17世紀フランス史上の謎(なぞ)の人物。つねにビロードの仮面を着用させられて、ピニュロル、シャトー・ディフ、バスチーユなどの牢獄(ろうごく)に転々と幽閉され、1703年に死亡、マルチアリMarchialiというイタリア人らしい名前でパリのサン・ポール墓地に葬られたといわれる。その身元解明は、ボルテールによって始められ現代のマルセル・パニョル〔『「鉄仮面」の秘密』(1969)〕にまで及んでいるが、謎は依然解かれていない。仮説としては、ルイ14世の双生児兄弟説、同王とラ・バリエール夫人Louise de La Vallière(1644―1707)との私生児説、アンヌ・ドートリッシュと宰相マザランとの私生児説などがある。
この人物をフィクションに登場させて世界的に有名にしたのは、A・デュマ(父)の作品である。大河小説『ダルタニャン物語』の第三部「ブラジュロンヌ子爵」の後半で、この人物をルイ14世の双生児兄弟フィリップとし、彼と国王本人とを入れ替えようとする陰謀劇をめぐって、ダルタニャンなど三銃士たちの活躍を描いた。
わが国では、黒岩涙香(るいこう)によるボアゴベイFortune du Boisgobey(1824―91)原作の『正史実録 鉄仮面』の翻案、大仏(おさらぎ)次郎によるデュマ原作のものの抄訳などで広く知られるようになり、通俗推理冒険小説などに影響を与えた。
[榊原晃三]
『A・デュマ著、鈴木力衛訳『ダルタニヤン物語』(講談社文庫)』▽『マルセル・パニョル著、佐藤房吉訳『「鉄仮面」の秘密』(1976・評論社)』▽『ボアゴベ著、長島良三訳『鉄仮面』全三巻(1984・講談社)』
「ブラジュロンヌ子爵」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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