金融資本論 (きんゆうしほんろん)
Das Finanzkapital[ドイツ]
1910年に刊行されたR.ヒルファディングの主著。〈資本主義の最近の発展に関する研究〉という副題がつけられている。叢書《マルクス研究》の第3巻として刊行された。金融資本の概念をはじめて明らかにし,帝国主義を金融資本の政策とすることにより,修正主義への解答をはたすとともに帝国主義論の本格的研究の基礎を築いた。本書の課題は,産業独占と金融資本の2面からなる高度の集積過程として現代資本主義を特徴づけることにあった。つまり現代資本主義の独占的構造の解明が主題であるが,無政府性→組織化というエンゲルスゆずりの図式によったため,産業独占の理解が平板になり,金融資本に重点がおかれた。金融資本の規定にあたってヒルファディングが注目したのは,株式会社制度の普及による企業金融の変化,とりわけ設備資金借入れの一般化である。これにより銀行の産業企業に対する関係はより長期かつ密接となり,また銀行の支配的地位も生じる。こうして形成された少数巨大独占銀行による全国民経済の支配と組織化,これが本書の描く資本主義の現代的発展の基調である。発表当時はマルクス主義の再生をもたらすものと高い評価を受けたが,今日の西欧では言及されることも少ない。これに対し日本では,より広く受容され,たとえば宇野弘蔵の帝国主義理解の軸となる蓄積様式論は主として本書によっている。
執筆者:星野 中
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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金融資本論
きんゆうしほんろん
Das Finanzkapital
R.ヒルファーディングの主著で,1910年刊行。マルクスがまったく予見することのできなかった 19世紀後半から 20世紀初頭にかけての資本主義の構造変化 (帝国主義) を叙述し,問題を提起・分析した。現代資本主義の特徴をカルテルやトラストの形成,および銀行資本と産業資本の緊密化ととらえ,この後者から成立する金融資本を分析の対象とした。その反面,貨幣論においてマルクス経済理論についての誤解がみられ,またマルクス陣営からの批判によって永く顧みられることがなかった。しかし戦後,その復刻版が出版され,マルクス主義経済学の古典としての地位を確立している。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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世界大百科事典(旧版)内の金融資本論の言及
【金融資本】より
…帝国主義段階あるいは独占資本主義段階とも呼ばれる19世紀末以降の後期資本主義を特徴づける,支配的な資本の存在形態をさす言葉。オーストリアのマルクス主義者[R.ヒルファディング]の《[金融資本論]》(1910)以来,経済学上の重要な概念になっている。すなわち,この時期には,株式会社組織をとる大規模な[産業資本]と[銀行資本]とが,産業金融(商業金融と対比的に用いられる)と呼ばれる特有の業務による融合関係のもとに,独占的な大企業または企業集団を形成し,それが支配的な資本として,経済動向を規定するほどの役割を果たすようになった。…
【経済学説史】より
…さらに,《資本論》の第4巻に当たる《剰余価値学説史》は,古典派経済学にいたるまでのマルクス自身の批判的な経済学説史にほかならない。 マルクス以後のマルクス経済学は,《[金融資本論]》(1910)の著者[R.ヒルファディング],《資本蓄積論》(1913)の著者[R.ルクセンブルク],《[帝国主義論]》(1917)の著者[レーニン],そして[宇野弘蔵]などの手により展開されていく。また,[L.ボルトキエビチ],柴田敬などを先行者として,置塩信雄,森嶋通夫などにより,マルクス経済理論の数学的構造が明らかにされ,ある意味で近代経済学の立場からのマルクス経済学への接近が容易になった。…
【帝国主義】より
… このような事態に対して,マルクス主義知識人は,銀行の役割,保護関税政策の目的,軍国主義などについて論争を重ねた。とくに,[R.ヒルファディング]は《金融資本論》(1910)の中で,資本主義国間で進行する権力対立と,資本主義国内の経済的な集中と組織化との間には構造的な関連があり,前者は後者によってもたらされると仮定した理論を提示した。この理論をほぼ踏襲した[レーニン]は第1次大戦の最中に《帝国主義論》(1916)を書き,資本主義国間の対立は政策決定者の意志で変更することはできず不可避的に破局にいたるという意味をこめて,帝国主義を〈資本主義の最高段階〉と規定した。…
【ヒルファディング】より
…ドイツ社会民主党の理論的指導者,経済学者。主著は《[金融資本論]》(1910)。ウィーンのユダヤ系商家に生まれ,ウィーン大学で医学を学ぶかたわら,社会主義学生同盟のメンバーとなり,社会科学に関心をいだくようになった。…
【マルクス経済学】より
…したがってそれらは,《資本論》の全体系を正当に評価したうえでの現実認識ではなかったことに留意しなければならない。 さらに,このようないわゆる〈修正主義論争〉をふまえて,[R.ヒルファディング]はその著書《[金融資本論]》(1910)でおよそ次のような新しい理論を展開した。近代の資本主義社会を支配している資本は,単なる[産業資本]ではなく,[金融資本]である。…
※「金融資本論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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