~7日がほとんどで突然の発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、関節痛などのかぜ様症状があり、その後、脇の下や肘などのリンパ節がはれる場合が多くあります。また、菌が侵入した指などに
山野での活動やノウサギなどの野生動物との接触のあったのちに、発熱やリンパ節のはれなどの症状があった場合には野兎病を疑い、血液中の野兎病菌に対する抗体検査や病巣部からの細菌培養や遺伝子検査が行われます。
抗生物質が有効で、とくに早期の治療が有効で検査結果を待たずに開始されることがあります。テトラサイクリン剤やフルオロキノロン剤、ストレプトマイシンやゲンタマイシンが有効ですが、ペニシリン系やセフェム系薬剤は無効です。リンパ節が化膿した場合は外科的に切開が必要になることもあります。
野外での活動ではダニなどに刺されないようにすることや、病気や死亡した野生動物には触れないようにするなどの注意が必要です。野兎病に対するワクチンは日本では使用されていません。
山野での活動や野生動物との接触があったのち発熱や頭痛、悪寒、リンパ節の
棚林 清
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
ノウサギあるいはハタリスなどの齧歯(げっし)類の間で流行し、マダニ類などによって媒介され、ヒトには病獣の死体組織や血液に触れることによって感染する人獣共通感染症の一つで、大原(おおはら)病、ツラレミアともよばれる。すなわち、1925年(大正14)福島県の開業医大原八郎が新しい熱性疾患を研究し、ノウサギの死体との接触による感染症と考えて野兎病と命名、その病原菌の分離にも成功して野兎病菌とよんだ。さらに、疫学、病理学、細菌学などの分野からの研究成果もまとめ、30年(昭和5)に大原病としてドイツ語で公表した。一方、アメリカのフランシスE. Francis(1872―1957)は1921年、カリフォルニア州のツレール郡Tulare Countyで同様な疾患を発見、地名にちなんでツラレミアtularemiaと命名、その病原菌も1911年にすでに発見されていたものと同じであることを確認していた。そこで、両者間で研究交流が行われた結果、まったく同一であることがわかった。なお、野兎病菌の学名は現在Francisella tularensisとなっている。アメリカの野兎病菌は毒力が強く、抗生物質使用前の致命率は約7%を占めていたが、日本の野兎病菌は毒力が弱く、予後は良好で死亡することはなかった。
潜伏期は3~4日で、突然発熱し、頭痛、腰痛、嘔吐(おうと)、下痢などがみられ、以後の経過は侵入部位によっていろいろな病型に分かれる。もっとも多いのはリンパ節型で、普通、上腕や腋窩(えきか)(わきの下)のリンパ節が鶏卵大に腫(は)れて痛み、傷があると膿疱(のうほう)化して潰瘍(かいよう)となる。診断には、いわゆる大原抗原による皮膚反応や血清凝集反応が行われ、免疫蛍光法などによる菌の同定によって確診される。治療としてはストレプトマイシンが著効を示し、テトラサイクリン系抗生物質も併用される。安静と保温、高タンパク・高カロリー食を心がける。表在する小潰瘍性膿疱は外科的に摘除する。
[柳下徳雄]
人獣共通伝染病の一つ。北半球の温帯に生息するノウサギや齧歯(げつし)類の間で,マダニやサシバエなどの媒介によって流行しており,人間がこれらの動物に接触することによって感染する。日本では東北地方に多く,病原菌は野兎病菌Francisella tularensis(グラム陰性,多形性菌)で,感染力はきわめて強い。1922年にアメリカのユタ州で発見され〈ツラレミアtularemia〉と名づけられたが,日本でも25年に福島の大原八郎(1882-1943)が独自に研究し〈野兎病〉として報告し,後になって両者が同一の病気であることが明らかになった。報告者の名をとって〈大原病〉ともいう。
潜伏期は3~4日。頭痛,脱力感,関節痛など風邪のような症状で始まり,高い熱が出てリンパ節がはれる。接触感染のため,ひじや腋窩(えきか)のリンパ節がはれるリンパ節型が85%と多いが,菌が目,鼻,口から入れば,その場所と近くのリンパ節に強い炎症症状がみられ,まれには腸チフスや急性胃炎に似た腹部症状を伴う。診断は,皮膚反応や血清凝集反応が簡単であるが,蛍光抗体法によって菌の存在を証明するのが確実。治療は,ストレプトマイシンが劇的に効くが,テトラサイクリン,マクロライド系薬剤も有効で,内科的治療で治癒する。
執筆者:上野 龍夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…ある疾患が一定の地域に持続的に多発する場合,このような疾患を風土病または地方病と呼ぶ。風土病には,その地域の地理,気候,生物相,土壌などの自然環境と,住民の衣食住の様式や習慣,因習および栄養障害の有無など種々の要因が関係している。熱帯地方に風土病的にみられる疾病は,一括して熱帯病と呼ばれることがある。現在では,かつて世界各地にみられた風土病は,住民の生活水準の向上や環境衛生の向上によってだんだんと消滅する方向にあり,風土病の分布状態も時代とともに変遷している。…
※「野兎病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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