日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
金融政策の操作目標・中間目標・最終目標
きんゆうせいさくのそうさもくひょうちゅうかんもくひょうさいしゅうもくひょう
日本銀行が物価安定あるいは景気回復のために金融政策を運営するとき、物価安定・景気回復を金融政策の最終目標とすれば、政策効果は最終目標にどのような過程で波及していくか、その過程においていかなる金融変数が政策運営上の目標になるか、という問題がある。
日本銀行の業務の窓口にもっとも近いのはコール市場・手形売買市場などの短期金融市場であり、日本銀行がコントロールできるのはコールレート、手形売買レートなどの短期市場金利である。日本銀行はこれら短期市場金利を操作目標(誘導目標、ときには政策金利ともいう)として日々の金融調整を行う(2001年3月~2006年3月の量的金融緩和政策の下では、日本銀行当座預金残高が操作目標であった)。しかし短期市場金利の動きが、ただちに最終目標の物価・景気に影響するのではない。物価や景気の動きに比較的強い関係にある金融変数は、マネーストック(現金通貨に銀行預金を加えた広義の通貨供給量。2008年6月、統計用語としてマネーサプライからマネーストックに改称された)である。銀行貸出が増加しマネーストックが潤沢に供給され、企業の流動性が豊富で資金繰りが容易なとき、企業の投資活動は拡大し、景気・物価の動きに響いてくる。マネーストックの動きは金融政策の運営上重要な変数であり、景気・物価の最終目標に対して中間目標とよばれる。
マネーストックは大部分が銀行預金であり、その増加はおもに銀行貸出の増加による。マネーストックと銀行貸出は盾の両面の関係にある。日本銀行は前述のように短期市場金利の動きをみながら金融調整を行い、一方、銀行は短期市場金利の動きから日本銀行の金融調節の方針、短期金融市場の状況を判断し、貸出活動を行っている。こうして操作目標の短期市場金利の動きと中間目標のマネーストックのそれとの間には金融機関の貸出を通じてかなり強い関係があり、またマネーストックは最終目標の物価・景気に企業・家計の経済活動を通じて一定の関係をもつと考えられる。これが政策効果の波及過程における操作目標(誘導目標)・中間目標・最終目標の関係図であり、二段階アプローチともよばれる。このように金融政策のインパクトが経済の金融面から実体経済の面に波及していき、政策効果が実現していくには一定の時間がかかるという認識がある。
[石田定夫]
『翁邦雄著『金融政策』(1993・東洋経済新報社)』▽『黒田晁生著『入門 金融』第4版(2006・東洋経済新報社)』