防振合金(読み)ぼうしんごうきん(その他表記)high-damping alloy

改訂新版 世界大百科事典 「防振合金」の意味・わかりやすい解説

防振合金 (ぼうしんごうきん)
high-damping alloy

構造材料として使用できる強さと靱性(じんせい)をもち,振動減衰能が大きく,防振あるいは防音の役割も果たす合金制振合金ともいう。金属材料は一般に振動が持続しやすいことは金属製品をたたいてみるとわかるが,この特性楽器の発音体や釣鐘などに利用されている。しかし一方,機械の振動や発する騒音公害として社会問題にもなっている。機械の振動を少なくするには,設計の際に寸法・形状をくふうしたり,ゴムなどのダンパーを付けたりすることが一般に行われているが,材料そのものに防振性をもたせるという発想で合金の研究が進められた。振動の減衰は,一つには周囲の空気や支持体に振動エネルギーが逃げることによるが,材料内部でも種々の機構によって振動が熱エネルギーに変化することによっても起こる。防振合金はこの内部での減衰能をとくに大きくするように内部組織をくふうしたもので,複合型,強磁性型,転位型,双晶型の4種がある。

 防振合金が工業的に注目されるようになったのは比較的新しく,1950年代である。それ以前から工作機械やモーターに広く使用されてきた片状黒鉛鋳鉄は,片状の黒鉛が分散しているという組織が振動の減衰に有利であるため,防振という点からもその性能が再認識された(複合型)。蒸気タービン翼として用いられてきた12クロム鋼や13クロム・モリブデン鋼は,耐熱性のすぐれた材料とされていたが,減衰能が高く,振動を防止するのに役立っている。その減衰能は強磁性体の磁壁が移動することによることが明らかになり,その性質をさらに改良した鋼が開発されている(強磁性型)。同じ原理によるコバルト-ニッケル合金もある。マンガン-銅合金はマンガン量の広い範囲にわたって減衰能が高い。これは焼入れによって生成されるマルテンサイト組織内の双晶の運動によるものといわれている(双晶型)。マンガン54%-銅37%-アルミニウム4%-鉄3%-ニッケル2%の合金はイギリスで開発されたもので,ソノストーンと呼ばれ,潜水艦のスクリューとして使用され成果をあげている。純金属ではマグネシウムが大きい減衰能を示すので,ジルコニウム,ニッケルなどを添加して強さを改良した合金がつくられている(転位型)。防振合金は現在までのところ広く使用されるには至っていないが,防振,防音の社会的重要性から今後発展するものと思われる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「防振合金」の意味・わかりやすい解説

防振合金
ぼうしんごうきん
damping alloy

振動の減衰の著しい合金。機械の振動発生源に使用して騒音を防ぎ、また共振状態になることを防止するための合金である。減衰の原理から次のように分類される。〔1〕母相と第二相界面の流動(片状黒鉛鋳鉄など)、〔2〕磁性合金中の磁区の移動(鉄‐クロム‐アルミニウム合金=サイレンタロイなど)、〔3〕双晶やマルテンサイト相の境界の移動(ニッケル‐チタン合金=ニチノール、およびマンガン‐銅合金など)。そのほか、マグネシウム合金も減衰能が大きいので利用される。

[須藤 一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「防振合金」の意味・わかりやすい解説

防振合金
ぼうしんごうきん
high-damping alloy

音や振動のエネルギーを吸収し減衰させる特性をもつ合金。制振合金ともいう。音や振動を伝えやすいという金属の欠点を補うよう開発されたもので,2相混合組織,磁区壁の非可逆移動などによって振動エネルギーを吸収する。アルミ亜鉛合金,鉄-ニッケル-12%クロム鋼,マンガン-銅合金,銅-アルミ-ニッケル合金,マグネシウム-ジルコニウム合金などがある。鉄-クロム-アルミ合金は,フェライト系のステンレス防振合金でサイレンタロイともいう。鉄-モリブデン合金はゼンタロンと呼ばれる。なお,鋼板間にゴムや樹脂をはさんで防振,防音に用いる制振鋼板とは別のもの。

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