長期透析患者の病態

内科学 第10版の解説

長期透析患者の病態腎不全(腎障害)

定義・概念
 腎臓病が進行して末期腎不全に至る患者は年間約39000人にのぼる.末期腎不全患者は腎代行療法,すなわち透析療法または腎移植が必要となるが,腎移植はわが国では生体腎移植で約1300例,献腎移植にいたっては約200例が行われているにすぎない.そこで,大多数の末期腎不全患者は透析療法を続けることになる.長期間腎機能が廃絶し,透析療法によって生命の維持がなされている患者を長期透析患者といい,一般には10年以上透析療法を受けている患者を指す.
分類
 透析療法には血液透析と腹膜透析があり,透析の形態に合わせて長期血液透析患者,長期腹膜透析患者と分類される.しかし,腹膜透析単独で長期間治療するのは困難で,血液透析の併用や治療法変更が行われるため,長期透析患者のほとんどが血液透析患者である.
疫学
 透析患者数は2011年末で30万人をこえ,年間6000人増加しているが増加速度は鈍りつつある.10年以上の長期透析患者数は約8万人で,最長生存期間は43年に及んでいる.
 患者は高齢化が進み,2011年末の新規透析導入患者の平均年齢は68歳,患者全体でも67歳に達している.腎不全の原疾患は,糖尿病性腎症が年々増加し,透析患者全体のなかでも最多の原疾患となった.こうした患者背景の変化と治療法の進歩が拮抗し,年間粗死亡率10%,1年生存率85%,5年生存率60%は経年的にほぼ不変である.透析患者の死因は心不全が最も高く,ついで感染症,悪性腫瘍,脳血管障害と続くが,死因の40%が心血管障害で占められている.
病態生理
 患者の長期生存が可能とはいえ,透析療法は腎機能の一部を代行しているにすぎない.そこで維持透析療法においては,体内に蓄積する尿毒症物質それ自体による酸化ストレス,炎症性サイトカインの誘導がみられたり,除去能に適応するための食事制限,それに透析治療で水溶性ビタミンやアルブミンなどが喪失することなどが複合した栄養障害(malnutrition)を生じ,かつ,慢性炎症状態(inflammation)におかれている.これらに加えて,高血圧,脂質代謝異常,内分泌異常,ミネラル代謝異常などから動脈硬化(atherosclerosis)が促進される.これをそれぞれの頭文字をとってMIA症候群といい,合併症の病態を形作る.
 また,ミネラル調節システムは,腎臓がもつ排泄機能や内分泌機能によって制御されており,腎不全により異常をきたす.これは骨や副甲状腺の異常のみならず,血管の石灰化機序に大きく関与することが次第に明らかとなり,mineral and bone disorder:CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常)という概念でとらえられるようになった.
 長期透析合併症に関連する尿毒症物質としてよく知られているものにβ2-ミクログロブリンがある.これを主要構成蛋白とするアミロイド蛋白が臓器に沈着すると,さまざまな障害を起こし,これを透析アミロイド症という.確定診断には組織でのCongo-red陽性所見とβ2-ミクログロブリンの証明,電顕でのアミロイド線維の確認を要する.
 以上のような病態が長時間にわたり持続して臓器障害や新たな疾病を生じたものがいわゆる「透析合併症」である. 透析合併症の標的臓器は,心臓,動脈,副甲状腺,骨関節,腎,神経,皮膚などがある.
1)心臓
(透析心): 血液透析が間欠的な血液浄化療法であるため,透析間には水,ナトリウムなどが貯留し,循環血漿量が増加した状態にある.腹膜透析では体液量の変動は少ないが,体液過剰傾向に管理されていることが多い.また,腎性貧血や動静脈シャント(血管アクセス)の設置が心負荷となり,長期透析患者では心筋は肥大し,進展すると心筋症様の所見を呈する.これには高血圧,透析で除去できない尿毒素の作用,動脈硬化なども増悪因子となる.
2)高血圧と動脈硬化:
高血圧は循環血漿量の過剰,レニン-アンジオテンシン系の異常,内皮依存性血管拡張の障害,尿毒症物質などが関与しているといわれている.動脈硬化は上述したように,尿毒症物質,血管の石灰化など,非腎不全患者とは一部異なる機序があり,したがって血管の病理組織変化も異なってくる.
3)副甲状腺:
高リン血症とビタミンD活性化障害に基づく低カルシウム血症が発症因子となり,持続する高リン血症,活性型ビタミンDの欠乏から,長期に副甲状腺が刺激を受け,ホルモン(PTH)過分泌が続くと,びまん性過形成から結節性過形成へと進展し,血清カルシウムが高値になってもPTH分泌が抑制されず,治療抵抗性の二次性副甲状腺機能亢進症に進展する.
4)骨関節:
PTHの過剰から線維性骨炎が,活性型ビタミンDの欠乏と低カルシウムから骨軟化症が発症する.また,PTHに対する骨の反応性低下は無形成骨を引き起こす.アミロイド骨関節症は,アミロイド物質が骨や関節に沈着して起こる.
5)腎臓:
機能が廃絶した萎縮腎に囊胞が多発し,やがて腫大して多発性囊胞腎様の外観を呈する(多囊胞化萎縮腎;acquired cystic disease of kidney:ACDK).これは高率に腎細胞癌を合併する.ACDKは腎移植で改善することから,長期の尿毒症病態が原因とされる.
6)神経:
血圧調節,消化管運動機能には自律神経障害が,痛みやかゆみ,壊疽や運動障害には末梢神経障害が関与する.これらは長期透析患者のQOLに大きな障害を及ぼす.
7)皮膚:
皮膚表層のバリア,汗腺など,皮膚がもつ機能が障害を受ける.
8)その他:
透析アミロイド症はほかにも臓器や血管に非特異的に沈着し,障害を及ぼす.
合併症
1)心血管系合併症:
 a)心不全:高血圧,心肥大,循環血漿量の増大などで容易にうっ血性心不全を発症する.特に心予備能の低下した患者,飲食摂取量の過剰,透析による水分除去が不十分な例で発症リスクが増加する. b)虚血性心疾患:動脈硬化と血管石灰化から狭心症,心筋梗塞の発症頻度は高く,心筋梗塞は死因の第5位を占める.死に至らずとも虚血性心疾患の既往は心不全のハイリスクである.
 c)弁膜症:弁膜石灰化を伴う大動脈弁狭窄症や僧帽弁狭窄症が認められることがしばしばあり,加齢変性以外に,上述のMIA症候群が進展増悪を加速する.
 d)心膜炎:高度の尿毒症(透析導入期)のみならず,維持透析期にも透析不足,溢水,低栄養などに合併して発症する.血性の心囊液を認める.
 e)不整脈:透析患者の不整脈は虚血性およびほかの心筋症,心臓弁膜症,電解質異常,循環血液量の急激な変化に伴うもの,刺激伝導系への異所性石灰化,アミロイドの沈着などが原因となる. f)低血圧:透析中の急激な血圧低下,起立性低血圧,常時低血圧と多彩な型の低血圧が出現する.心機能低下,自律神経障害などから長期透析に伴い低血圧患者が増加する.血圧低下のため十分な透析による除去ができなくなった患者の生命予後は不良である.
 g)脳血管障害:脳梗塞よりも脳出血の頻度が高いことが透析患者の特徴である.高血圧,動脈硬化が重要な原因であるが,患者の高齢化や糖尿病患者の増加などにより最近は脳梗塞も増加している.脳血管障害は死因の第4位を占める. h)末梢血管疾患:糖尿病,腎硬化症を原疾患とする患者を中心に難治性の本疾患が増加している.
2)消化器系合併症:
 a)便秘:消化管運動能の低下,水分,食事制限,カリウムキレート剤服用などを背景として便秘が高率にみられる.
 b)消化管障害:粘膜のびらん,出血,潰瘍を呈しやすい.動脈硬化,血管壁へのアミロイド線維の沈着(透析アミロイドーシス)に加え,透析に伴う血圧の低下から虚血性腸炎や腸間膜動脈循環不全を起こしやすい.
 c)ウイルス性肝炎:1990年以前からの透析患者では腎性貧血に対して輸血が頻繁に行われ,HBV,HCV感染率は献血者に比しそれぞれ約10倍,約30倍高い.最近は透析導入時にすでに肝炎,肝硬変を有する患者の治療管理に注意が必要となっている.
3)骨関節障害:
 a)腎性骨異栄養症【⇨11-1-2)-(5)】
 b)アミロイド骨関節症:靱帯,関節,骨のアミロイド沈着病変の総称である. c)手根管症候群:手根管靱帯に沈着したアミロイド線維が正中神経を圧迫して発症する.
 d)関節炎:関節滑膜へのアミロイド沈着,沈着に伴う滑膜の破壊性病変により発症する多発性関節炎,関節周囲炎で難治性である.
 e)破壊性脊椎関節症:アミロイド線維の脊椎椎間板,脊椎骨への沈着と破壊により発症する.脊椎管狭窄症などから日常生活を大きく阻害する.
 f)骨囊胞:骨を破壊し,囊胞にアミロイド物質が蓄積した部位は軽微な外力でも骨折しやすくなる.
4)感染症:
患者の個別要因として細胞性免疫の低下,栄養障害などから感染症罹患のリスクが増加し,特に結核の発症リスクは健常人の5倍以上高い.血液透析療法のシステム要因として,集団の空間での治療,穿刺して血液を体外に循環させる治療であることから,飛沫感染,空気感染,皮膚や回路から侵入した血流感染が起こり得る.よって,透析患者死因の第2位は感染症である.
5)悪性腫瘍:
多囊胞化萎縮腎に合併する腎細胞癌の発症リスクは健常者に比し約4倍高い.その他の悪性腫瘍の発症頻度も一般に高く,腎不全に起因する細胞性免疫異常,発癌物質の排泄障害などが原因とされる.
6)血液異常:
 a)腎性貧血【⇨11-1-2)-(4)】 b)出血傾向:血小板機能異常,貧血に伴い止血時間が延長する.出血性合併症の増悪因子となる. c)粘稠度亢進:透析で除水をすることで血液濃縮が起こるときや,赤血球造血刺激因子の導入に伴う貧血改善速度や改善目標値が高すぎる場合,血液粘稠度の上昇につながり,血栓性合併症の助長因子となる.
7)CAPDに特有の合併症:
 a)腹膜炎:日々の腹膜透析液交換操作に伴う細菌汚染が最も多い.腹膜カテーテル挿入部からの細菌侵入がこれに続く.
 b)被囊性腹膜硬化症:長期の腹膜透析に伴い腹膜の肥厚・硬化から透析効率の低下,消化管運動の抑制が生じ,腸閉塞をきたす致死的合併症である.
 c)肥満,脂質異常症:透析液中の糖の体内吸収が原因とされる.動脈硬化の促進因子となる.
8)その他:
色素沈着・瘙痒症などの皮膚病変,インポテンツ,不妊症などの性機能障害,高プロラクチン血症などの内分泌障害,低HDLコレステロール・高中性脂肪などの脂質代謝異常,耐糖能異常,不眠症など多彩な合併症が認められる.
治療
 十分な透析療法を行って尿毒症物質除去や体液管理を適切に行うことが治療上,最も重要である.食事療法においては,Na摂取の制限による体液管理,Ca・P管理だけでなく,栄養障害の進行を抑えるための栄養所要量の確保が必要である.蛋白質1.0~1.2 g/kg/日,エネルギー30~35 cal/kg/日,食塩7 g以内,水分(自由水)は尿量プラス500 mL/日未満を目安とした栄養管理を行う. 薬剤による長期透析患者の治療は,大きく分けて,心血管作動薬による血圧管理,赤血球造血刺激因子と鉄の補充を適切に行う貧血管理,異所性血管石灰化に基づく動脈硬化性疾患発症を抑制することも視野に入れて,リン吸着薬や活性型ビタミンD製剤,透析液Ca濃度などを調整して血清P濃度,血清補正Ca濃度の管理が行われる.また,血清PTH濃度を管理目標値内に保つよう,必要に応じてシナカルセト塩酸塩の投与を行う.近年,心血管系合併症の一次予防,二次予防のために抗血小板療法が幅広く実施されるようになっているが,上述のような動脈硬化のリスク,血小板機能異常をもつ腎不全病態では抗血小板療法のリスクとベネフィットについては,心血管疾患の発生頻度,出血性合併症,心血管イベントによる死亡率などについて積極的な介入を推奨しない報告もあり,さらに検討が必要である. 手術療法による長期透析患者の治療は,手根管開放術,脊椎管開窓術,関節アミロイド除去など,透析アミロイド症の治療目的,保存的管理が困難な副甲状腺機能亢進症に対する副甲状腺摘出術などが行われている.[宮崎真理子]
■文献
日本透析医学会:慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン.透析会誌,45: 301-356, 2012.
日本透析医学会:血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン.透析会誌,44: 337-425, 2011.
日本透析医学会統計調査委員会:図説 わが国の慢性透析療法の現況 2011年12月31日現在.日本透析医学会,2012.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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