日本大百科全書(ニッポニカ) 「手形売買市場」の意味・わかりやすい解説
手形売買市場
てがたばいばいしじょう
商業手形や銀行引受手形などの売買が行われる市場。単に手形市場ともいう。コール市場とともに、インターバンクの短期金融市場を形成する。おもに金融機関相互間の資金過不足を調整する機能を果たすとともに、日本銀行の金融調節の場としても重要であった。ただし後記のように、2000年代以降その位置は大きく後退した。市場で売買される手形は金融機関振出しの手形(「表紙手形」。優良な商業手形や単名手形等の「原(げん)手形」や公社債などを担保とする)がほとんどで、「原手形」自体の売買は僅少(きんしょう)である。多くの場合、短資業者が取引を仲介する。この市場での取引金利が手形(売買)レートで、コールレートとの裁定などを通じて変動する。だが、おもに1990年代後半以降の状況は大きく変化した。基本的には市場残高の顕著な縮小で、末残高ベースでは1990年(平成2)の17兆0603億円から1995年9兆8907億円、2000年ゼロ、平均残高ベースではそれぞれ16兆3505億円、8兆9986億円、3兆3694億円(2000年10~12月には平均残高でもゼロ)と推移した。なお、2001年4月からは日本銀行による残高統計自体が公表中止となった。このような市場規模縮小のおもな要因は、(1)バブル経済の形成・崩壊・対応の過程での日本銀行の「ゼロ金利政策」(1999年2月~2000年8月)や「量的緩和政策」(2001年3月~2006年3月)展開の下での短期金融市場の機能後退、(2)割引手形や手形貸付(単名手形による貸付)形態の貸出の趨勢(すうせい)的な縮小による「原手形」の縮小、などである。また、日本銀行による金融調節の場の面も大きく変化した。すなわち、1972年(昭和47)6月より日本銀行の「手形買いオペレーション」が開始され、民間への資金供給手段として重要な地位を占めていたが、前記の「ゼロ金利政策」や「量的緩和政策」などの下で、日本銀行のおもな資金供給は国債買入れや「共通担保資金供給オペレーション」(2006年4月導入、金融機関が日本銀行に差し入れている適格担保を根担保とし、貸付金利を入札で行う公開市場操作としての貸付)に移行したのである。このため、現在「手形買いオペレーション」は消滅している(計数出所は日本銀行『金融経済統計月報』)。
[井上 裕]