メンガー(読み)めんがー(英語表記)Carl Menger

日本大百科全書(ニッポニカ) 「メンガー」の意味・わかりやすい解説

メンガー
めんがー
Carl Menger
(1840―1921)

オーストリア経済学者、オーストリア学派の創始者。W・S・ジェボンズ、L・ワルラスと並ぶ「限界革命トリオの一人。法学者アントン・メンガーの兄。ウィーン大学プラハ大学で法律を学び、新聞記者を経て内閣新聞局に入り、そこで市況報告を書くうちに価格理論や経済学に興味をもつようになった、といわれている。1872年ウィーン大学私講師、翌年員外教授、1879年経済学教授となって、1903年F・ウィーザーに席を譲るまで在職した。主著国民経済学原理Grundsätze der Volkswirtschaftslehre(1871、第一部のみ刊行)において、消費財の価値は当該財の最終単位量が消費者に対してもつ重要度によって定まるという、今日の通称限界効用理論」を独立に提唱し、また消費者によって直接消費されない生産財(高次財)の価値はそれを用いて生産される消費財の価値が転嫁されたものであるとして、のちにウィーザーが「帰属理論」として定式化した理論の先鞭(せんべん)をつけ、経済現象を人間の合理的行動に基づく限界効用一元論によって説明しようとした。メンガーは、従来上述のこととともに、『社会科学方法に関する研究Untersuchungen über die Methode der Sozialwissenschaften und der politischen Ökonomie insbesondere(1883)などによる1880年代のG・シュモラーとの方法論争著名だったが、最近は彼の時間要素の取扱い方や貨幣論面にも注意を払うメンガー再考察の動きが強まっており、このことにも関連して、子息の数学者カール・メンガーKarl Menger(1902―1985)により彼の死後出版されながら、従来はほぼ無視されていた『国民経済学原理』の父の書き込みに基づく増補第2版(1933。同年から1936年にかけて刊行された4巻の『メンガー全集』の第1巻。邦訳書名『一般理論経済学』)や貨幣論論文への関心が高まっている。

[早坂 忠]

『安井琢磨・八木紀一郎訳『国民経済学原理』(1999・日本経済評論社)』『八木紀一郎他訳『一般理論経済学』全2巻(1982、84・みすず書房)』『戸田武雄訳『社会科学の方法に関する研究』(1937・日本評論社)』『福井孝治・吉田昇三訳『経済学の方法に関する研究』(岩波文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「メンガー」の意味・わかりやすい解説

メンガー
Menger, Carl

[生]1840.2.23. ノビザンク
[没]1921.2.26. ウィーン
オーストリアの経済学者。 A.メンガーの兄。オーストリア学派の祖であり,L.ワルラス,W.S.ジェボンズと並ぶ限界効用理論の確立者の一人として著名。ウィーン大学,プラハ大学で法律を学び,1867年クラクフ大学から哲学の博士号取得。新聞記者を経て内閣新聞局に入り,そこで市況報告を書くうちに価格理論に興味をもつようになったといわれる。 72年ウィーン大学私講師,翌年員外教授,79年同大学経済学教授。彼は主著『国民経済学原理』 Grundsätze der Volkswirtschaftslehre (1871) において,財の価値は当財の最終単位の消費から得られる効用,すなわち限界効用によって決定されると考えた。一方,生産財の価値については直接個人の欲望の対象とはならないが,生産財が1単位存在しない場合に生じる消費財の減少に対する効用によってはかることができると考え (派生需要) ,個人の主観的欲望を源として財に対する統一的で精密な体系を打立てた。さらに『社会科学の方法に関する研究』 Untersuchungen über die Methode der Sozialwissenschaften und der politischen Ökonomie insbesondere (83) では,歴史学派の方法論を批判し,理論の自立を強く求めた。のちの G.シュモラーとの方法論争はここに端を発している。ほかに論文"Das Geld" (92) などが代表作。

メンガー
Menger, Anton

[生]1841.9.12. ガリチア,マニエーフ
[没]1906.2.6. ローマ
オーストリアの法学者。 C.メンガーの弟。古典的私法体系,とりわけ物権・債権・相続法を少数の所有階級の利害に奉任するものとして批判,改良主義的な社会主義的立法による改革を主張し,その立場から生存権や労働権の確立を主張したが,エンゲルスらから法曹社会主義と嘲笑された。主著『全労働収益権史論』 (1886) など。

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