乱拍子(読み)ランビョウシ

デジタル大辞泉 「乱拍子」の意味・読み・例文・類語

らん‐びょうし〔‐ビヤウシ〕【乱拍子】

中世芸能の舞の形式で、特殊な足踏みで踏み回る部分があるもの。現在、民俗芸能に残る。
能の舞事まいごとの一。小鼓こつづみに笛があしらう囃子はやしで、特殊な足づかいで舞う舞。1が能に入ったもので、「道成寺どうじょうじ」のみに用いる。

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精選版 日本国語大辞典 「乱拍子」の意味・読み・例文・類語

らん‐びょうし‥ビャウシ【乱拍子】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 白拍子などの舞の一形式。特殊な足ぶみで踏みまわることのある舞踊で、現在民俗芸能に残っている。
    1. [初出の実例]「鼓を打て乱拍子の次第をとる」(出典:十訓抄(1252)三)
  3. 能の舞事一つ小鼓のみで囃し、特別の足づかいなどをするきわめて特殊な舞。現在は「道成寺」でだけ演じられ、重い習物とされる。
    1. [初出の実例]「この外、拍子の名目〈略〉らん拍子、さがりは等の拍子あり」(出典:五音三曲集(1460))

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改訂新版 世界大百科事典 「乱拍子」の意味・わかりやすい解説

乱拍子 (らんびょうし)

能の舞事用語足遣いを主とした特殊な舞事で,《道成寺》の白拍子前ジテ)のみに用いる。古くは金春(こんぱる)流の《道成寺》,観世流檜垣(ひがき)》の老白拍子,宝生流《草紙洗》の小野小町,金剛流《住吉詣》の御随身と4流それぞれにあったが,江戸時代以降は各流とも《道成寺》のみで舞われる。囃子は小鼓だけで奏する(笛がところどころでアシラウ)のが特徴で,小鼓方はやや右を向きシテに対する。長い間(ま)を置いた鋭い掛声や小鼓の打音と同時にシテは足を踏み出したり爪先かかとを上げ下ろしたりし,囃子の段ごとに足拍子を踏んで段落をつける。舞台の正面向きから始められ,小さく左へ鱗型(三角形)に回り,再び正面を向くと〈中(なか)ノ段〉でテンポが速くなり,〈道成(みちなり)の卿,承り〉と〈乱拍子謡〉をとぎれとぎれに謡いこんで終わり,〈急ノ舞〉になる。段数は流派や演出によって異なるが,中ノ段まで八段,全体で十三段くらいのことが多い。シテは小鼓がはかる間を心ではかりながら舞い進め,両者がはかる呼吸の間合いが緊張感を生む。

 《道成寺》は各段とも習物((ならい))とされるが,とくにシテ方,小鼓方は重い習物になっている。歌舞伎舞踊にも〈乱拍子ノ舞〉があるが,能とは異なりきわめて簡単なものである。乱拍子は古くから行われた反閇(へんばい)をとり入れた芸能と思われる。大和多武峰(とうのみね)の延年に〈乱拍子〉の演目があり,岐阜県郡上(ぐじよう)市の旧白鳥町の長滝白山神社の祭り(1月6日)に行われる延年の〈乱拍子ノ舞〉は,2人の稚児がそれぞれ牡丹と菊の造花を持って,特殊な足どりで舞台を回り,足拍子を踏む舞である。
道成寺
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「乱拍子」の意味・わかりやすい解説

乱拍子
らんびょうし

日本芸能の用語。 (1) 中世芸能に現れる特殊な足遣いの名称。またそれを含む舞踊をいう。延年系統のものにみられる。 (2) (1) を応用した能の特殊演技。現在では『道成寺』に主として用いられる。シテの足拍子と小鼓の独奏によって緊迫した特殊な舞をなす。部分的に笛と謡とが入る。歌舞伎舞踊その他の道成寺物にもこれが応用されている。

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世界大百科事典(旧版)内の乱拍子の言及

【道成寺】より

…その再興の日のこと,住職(ワキ)は能力(のうりき)(アイ)に女人禁制を申し渡す。そこへ白拍子の女(前ジテ)が来て能力に頼みこみ,舞を見せることを条件に寺内に入れてもらい,乱拍子(らんびようし)など舞ううち,隙をうかがって鐘に近づくと鐘は落下し,女はその中に消えた(〈乱拍子・急ノ舞・ノリ地〉)。能力から知らされた住職は,それは怨霊の仕業であろうと次のように物語る。…

【舞事】より

…能の舞事には,笛(能管)・小鼓・大鼓で奏する〈大小物(だいしようもの)〉と太鼓の入る〈太鼓物〉とがあるが,その両者を含めて,笛の基本の楽句である(じ)の種類によって分類されることが多い。すなわち,呂中干(りよちゆうかん)の地といわれる共用の地を用いる〈序ノ舞〉〈真(しん)ノ序ノ舞〉〈中ノ舞(ちゆうのまい)〉〈早舞(はやまい)〉〈男舞(おとこまい)〉〈神舞(かみまい)〉〈急ノ舞〉〈破ノ舞(はのまい)〉などと,それぞれが固有の地を用いる〈楽(がく)〉〈神楽(かぐら)〉〈羯鼓(かつこ)〉〈鷺乱(さぎみだれ)(《鷺》)〉〈猩々乱(《猩々》)〉〈獅子(《石橋(しやつきよう)》)〉〈乱拍子(《道成寺》)〉などの2種がある。〈序ノ舞〉は女体,老体などの役が物静かに舞うもので,《井筒》《江口》《定家》などの大小物と《小塩(おしお)》《羽衣》などの太鼓物がある。…

※「乱拍子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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