労働基準行政を担う行政機関。厚生労働省・都道府県労働局の指揮監督のもと、第一線にたち、労働基準法(昭和22年法律第49号)、最低賃金法(昭和34年法律第137号)、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)等の労働基準関係法令の施行事務を分掌している。
これら労働基準関係法令は、国家による直接的な労働者保護を目的とするものであり、その実効性確保のための民事上・刑事上の責任規定を備えている。しかしながら、これらの規定には、法違反を未然に防止することができなかったり、違反があった場合の是正を迅速に行うことができなかったりする等の限界が存在する。そのため、労働基準関係法令の実効性を担保し、労働者を十分に保護するためには、専門的行政機関による指導や監督等が必要となる。
そこで、日本においては、厚生労働省(労働基準局)を頂点として、順に、都道府県労働局(47局)、労働基準監督署(321署)が設置され、それぞれが上部機関の指揮監督を受けて労働基準行政を担うものとされている(労働基準法99条1項および2項。設置数は2017年3月31日時点)。労働基準監督署は、厚生労働省・都道府県労働局の指揮監督のもと、第一線機関として、より個別具体的な事案に即した業務を行うことになる。
労働基準監督署は、規模等によって異なるが、基本的には、方面(監督課)、安全衛生課、労災課、業務課から構成されている。第一に、方面(監督課)は、法定労働条件に関する相談を受け付けたり、法違反事実に対して行政指導を求める旨の申告を受け付けたりする業務を行う。また、労働者からの申告や監督計画を契機として、法違反事実等について事業場へ立ち入って臨検を行い、是正指導や行政処分等を行う。加えて、臨検や労働者からの告訴等を端緒として、重大・悪質な法違反事実が確認された場合には、司法警察権を行使し、任意捜査や強制捜査を実施のうえ、検察庁への送検を行うこともある。労働者保護の観点からすれば、法違反を事前に回避するための指導等が基本であり、刑事責任の追及は副次的手段に位置する。しかし、刑事責任の追及は、国家の刑罰権を背景とすることで、使用者による自主的な法遵守を促す(=法の行為規範性を確保する)とともに、法違反事実に対する是正指導等の実効性を担保する機能を有するので、監督を実施するうえで重要な意義を有する。第二に、安全衛生課は、労働者の安全や健康が害されないようにするための事前予防に主眼を置いた業務を行っている。具体的には、労働安全衛生法等に基づき、建築工事等の計画や機械設備等の設置に関する届出の審査、および、事業場への安全指導等を行っている。第三に、労災課は、労働者災害補償保険法等に基づき、実際に発生した業務上災害による負傷・死亡等に対して、事後的に保険給付を行うための業務等を担当している。第四に、業務課は、庶務経理事務等、組織の運営上必要な業務を行っている。
前記の業務を行うために、労働基準監督署には、労働基準監督官その他職員(事務官や技官)が配置されている(労働基準法97条1項。以下の条文番号は、とくに補足のない限りすべて労働基準法をさす)。労働基準監督官をもってあてられる労働基準監督署長(97条2項)は、都道府県労働局長の指揮監督のもと、労働基準法に基づく臨検、尋問、許可、認定、審査、仲裁等に関する事項をつかさどり、所属の職員を指揮監督する権限を有している(99条3項)。また、労働基準監督官は、臨検、帳簿や書類の提出要求、および、尋問等を行う権限を有するとともに(101条1項)、司法警察官の職務を行う権限を有する(102条)。
加えて、これら権限の行使を支援するため、使用者に対しても、労働者名簿の調製(107条)、賃金台帳の調製(108条)、記録の保存(109条)、および、報告出頭(104条の2)等の義務が課せられている。また、労働基準監督署の側から全事業場をあまねく監督することは困難であるので、労働者による法違反事実の申告の機会が認められている(104条1項)。労働者による申告は監督業務の契機となるべき重要なものであるので、申告を行ったことを理由とする解雇等の不利益取扱いが禁止されており(104条2項)、これに違反した使用者には罰則が課せられる(119条1号)。
前記の権限を行使するか否か、または、どのように行使するのかは、基本的には、監督機関の裁量に属する事柄である。もっとも、権限の不行使が著しく合理性を欠く場合等には、国家賠償法(昭和22年法律第125号)上の違法性が肯定され、同法1条1項に基づく損害賠償責任が発生する可能性がある(大東(だいとう)マンガン事件。大阪高等裁判所昭和60年12月23日判決、判例時報1178号27頁。結論としては、違法性を否定し、損害賠償請求を棄却)。
以上のように、労働基準監督署は、労働基準関係法令の施行事務を担う第一線機関としての重要性を有しているが、近年、そこに配置されるべき労働基準監督官が不足している旨の指摘がなされている(内閣府規制改革推進会議が2017年5月8日に公表した「労働基準監督業務の民間活用タスクフォース取りまとめ」など)。そこで、この事態に対処するために、労働基準監督官の増員が図られるとともに、一部業務の民間委託が議論されている。
[土田道夫・岡村優希 2018年11月19日]
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(2013-12-5)
…労働者が,労働義務のない日や時間に労働をした場合,その代りに与えられる休日をいう。(1)労働基準監督署の命令による代休 災害その他避けることのできない非常の事由によって臨時の必要があるとき,使用者は法律の定める労働時間の最高限度を延長し,または休日にその復旧作業に必要なだけ労働者を労働させることができる。この場合,原則として事前に労働基準監督署の許可を受けなければならないが,事態急迫のときは事後に届け出ればよい。…
…労働者に実際に指揮監督する立場にある使用者(その意義に関し10条参照)のみでなく事業主(法人の代表者)も原則として処罰される(117条~121条)。 (2)労働者保護規定が日常的に守られるように使用者を指揮監督する特別の行政機関(労働基準局,都道府県労働基準局,各地域の労働基準監督署)を設置し種々の権限を与え,使用者に対してその監督を円滑に行う上に必要な各種の義務を課している。すなわち,労働基準監督官は事業施設,寄宿舎等に臨検し,帳簿の提出を求め,関係者を尋問することができ(101条),この法律違反の罪については司法警察官の職務を行う(102条)。…
※「労働基準監督署」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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