障害者虐待防止法(読み)ショウガイシャギャクタイボウシホウ

デジタル大辞泉 「障害者虐待防止法」の意味・読み・例文・類語

しょうがいしゃぎゃくたい‐ぼうしほう〔シヤウガイシヤギヤクタイバウシハフ〕【障害者虐待防止法】

《「障害者虐待防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」の略称家庭福祉施設職場等での障害者に対する虐待の防止を目的とする法律。平成23年(2011)成立。平成24年(2012)10月施行。養護者・施設職員・職場の上司による身体的・心理的・性的・経済的虐待や放置といった行為が障害者虐待にあたり、発見した人は市町村都道府県通報しなければならない。対応窓口として各地方自治体に市町村障害者虐待防止センターや都道府県障害者権利擁護センターが設置され、市町村は家庭に立ち入り調査を行うことができる。

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共同通信ニュース用語解説 「障害者虐待防止法」の解説

障害者虐待防止法

家庭や障害者施設、職場などでの障害者虐待を防ぎ、早期発見するための法律。2012年10月に施行された。虐待を/(1)/身体的虐待/(2)/心理的虐待/(3)/性的虐待/(4)/食事を減らし衰弱させるなどの放棄・放置/(5)/障害年金の使い込みといった経済的虐待―に分類。虐待と思われる事案を発見した人に速やかな通報を義務付け、自治体には通報や相談の窓口設置を求めた。市区町村は家庭への立ち入り調査や被害者の一時保護ができる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「障害者虐待防止法」の意味・わかりやすい解説

障害者虐待防止法
しょうがいしゃぎゃくたいぼうしほう

家庭、福祉施設、職場(事業所)内での障害者への虐待の禁止、防止と早期発見、養護者らへの支援を定めた法律。正式名称は「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(平成24年法律第67号)。2011年(平成23)成立、2012年施行。虐待の事実を訴えられない障害者に対する虐待は社会全体で共通の解決すべき問題であるとの見地から、虐待と疑われる行為を職場などで発見した人に地方自治体への通報を義務づけた。通報を受けた市区町村には家庭内への立入調査権や、被害者を家族や福祉施設から切り離す一時的保護を認めた。保護対象は、障害者基本法に定める身体障害、知的障害精神障害を負う人々であり、虐待者としては、家族など身の回りの世話をする養護者だけでなく、福祉施設の職員、職場の上司や同僚などを想定。虐待内容は「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」のほか、介護・世話の放棄や必要な医療を受けさせない「ネグレクト」、年金や賃金を搾取する「経済的虐待」の5類型とする。虐待発見者に通報義務を課すと同時に、通報者を解雇するなど不利な扱いをすることも禁止した。国と地方自治体は障害者虐待防止や養護者支援の義務を負い、必要に応じて警察へ援助を要請することや、成年後見人をつけるよう裁判所に申し立てることもできる。福祉施設での虐待は、地方自治体が調査のうえ実態を公表し、改善、勧告、業務停止や解散を命令する。地方自治体には通報や届出を受け付ける365日24時間対応の窓口設置が義務づけられた。社会的弱者への虐待防止に関する法律としては、児童虐待防止法(2000年施行)、高齢者虐待防止法(2006年施行)に続く法整備である。

 障害者虐待が社会問題化したため、2004年ごろから法制定の気運が高まったが、郵政民営化を争点とした衆議院解散のあおりなどで、2011年にようやく制定にこぎつけた。しかし同法施行後も障害者虐待は増え続け、厚生労働省の調査では、2021年度(令和3)の障害者虐待に関する相談・通報は1万0545件、虐待の認定件数は2693件といずれも過去最多を更新した。国連障害者権利委員会は2022年、強制入院が横行する精神科医療などの日本の障害者政策に改善を勧告した。なお、同法では医療機関、教育機関、官公署に通報義務を課していないが、2024年4月の改正精神保健福祉法(正称「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」昭和25年法律第123号)施行で、医療機関には速やかに虐待の概要を都道府県に通知することが義務づけられた。

[編集部 2023年9月20日]

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知恵蔵 「障害者虐待防止法」の解説

障害者虐待防止法

障害者の虐待の予防と早期発見、及び養護者への支援を講じるための法律。2011年6月成立、12年10月施行。正式名称を、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」という。
マイノリティーへの虐待に対する法的な取り組みとしては、児童虐待防止法(「児童虐待の防止等に関する法律」、00年11月施行)、高齢者虐待防止法(「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」、06年4月施行)に続くものである。高齢者虐待防止法と同じく、虐待に至った養護者への支援にも言及している。
この法律が虐待を受ける「障害者」として定義しているのは、障害者基本法にある身体障害、知的障害、精神障害を負う人。虐待の種類を、身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、放置、経済的虐待の5分類としている。また、虐待の起こる場所を家庭内に限定せず、福祉施設や職場にも想定し、虐待を行う者として、養護者の他、福祉施設の職員や職場の上司等も想定範囲に含めた対策の必要性を明記した。
更に、虐待問題は虐待者と被虐待者の関係だけにとどまるものでなく、社会全体で共有すべきという視点から、虐待を発見した国民には市町村や都道府県に通報する義務を課している。国と地方公共団体は、障害者虐待の防止、養護者への支援を進める義務を負う。
通報を受けた市町村は、被害者の生命に関わる重大な危険があると判断した場合、家族の許可がなくても家庭内に立ち入って調査することができる。福祉施設での虐待については、都道府県が調査の上指導し、そのの状況と対応を公表する。職場での虐待は、市町村または都道府県から労働局に報告し、調査・指導の上実態を公表する。これに伴い、全ての自治体に「市町村虐待防止センター」が設置され、都道府県には「都道府県権利擁護センター」が置かれる。
法が成立した背景には、障害者虐待事件が後を絶たないという事実がある。これまでにも大きく報道されたものに、水戸アカス事件(1995年発覚。職場での知的障害者に対する身体的・性的虐待)、滋賀サン・グループ事件(95年発覚。職場の上司から知的障害者に対する経済的・身体的虐待)、福岡カリタスの家事件(2004年発覚。知的障害者施設の職員による身体的虐待)などがある。

(石川れい子  ライター / 2011年)

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