歌舞伎狂言。世話物。3幕8場。通称《梅の由兵衛》。並木五瓶作。1796年(寛政8)1月江戸桐座初演。おもな配役は,由兵衛を3世沢村宗十郎,女房小梅・丁稚長吉を3世瀬川菊之丞,金谷金兵衛を3世大谷広次,信楽(しがらき)勘十郎を2世坂東三津五郎,源兵衛を嵐竜蔵,額の小さんを松本米三郎,金谷金五郎を市川男女蔵。元禄(1688-1704)ごろ,大坂にいた梅渋吉兵衛という悪者が,丁稚長吉を殺して金を盗んだ事件を脚色したもの。1736年(元文1)1月江戸中村座の《遊君鎧曾我(ゆうくんよろいそが)》でまず脚色されたが,悪者は俠客になり,初世沢村宗十郎の男達(おとこだて)梅の由兵衛が白と紺の片身替りの衣装に,鷺と烏の縫いとり,紫の頭巾での立回りが大当りで,台本がまったく違う40年後の本作でも,その姿が流用され,今日まで残った。俠客梅の由兵衛が主筋の若旦那金五郎の必要な二百両の金をととのえるため,妻小梅の弟長吉を,それとは知らずに殺す筋を骨子とし,序幕〈向島大黒屋の場〉で,源兵衛たちの前で喧嘩を封じるため錠をかけていた頭巾を脱ぐところが見せ場になっている。運命悲劇的な長吉殺しと,由兵衛と小梅の夫婦の情愛を見せる三幕目〈由兵衛内〉が作品としては優れている場面である。近年でも《御存知(ごぞんじ)梅の由兵衛》の題名で上演されているが,1978年8月東京の国立小劇場で,原作復帰の上演をした。
執筆者:戸部 銀作
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
歌舞伎(かぶき)脚本。世話物。三幕。初世並木五瓶(ごへい)作。通称「梅の由兵衛(よしべえ)」。1796年(寛政8)1月江戸桐座(きりざ)で、3世沢村宗十郎の由兵衛、3世瀬川菊之丞(きくのじょう)の小梅(こうめ)と長吉などにより初演。元禄(げんろく)(1688~1704)ごろの大坂で梅渋の吉兵衛という悪漢が丁稚(でっち)長吉を殺して金を盗んだ事件を、主役を侠客(きょうかく)として脚色した「梅の由兵衛物」の決定版。主筋の若旦那(だんな)金谷(かなや)金五郎のため金策に苦しむ由兵衛が、女房小梅の弟長吉が姉に頼まれてこしらえたとも知らず、大川端で長吉を殺して金を奪う、という筋(すじ)を骨子として、小梅に横恋慕する源兵衛堀の源兵衛との達引(たてひき)を描く。初世宗十郎がくふうした紫頭巾(ずきん)の扮装(ふんそう)を伝え、短気を封じるため錠をかけた頭巾を敵(かたき)役の前で脱ぐところや、運命悲劇的な長吉殺しの場面が見せ場。近年は場面を改めた序幕「柳島妙見境内」「同橋本座敷」「同塀外」、二幕目「大川端」の構成で多く上演されてきたが、1978年(昭和53)国立劇場で原作復帰の通し上演が行われた。
[松井俊諭]
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…浄瑠璃には,《梅屋渋浮名色揚》(1730年2月以前か,大坂竹本座)や,その改作《茜染野中の隠井》(1738年10月大坂豊竹座)がある。これらの先行作をうけて《隅田春妓女容性(すだのはるげいしやかたぎ)》(1796年1月江戸桐座)が作られ,由兵衛物の代表作となった。【三浦 広子】。…
…続いて二番目狂言(世話物)の序幕,中幕,大切と進むのが基本の形である。1796年(寛政8)1月桐座で並木五瓶が,一番目《曾我大福帳》に対し二番目を独立させて《隅田春妓女容性(すだのはるげいしやかたぎ)》とつけ,一番目と二番目の内容も分離させた。以後それぞれ独立した名題のもとで上演することも行われるようになった。…
※「隅田春妓女容性」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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