改訂新版 世界大百科事典 「限界革命」の意味・わかりやすい解説
限界革命 (げんかいかくめい)
marginal revolution
1870年代にW.S.ジェボンズ,C.メンガー,L.ワルラスの3人の経済学者が,ほぼ同時に,かつ独立に限界効用理論を基礎にした経済学の体系を樹立し,古典派経済学に対して近代経済学を創始したことをいう。早坂忠の考証によれば,1930年代にJ.R.ヒックスが,限界効用理論をはじめて使うという一般的な意味で限界革命という表現を使用し,ついでH.ミントが1870年代の経済学の革命を限界革命と呼んだという。したがってこの言葉は,ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスの経済学者たちにより使用されはじめ,その新厚生経済学の紹介を通じて日本に導入されたといえよう。非常に一般的に使用されるようになったのは,科学史の分野でT.S.クーンにより科学革命の意義が強調されたこともあり,1970年代になって経済学史上の限界革命は科学革命といえるかどうかの議論がさかんになってからである。
限界効用,限界生産力などの限界概念をすでに使用していた限界革命の先駆者として,A.クールノー,A.デュピュイ,H.ゴッセン,J.チューネンらが,ジェボンズ,ワルラスによって認められている。ジェボンズとワルラスはまた彼ら自身およびメンガーの貢献の類似性を強調したが,最近の経済学史研究ではこれら3人の類似性ではなく,異質性を強調することが多い。ワルラスにとって限界効用は,その一般均衡理論(経済の諸部門間の相互依存性を強調する理論)のためのひとつの道具にすぎない。しかしジェボンズは,イギリス功利主義哲学の影響もあり,快楽や苦痛の計算体系である限界効用理論をより重視する。またメンガーおよびオーストリア学派は,生産要素の価値はそれから生産される消費財の効用価値が帰属すると考えて,限界効用理論にもとづき経済理論の全分野をとらえようとする。さらに,市場機構に関する考え方も3人の間で非常に大きな相違がある。
→限界効用理論
執筆者:根岸 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報