内科学 第10版 「閉塞性血栓血管炎」の解説
閉塞性血栓血管炎(動脈系疾患)
概念
Buerger病(ビュルガー病)ともよばれ,四肢の動脈に閉塞性の血管炎をきたす疾患である.虚血症状として間欠性跛行や安静時疼痛,虚血性皮膚潰瘍,壊疽をきたす.下肢のみならず上肢血管にも生じ,虚血症状を生じる.
原因
いまだ原因は不明である.特定のヒト白血球抗原(human leukocyte antigen:HLA)との関連性や歯周病との関連が疑われている.発症には喫煙が強く関与しており,喫煙による血管攣縮が誘因になると考えられている.患者の約90%に明らかな喫煙歴を認め,間接喫煙を含めるとほぼ全例が喫煙と関係があると考えられる.
疫学
年間の全国推計患者数は約8000人であり,男女比は9.7:1と圧倒的に男性が多い.推定発症年齢は男女とも30歳代から40歳代が最も多い.
臨床症状
四肢末梢主幹動脈に多発性の分節的閉塞をきたすため,動脈閉塞によって末梢の虚血症状を認める.虚血が軽度のときは冷感やしびれ感,寒冷暴露時のRaynaud現象を認め,高度となると間欠性跛行や安静時疼痛が出現し,高度虚血状態では,四肢に潰瘍や壊死を形成する.遊走性血栓性静脈炎もみられる.
診断
末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)や膠原病に伴う血管炎,血小板増加症に伴う血管狭窄との鑑別が重要である.典型的な症例では,CTアンギオグラフィ,血管造影にて前腕や下腿動脈より遠位部の血管の閉塞やコルク栓抜き(cork screw)像を呈する(図5-17-4AB).近位部の太い動脈は正常であるが,血栓形成により経過中に近位部にまで閉塞が及んだり,高位動脈に病変がスキップして閉塞が生じることもある.
経過・予後
生命予後は,末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)に比べてよいが,若年発症でありQOLを著しく脅かすことも少なくない.禁煙しない場合は病変の進行が早い.虚血の進行に伴い,指趾の切断や下肢病変の潰瘍や感染から下肢切断術に至る例もある.
治療
適切な禁煙指導を行い,間接喫煙を含め禁煙を徹底させる.また患肢の保温,保護に努めて靴ずれなどの外傷を避け,歩行訓練や運動療法が基本的な治療である.
薬物療法としては経口抗血小板薬による血栓形成予防が重要である.重症例に対しては可能であればバイパス術などの観血的血行再建を行う.交感神経節切除術やブロックも効果を認める.
安静時痛・潰瘍壊疽を伴う重症例では,閉塞部位の観血的血行再建が不可能な例が多く,自家骨髄単核球細胞などによる血管再生医療が行われている.[的場聖明・松原弘明]
■文献
小室一成編:新・心臓病診療プラクティス 15 血管疾患を診る・治す,文光堂,2010.末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン.Circulation Journal, 73(suppl Ⅲ), 2009.
Norgren L, Hiatt WR, et al: TASC II Working Group. Inter-Society Consensus for the Management of Peripheral Arterial Disease (TASC II). J Vasc Surg, 45 (suppl S): S5-67, 2007.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報