(1)能の曲名。四番目物。非現行演目。観世信光作。シテは白拍子,実は女の怨霊。現行演目《道成寺》の原作で,筋立ても主要部分の詞章もほぼ同じだが,次のような違いがある。道成寺の釣鐘再興の供養を拝みにきた白拍子が,女人禁制だと断られ,愁嘆する場面がある。許された白拍子が舞を舞う場面で,眼目の乱拍子(らんびようし)に入る前に,道成寺創建の説話を物語るクセを舞う。鐘の中からふたたび現れた怨霊(後ジテ)を祈り伏せる僧(ワキ)の祈禱の文句が違う。怨霊が日高川に飛び込んで終わるのが現行の形だが,原作は〈日高の川波,深淵に帰ると見えつるが,……執心は消えてぞ失せにける〉と終わる。
執筆者:横道 万里雄(2)民俗芸能の曲名。中央の能で廃曲とされた(1)が黒川能に残るほか,岩手県の諸地方に伝存する山伏神楽(やまぶしかぐら)の曲中に《鐘(金)巻》がある。構想は能に同じであるが,詞章が違い,太刀にかぶせた黒羽織を鐘に見立てる演出があり,後段は山伏と鬼女が激しくわたりあう。なお中国地方の古い修験系の神楽にも同趣の曲があったらしく,広島県比婆郡東城町の1664年(寛文4)の荒神神楽能本には,《熊野ノ日高ノ金巻ノ子細》《金ノ供養》などの台本が残る。
執筆者:山路 興造
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…基本的芸態や曲目は東北地方の山伏系の神楽とほぼ同じで,楽器は大型の締太鼓,笛,銅拍子(手平鉦(てびらがね)ともいう),ほかに付け打ちする拍子板,小太鼓などを使う所もある。曲目も前述の武士舞のほか《露払い》《三番叟》などの少年の舞や,《杵舞》《傘舞》などの曲舞(くせまい),《蕨折(わらびおり)》《鐘巻(かねまき)》などの女舞の曲を残す所もある。山形県飽海(あくみ)郡遊佐町杉沢の〈ひやま〉が国指定重要無形民俗文化財とされるほか,秋田県では北秋田郡阿仁町の〈根子(ねつこ)番楽〉,由利郡矢島町の〈坂ノ下番楽〉,象潟町の〈横岡番楽〉,平鹿郡十文字町の〈仁井田番楽〉など9ヵ所の番楽が,山形県では最上郡金山町有屋の〈稲沢番楽〉などが県指定民俗文化財とされる。…
※「鐘巻」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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