小説家。山形県東根(ひがしね)市生まれ。高校中退後、日本映画学校映像科映画演出コースに進学。自主映画づくりのかたわら、20歳ごろから小説に取り組み、1994年(平成6)「アメリカの夜」(応募時のタイトルは「生ける屍(しかばね)の夜」)で『群像』新人文学賞を受賞。選考委員は柄谷行人(からたにこうじん)、田久保英夫、後藤明生(めいせい)、三木卓(たく)(欠席)、李恢成(りかいせい/イフェソン)。当時の選評としては、ドストエフスキーの『地下生活者の手記』と比したうえで「たいへん力量のある人が出てきたことを喜ぶ」と絶賛した柄谷行人をはじめとしておおむね好評であった。同作で第111回芥川(あくたがわ)賞の候補になる。1995年「ABC戦争」を『群像』に発表。「アメリカの夜」「ABC戦争」ともに蓮實重彦(はすみしげひこ)により高い評価を受ける。
1997年『新潮』に渋谷を舞台とした「インディヴィジュアル・プロジェクション」を発表。同年刊行され、グラフィックデザイナー常盤響(ときわひびき)(1966― )による装丁とともに文芸ジャーナリズムの話題をさらう。著者の意図を離れて、「シブヤ系文学」「J文学」などの造語まで生む作品となった。ちなみに、「J文学」という造語をつくりだした『文芸別冊 90年代J文学マップ』(1998)のなかの阿部へのインタビューでは、当然のことながら「J文学」ということばにはまったく言及されていない。同作をめぐっては批評家東浩紀(あずまひろき)(1971― )、高橋源一郎、文芸評論家渡部直己(わたなべなおみ)(1952― )らとの対談がなされた。徹底的に人為的に構築された「作品世界」と、人工的な市街地である「渋谷」とを重ねあわせるその手法とともに、私小説的な伝統から切断されたまったく新しいタイプの書き手として評価される。
1999年『無情の世界』(表題作のほかに「トライアングルズ」「鏖(みなごろし)」を収録)にて野間文芸新人賞を受賞。選考委員は秋山駿(しゅん)(1930―2013)、柄谷行人、黒井千次(せんじ)、高橋英夫(1930―2019)、富岡多恵子、三浦雅士(まさし)(1946― )。「トライアングルズ」は第118回芥川賞候補となった。同年10月より『アサヒグラフ』にて「シンセミア」の連載を開始。「ニッポニアニッポン」は『新潮』2001年7月号に発表され、第125回芥川賞候補となる。このほかの著書に『公爵夫人邸の午後のパーティー』(1997、表題作のほかに「ヴェロニカ・ハートの幻影」を収録)、映画監督の青山真治(1964―2022)、黒沢清(1955― )、塩田明彦(1961― )、映画評論家安井豊(ゆたか)(現、安井豊作(ほうさく)。1960― )らとの共著『ロスト・イン・アメリカ』(2000)、エッセイ集『アブストラクトなゆーわく』(2000)、『ニッポニアニッポン』(2001)、『シンセミア』(2003。伊藤整(せい)文学賞、毎日出版文化賞)などがある。2005年『グランド・フィナーレ』で第132回芥川賞を受賞した。
[池田雄一]
『『公爵夫人邸の午後のパーティー』(1997・講談社)』▽『阿部和重特別インタヴュー「水の詰まったスポンジ状態のリアル――渋谷、スパイ、地球危うし」(『文芸別冊 90年代J文学マップ』所収)(1998・河出書房新社)』▽『『無情の世界』(1999・講談社)』▽『『アブストラクトなゆーわく』(2000・マガジンハウス)』▽『青山真治・阿部和重他著『ロスト・イン・アメリカ』(2000・デジタルハリウッド出版局)』▽『『ニッポニアニッポン』(2001・新潮社)』▽『『シンセミア』上下(2003・朝日新聞社)』▽『『アメリカの夜』(講談社文庫)』▽『『ABC戦争』『インディヴィジュアル・プロジェクション』『ニッポニアニッポン』『無情の世界』(新潮文庫)』▽『東浩紀著『郵便的不安たち』(1999・朝日新聞社)』
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