金成マツ (かんなりマツ)
生没年:1875-1961(明治8-昭和36)
女性のユーカラ伝承者,キリスト教(聖公会)伝道師。北海道幌別郡幌別村(現,登別市)に生まれ,戸籍名は广知,アイヌ名イメカノ。函館の愛隣学校に学んで,平取町などで布教活動を行うかたわら,母モナシノウクの伝承するユーカラを受け継ぎ,それをローマ字で筆録したノート約160冊を,金田一京助と甥の知里真志保に残した。その一部は金田一の訳注を付して《アイヌ叙事詩ユーカラ集》9巻(1959-66)として出版された。その中には8920行に及ぶ長大な作品も含まれる。マツはとくに〈人間のユーカラ〉を好み,語り口はやや地味であったが,女性に関する描写に秀でていた。1956年紫綬褒章を受章。終生独身であったが,旭川の近文(ちかぶみ)では母の妹ナミの娘,知里幸恵(1903-22,真志保の姉)を引き取り,進学させている。幸恵もモナシノウクのユーカラを受け継ぎ,《アイヌ神謡集》(1923)をまとめたが,その校正中に19歳で死去した。同書はアイヌ自身の手による神謡の本格的な記録の最初のものとして,その歴史的意義は大きい。
執筆者:萩中 美枝
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金成 マツ
カンナリ マツ
明治〜昭和期のユーカラ記録者
- 生年
- 明治8年11月10日(1875年)
- 没年
- 昭和36(1961)年4月5日
- 出生地
- 北海道幌別郡幌別村
- 別名
- アイヌ名=イメカノ
- 学歴〔年〕
- 函館聖公会伝道学校卒
- 主な受賞名〔年〕
- 紫綬褒章〔昭和31年〕
- 経歴
- 幌別のアイヌ名家の出身。16歳のとき怪我で半身不随となり、自立手段を得るため函館聖公会伝道学校に入り、ローマ字も習得。明治31年妹と一緒に日高市の教会に勤務、42年から旭川郊外の近文の教会で伝導。大正7年金田一京助の訪問を受け、昭和3年から金田一のユーカラ筆録事業援助のため、母モナシノウクから伝えられ暗誦していたユーカラをローマ字で筆録し始め、19年までに約72冊を書き上げ金田一に送った。その一部は「アイヌ叙事詩 ユーカラ集」(全7巻)に収録され、31年無形文化財に指定された。モナシノウクは金田一より“アイヌの最後の最大の叙事詩人”と賛えられる。妹ナミの娘、知里幸恵は「アイヌ神謡集」の著者。
出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報
金成マツ【かんなりマツ】
ユーカラ伝承者・記録者。北海道幌別村(現,登別市)生れ。アイヌ名イメカナ。聖公会函館愛林学校に学ぶ。敬虔なクリスチャンで布教のかたわら,母モナシノウクから伝えられ暗唱していたユーカラをローマ字で筆録し,金田一京助と甥・知里真志保(ちりましほ)に残した。筆録は,《アイヌ神謡集》の校正中に19歳で夭折した養女で姪の知里幸恵(ゆきえ)〔1903-1922〕の遺志を継いだもので,一部は金田一の訳注を付して《アイヌ叙情詩ユーカラ集》9巻として出版された。1956年無形文化財保持者指定・紫綬褒章受章。→アイヌ文学
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金成マツ
かんなりまつ
(1875―1961)
アイヌの詞曲ユーカラの伝承者。北海道幌別(ほろべつ)郡幌別村(現登別(のぼりべつ)市)生まれ。戸籍名は「广知」、アイヌ名「イメカノ」。函館(はこだて)のキリスト教伝道師を養成する愛隣学校に学び、平取(びらとり)町などで布教活動を行い生涯独身を通した。旭川(あさひかわ)市近文では伝道に従いながら、妹ナミの娘知里幸恵(ちりゆきえ)(『アイヌ神謡集』の著者)を引き取って進学させた。継承していたユーカラを約160冊のノートにローマ字で筆録して、金田一(きんだいち)京助と幸恵の弟知里真志保(ましほ)に残し、その一部が『アイヌ叙事詩ユーカラ集』として出版された。1956年(昭和31)紫綬褒章(しじゅほうしょう)を受章。
[萩中美枝]
『金成まつ筆録、金田一京助訳注『アイヌ叙事詩ユーカラ集』全7巻(1959~66・三省堂)』
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金成マツ かんなり-マツ
1875-1961 明治-昭和時代のアイヌ文化伝承者。
明治8年11月10日生まれ。知里幸恵,知里真志保の叔母。北海道幌別村(登別市)の人。バチェラーのおこした函館の愛隣学校にまなび,旭川などでキリスト教布教に従事。大正7年から金田一京助の勧めで母モナシノウクからつたえられたユーカラの記録に専念。そのノートの一部が金田一の訳で「アイヌ叙事詩ユーカラ集」として出版された。昭和36年4月6日死去。85歳。アイヌ名はイメカヌ。
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金成 マツ (かんなり まつ)
生年月日:1875年11月10日
明治時代-昭和時代のユーカラ記録者
1961年没
出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の金成マツの言及
【知里真志保】より
…アイヌ民族出身の言語学者,民俗学者。アイヌの叙事詩ユーカラの伝承者として有名な金成(かんなり)マツをおばとし,《アイヌ神謡集》(1923)の知里幸恵(ゆきえ)を姉として,現在の北海道登別市に生まれた。[金田一(きんだいち)京助]の文法を出発点としながら独自の[アイヌ語]文法体系を構築し,また[J.バチェラー]や永田方正など先人のアイヌ語,地名研究を鋭く批判した。…
※「金成マツ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」