灯火を消した暗やみの中で,めいめいが持ちよった一品ずつの材料を大なべに煮立てた汁の中に投じ,ころあいをはかって暗中模索してすくい上げて食べるという飲食遊戯。明治・大正期の書生たちが盛んに行ったもので,正岡子規も俳誌《ホトトギス》の発行所などでしばしばこの催しを楽しんでいる。
飲食遊戯ないしは遊戯的共食は,いちおう衣食が充足された状況下では必ず起こるもので,日本では10世紀ころから闘飲(とういん)(大酒大食会)とともに頻繁に行われた一種物(いつすもの)がその先蹤(せんしよう)といえよう。これはその名のように,参会者が酒,さかな(肴)などを1種ずつ持ちよって趣向を楽しんだ遊びで,《続古事談》(1219)には〈殿上ノ一種物ハツネノ事ナレドモ,久シクタエタルニ,崇徳院ノスヱツカタ,頭中将公能朝臣ハ絶タルヲツギ廃タルヲ興シ〉と見え,しばらく中絶していたのを,1130年代に藤原公能が再興したといっている。室町期にはめいめいが物を出すの意で各切(かくせつ)と呼び,僧侶や権門勢家の使用人などがこれを楽しんでおり,いまも北陸地方などには持ち寄りでする宴会を〈かくせつ〉と呼ぶところがある。また,〈汁〉と称した宴会も室町期から行われている。主人役が汁,あるいは汁と菜(さい)を準備し,客はおのおの飯を持参して食べながら歓談するというものだったようであるが,同時にこれは汁講,汁会と呼ばれて一味同心の連帯を確認,強化するための共食の意味をもつようになった。江戸時代になると都市,農村ともにこうした形の共食を行い,それが法令伝達の場ともなった。
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
手当たりしだいの材料を入れてつくった鍋(なべ)料理。これは美味をつくりだす料理ではなく、味を中心とする一種の遊びである。何人かが各自変わった材料を持ち寄り、それが何であるかをお互いに発表しない。鍋に水を少々張って火にかけ、灯火を消して持参の材料を鍋の中に入れる。しばらく煮てから、暗闇の中であるいは灯火をつけて、鍋の中のものを食べる。食べられないものや毒のあるものは加えないのを原則とする。そして、箸でつまんだものはかならず食べなければならないという決まりであった。ときにはすばらしいごった煮ができるが、甘いぼた餅などを入れて全体を甘ったるくしてしまうといった悪いいたずらをすることもあった。
[多田鉄之助]
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