田久保英夫(読み)タクボヒデオ

デジタル大辞泉 「田久保英夫」の意味・読み・例文・類語

たくぼ‐ひでお〔‐ひでを〕【田久保英夫】

[1928~2001]小説家東京の生まれ。米軍キャンプに働く学生アルバイト主人公にした「深い河」で芥川賞受賞。短編名手として知られる。他に「辻火」「髪の」「触媒」「海図」「木霊こだま」など。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「田久保英夫」の意味・わかりやすい解説

田久保英夫
たくぼひでお
(1928―2001)

小説家。東京生まれ。10代なかばからの戦争期(第二次世界大戦)を、工場動員と病気療養生活のうちに過ごす。戦後の1948年(昭和23)慶応義塾大学仏文科(新制)に進学、在学中から山川方夫(まさお)らと戦後第二次『三田(みた)文学』の編集にあたり、1953年に卒業。戦時下の世相を背景に、浅草の料亭に育つ少年の成長と心理を描いた自伝的な『解禁』(1961)などを経て、1969年の『深い河』で第61回芥川(あくたがわ)賞を受賞。朝鮮戦争下に、雲仙(うんぜん)高原の米軍キャンプで馬の世話をするアルバイト学生を主人公にした小説である。作中には、「どんな言葉も観念も撥(は)ねのけてしまう深い虚(うつ)ろさ」という表現もあるが、こうした空虚感ないし欠如感を深く蔵しつつ、濃密な文体と鋭敏な美意識で、おもに男女間の心理の陰影を細やかに描いた。とくに短編の名手として知られ、母の依頼で故郷下町叔母を訪ねる男を描いた短編「辻火(つじび)」(1984。作品集『辻火』は1986年刊)で川端康成(やすなり)文学賞を受賞。また、作品集『髪の環(わ)』(1976)で毎日出版文化賞、『触媒』(1978)で芸術選奨文部大臣賞、妻子と別居して若い女性と同棲(どうせい)する40代の作家を主人公とした連作長編『海図』(1985)で読売文学賞、友人や近親者の死をモチーフにした短編集『木霊(こだま)集』(1997)で野間文芸賞を受賞した。この間、芥川賞の選考委員なども務めたが、2001年(平成13)4月に食道癌(がん)のため73歳で急逝した。没後に刊行された著書に、初老の小説家の精神的危機を、若い女性との性的関係を通して描いた長編『仮装』(2001)や、甘美にして恐怖に満ちた人生の諸相を描いた短編集『生魄(せいはく)』(2001)がある。

[宗像和重]

『『深い河』(1969・新潮社)』『『田久保英夫集』(1972・河出書房新社)』『『触媒』(1978・文芸春秋)』『『辻火』(1986・講談社)』『『川の手物語』上下(1994・新潮社)』『『木霊集』(1997・新潮社)』『『仮装』(2001・新潮社)』『『生魄』(2001・文芸春秋)』『『水中花』(集英社文庫)』『『髪の環』(講談社文庫)』『『海図』(講談社文芸文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

20世紀日本人名事典 「田久保英夫」の解説

田久保 英夫
タクボ ヒデオ

昭和・平成期の小説家 芥川賞選考委員。



生年
昭和3(1928)年1月25日

没年
平成13(2001)年4月14日

出生地
東京・浅草

学歴〔年〕
慶応義塾大学文学部仏文科〔昭和28年〕卒

主な受賞名〔年〕
芥川賞(第61回)〔昭和44年〕「深い河」,毎日出版文化賞〔昭和51年〕「髪の環」,芸術選奨文部大臣賞(第29回・文学・評論部門)〔昭和53年〕「触媒」,川端康成文学賞(第12回)〔昭和60年〕「辻火」,読売文学賞(小説賞)〔昭和61年〕「海図」,野間文芸賞(第50回)〔平成9年〕「木霊集」

経歴
料亭の家に生まれる。中学時代カリエスで長期療養をし、その間に詩を作り始める。慶大在学中は第2次「三田文学」の編集に携わり、29年山川方夫らと第3次「三田文学」を起こす。卒業後、東京・新橋に旗亭を経営する一方、詩・小説・放送台本・舞台脚本などを書き、36年「解禁」「睡蓮」が続けて芥川賞候補となり、44年朝鮮戦争中に米軍キャンプでアルバイトした経験を基に創作した「深い河」で芥川賞受賞。気品ある文体による短編を次々に発表した。他の作品に「髪の環」「触媒」「女人祭」「辻火」「海図」「氷夢」「夢ごころ」「空の華」「木霊集」など。

出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「田久保英夫」の解説

田久保英夫 たくぼ-ひでお

1928-2001 昭和後期-平成時代の小説家。
昭和3年1月25日生まれ。昭和29年山川方夫(まさお)らと第3次「三田文学」をおこす。44年「深い河」で芥川賞,51年「髪の環(わ)」で毎日出版文化賞,61年「海図」で読売文学賞,平成9年「木霊集」で野間文芸賞など,受賞多数。精緻な文体で男女間の心理をえがく作品がおおい。平成13年4月14日死去。73歳。東京出身。慶大卒。

出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例

367日誕生日大事典 「田久保英夫」の解説

田久保 英夫 (たくぼ ひでお)

生年月日:1928年1月25日
昭和時代;平成時代の小説家
2001年没

出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android