改訂新版 世界大百科事典 「鉄筋コンクリート造建築」の意味・わかりやすい解説
鉄筋コンクリート造建築 (てっきんコンクリートぞうけんちく)
主要骨組みを鉄筋コンクリートで構成する構造を鉄筋コンクリート造reinforced concrete constructionといい,鉄筋コンクリート造による建築を鉄筋コンクリート造建築と呼ぶ。RC造建築ともいう。
歴史
コンクリートは建築材料として古代ローマなどでも用いられていたが,鉄筋コンクリートが建築に用いられるようになったのは19世紀中ごろからで,鉄筋を入れたコンクリート製植木鉢や,鉄道まくら木で特許を得たフランスのJ.モニエは,1880年には鉄筋コンクリート造耐震家屋を試作した。その後ドイツのG.A.ワイスらが86年その構造計算方法を発表し,実際に橋,工場などを設計したため,建築全般に広く利用されるにいたった。フランスの建築家A.ペレは,1903年パリのフランクリン通りの集合住宅で,陶板で覆われた鉄筋コンクリートの骨組み,大きい窓,屋上テラスなどで外観を構成,鉄筋コンクリートの造形の可能性を示した。彼は23年にはル・ランシの教会で,鉄筋コンクリートの打放し仕上げ,架構の間をうめる色ガラスはめ込みプレキャストコンクリート格子,鉄筋コンクリートシェル構造の屋根などを採用,さらに鉄筋コンクリートの表現可能性を追求した。煉瓦造,石造に比べ壁面に大きい開口部をとることが容易なこの鉄筋コンクリートによる構法は,ガラス工業の発達とあいまって,ガラス張りの明るい室内や1階を吹き放ちにするピロティを可能にし,新しい芸術運動ともからんで,鉄骨造建築とともに近代建築の主流を占めることとなる。
日本では,明治後半(1890年代)になると,欧米で建て始められた鉄筋コンクリート造建築の紹介が相次いで行われた。1904年真島健三郎は佐世保鎮守府内のポンプ小屋を,06年には白石直治が神戸和田岬の東京倉庫を,それぞれ鉄筋コンクリート造で建てた。本格的な鉄筋コンクリート造建築の最初のものは,白石直治の東京倉庫G号棟(1910完成)といわれている。23年の関東大震災では,煉瓦造,石造などの建物が大きい被害を受けたのに対し,鉄筋コンクリート造建築の耐震耐火性能が脚光をあび,東京市では震災復興の校舎を,学童の安全と近隣の避難を考えて鉄筋コンクリート造とした。第2次世界大戦後は,公営住宅をはじめとし,日本でもっとも一般的に用いられる建築構法の一つになっている。
特徴
鉄筋とコンクリートの温度膨張係数が非常に近いこと,コンクリートはアルカリ性であり,鉄はコンクリートで完全に包まれている限りさびる心配がないこと,鉄とコンクリートとの付着力が十分強いことなどのため,適切な設計と入念な施工がなされれば,鉄筋コンクリート造建築は,耐久性も十分あり,耐震耐火性とともに理想的な構造方法といえよう。また,鉄筋コンクリート造は鋳型にコンクリートを打ち込む形をとるため,建築の骨組みは継目のない一体構造となり,設計上の自由度が大きく,曲面など自由な形をつくることも可能である。
他方,ふつうの鉄筋コンクリート造建築は,現場における一品生産であるため,その品質管理がむずかしい。また,鉄筋コンクリート造建築の問題点の一つは亀裂を完全になくすことがむずかしいことである。地震,不同沈下,温度による膨張収縮などのほか,コンクリート自身の硬化収縮などもその原因である。この亀裂から雨水が浸入したりして鉄筋をさびさせる。鉄筋コンクリートのもう一つの大きい問題は,鉄はさびると膨張することである。コンクリートの中の鉄筋は,コンクリートのアルカリ性がなくなったり,亀裂から水が入ったりしていったんさびると,膨張してコンクリートを剝離させる。鉄筋コンクリートは,橋梁,ダムなどの土木工作物にも用いられるが,建築の場合,骨組断面中に占める鉄筋の割合が多いため,コンクリートがその打込み時に隙間なく回るように,土木工作物の場合と比べるとかなり緩いコンクリートを用いるのがふつうである。このことは,鉄筋コンクリート造建築に亀裂が多いこととかかわりがある。
構造方式
(1)普通鉄筋コンクリート構造 ふつうの鉄筋コンクリート造建築は,基礎,柱,はり,床,壁を一体の鉄筋コンクリートでつくるもので,柱間隔は6m前後が経済的とされる。2~5階建て程度の学校,事務所,病院などに広く用いられる。10階をこえる高層建築の例もある。(2)壁式鉄筋コンクリート構造 柱やはりの形を現さず,それらを壁の中におさめ,基礎,壁,床を一体の鉄筋コンクリートでつくるもので,2~5階建て程度の集合住宅や住宅など小規模の建築に用いられる。骨組構造に比べ一般に経済的である。(3)無梁版構造 はりなしで床を補強した構造。フラットスラブ構造とも呼ばれる。柱の上部を広げ,それで床を支える形をとる。柱付近以外は上階の床下面まで障害物がないため,はりの下で階高が決まる倉庫のような建物で用いられる。(4)シェル構造 鉄筋コンクリートで貝殻のような湾曲した版をつくり,それを建築の構造体とする方式。体育館,展示場など大空間をつくることができる。施工は多少手間がかかるが,材料が節約になるため小規模建築にも用いられる。(5)折板構造 折り曲げた板状の壁や屋根を鉄筋コンクリートでつくり,建築の構造体とする方式。オーディトリアムなどに実例がある。(6)プレストレストコンクリート構造 ふつうの鉄筋コンクリート構造では,曲げの力がかかった場合,引張り側は鉄筋だけが力を受けもつ。鉄筋の代りに高強度の鋼線,または鋼棒を使用し,コンクリートには圧縮強度の大きいものを用い,あらかじめコンクリートを締めつけて圧縮力を与え,引張り側のコンクリートにも圧縮力が残るようにしたものがプレストレストコンクリート構造である。材料費は高価になるが断面を小さくでき,またコンクリートに亀裂が起きにくいこと,一般に硬練りコンクリートが用いられるなどのため,耐久性に優れている場合が多い。プレストレスの導入には,現場で鋼線または鋼棒を引っ張り締めつける方法と,工場でプレストレスを導入した部材を現場で組み立てる方法とがある。(7)プレキャスト鉄筋コンクリート構造 建築生産の合理化のため,あらかじめ鉄筋コンクリート部材を工場で生産し,現場で組み立てる方式。この部材には,一般に土木と同様な硬練りコンクリートが用いられる。
各部構造
鉄筋コンクリート造建築は一般にその自重が重いので,下部構造は堅固な地盤に基礎をおろすか,杭で支持する形式とし,地盤面以下の部分は,上部構造のいかんにかかわらず,現場打ちの鉄筋コンクリートでつくるのがふつうである。また一体式構造の場合,床スラブは単にその上の荷重を支えるばかりでなく,上階と下階の防火区画の役目,また地震のときの水平力を各部に伝達する役目をもっており,スラブの厚さは通常10~15cmくらいである。耐震壁は普通鉄筋コンクリート構造の場合,耐震的に効果のある鉄筋コンクリート壁をバランスよく配置して構成し,外壁は鉄筋コンクリートで骨組みと一体につくられることが多いが,プレキャスト鉄筋コンクリート部材や金属板によるカーテンウォールも用いられる。屋根についてはコンクリートは平らに打つほうがやさしいことと,屋上利用などのため,緩いこう配(1/50~1/200程度)の陸屋根とし,アスファルト防水層などにより防水を行うことが多い。
→鉄筋コンクリート
執筆者:沖塩 荘一郎
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