日本大百科全書(ニッポニカ) 「雇止め」の意味・わかりやすい解説
雇止め
やといどめ
反復更新されてきた有期労働契約を新たに更新せず、それによってこれまで断続的に維持されてきた雇用関係を終了させること。
使用者が有期労働契約を期間途中で一方的に解約することは解雇に該当するため、かねてより、労働法による規制の対象とされていた(民法628条参照。2007年制定後は労働契約法17条1項も参照)。これに対して、雇止めは、期間満了後に新たな契約を締結しないという事実行為にとどまり、法的に解雇とはいえないため、規制の対象とはされていなかった。そのため、有期労働契約は、解雇規制の枠外での柔軟な雇用調整を行うための手段として、広く活用されるようになった。しかし、有期労働契約は反復更新されることが少なくなく、雇止めは実際上は、長期間にわたり維持してきた雇用関係を解消することを意味するため、雇止めについても、解雇と同様の規制が必要ではないかとの議論がなされるようになった。
このような状況のなか、裁判所は、解雇規制を雇止めに類推適用することで、一定の雇止め規制を行うようになった。解雇については、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇を無効とする判例法理が形成されていた(これを解雇権濫用法理といい、労働契約法16条において立法化されている)。これについて、たとえば、東芝柳町工場事件(最高裁判所昭和49年7月22日判決、民集28巻5号927頁)では、期間の定めが形骸(けいがい)化して実質的に無期契約と同視できる場合に、また、日立メディコ事件(最高裁判所昭和61年12月4日判決、労働判例486号6頁)では、雇用継続の合理的期待利益が認められる場合に、前記の解雇規制を類推適用すべきとされた(東芝柳町工場事件では契約更新拒否が違法であるとされたが、日立メディコ事件では更新拒絶はやむをえないとし適法であるとされた)。雇止めが違法と評価された場合には、有期労働契約の更新が行われることになる。もっとも、このような判例法理による規律は裁判官の裁量や各事件の事実関係によって適用範囲等が変わりうるものなので、法的安定性や判断基準の明確性が十分でないという課題があった。
そこで、2013年(平成25)4月施行の改正労働契約法によって、前記の判例法理が明文化されるに至った。すなわち、労働契約法19条は、有期労働契約が無期労働契約と社会通念上同視できる場合(同条1号)、または、有期労働契約の更新を期待することについて合理的な理由がある場合(同条2号)に、労働者が契約更新の申込みをしたとき、使用者は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められない限りは、当該申込みを拒絶することができないものとされた。これに違反した場合、使用者は、従前と同様の労働条件で、労働者からの申込みを承諾したものとみなされ、雇用関係が維持されることになる。これにより有期契約労働者の雇用保障が一定程度なされているが、あくまでも、有期労働契約としての雇用関係の維持にとどまり、無期労働契約を締結できるわけではない点に留意する必要がある。
ところで、雇止めが適法なものであったとしても、使用者には、一定の手続上の配慮が求められる。すなわち、厚生労働大臣は、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(厚生労働省告示第357号)を定めており、そこでは、契約を3回以上更新されているか、1年を超えて継続的に雇用されている有期契約労働者を雇止めする際には、少なくとも契約期間満了の30日前までに予告をしなければならないとされている。これに関しては、労働基準監督署による助言や指導等が行われることになる(労働基準法14条2項参照)。
[土田道夫・岡村優希 2021年3月22日]