電線工業(読み)でんせんこうぎょう

改訂新版 世界大百科事典 「電線工業」の意味・わかりやすい解説

電線工業 (でんせんこうぎょう)

電線を製造する工業。電線は大別すると裸線,巻線,通信ケーブル電力ケーブル被覆線(屋外用ビニル絶縁電線,耐熱電線,ゴム絶縁コードなど)に分かれるが,導体・被覆などの組合せによりその種類は20万種以上に及ぶ。なお電線は銅地金の最大の需要先(約6割)である。

 日本の電線メーカーは400社余りと推定されるが,その90%以上は中小企業である。心線から電力ケーブルのような最終製品まで生産する一貫メーカーは10社にすぎず,大手の一貫メーカー7社(住友電気工業古河電気工業日立電線フジクラ,昭和電線電纜三菱電線工業タツタ電線)の出荷合計量は,電線市場の6割以上を占める。総受注量の約80%をNTTなどの通信,電力,電気機械,建設,電線販売業の5業種が占める。1996年の生産高は銅線103万t,アルミ線7.6万tである。日本における電線(銅電線)生産の推移をみると,1960年から73年までは年率4.7%で増加し,73年には92万4461tとピークに達した。これは,(1)電話普及率の急上昇で電電公社向けの通信ケーブル需要(内需の約20%)が増加,(2)発電所立地が遠隔化したための電力ケーブル需要(内需の約10%)が急増,(3)電気機械や土木建設用(内需の約30%)の需要増,のためである。73年秋の石油危機後は,(1)経済成長率が低下し,(2)電話の普及率が上限に達してきている,(3)ICの普及によって電気部品で使用される電線の原単位が低下している,(4)ウェイトは小さいものの(電線生産量全体の約10%)アルミ電線の伸びが高い,(5)銅地金コストが電線製造コストに占める割合が6割と高いため,銅価と連動して価格が安定しない,などの理由から今後高成長は期待できない。そこで業界では,光ファイバーケーブルのような高付加価値製品の開発や,工事も含めた輸出の拡大あるいは業界内の過当競争体質の改善,などに努力している。電線が光ファイバーに代わっていくのを見越し,大手各社とも光ファイバー関連分野に全力をあげている。

 銅電線の主要生産国はアメリカを筆頭に,日本,ドイツ,フランス,イタリア,イギリスなどであり,日本の輸出仕向け地は東南アジアと中近東が中心となっている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「電線工業」の意味・わかりやすい解説

電線工業
でんせんこうぎょう
electric wire industry

電力,通信用の電線,電纜を製造する産業。生産する電線の種類により裸線の製造業,綿線・ゴム線製造業,合成ゴム線製造業,巻線製造業,電力ケーブル製造業,通信ケーブル製造業などに大別することができる。日本では天保3 (1832) 年大坂で初めて銅線が製造されたといわれ,安政7 (60) 年にはゴム被覆した電線が製造されている。その後,電気および通信機器などの急速な普及発達とともに,その品質にも種々の改良が加えられ,光ファイバ,超高圧送電線のような高性能の電線などが開発され,近時は超電導などの新技術の研究開発も進んでいる。主要な電線製造会社は約 400社と推定され,その9割を中小企業が占める。一般に装置産業であり,多品種少量生産であることなどから,経営基盤は過当競争状態にあり,このため経営の合理化,多角化を進めている企業が多い。

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百科事典マイペディア 「電線工業」の意味・わかりやすい解説

電線工業【でんせんこうぎょう】

素材の棹銅(さおどう)・アルミニウム地金から電線・ケーブルを製造する工業。製品は構造,用途からきわめて多種で,日本では1998年度約800の業者中一貫生産は大手企業だけ。ほかは大手から心線を購入して被覆線を製造する。同年の出荷量・出荷額(輸出を含む)は93万4725t,1兆116億円。その約8割を大手6社が占める。近年では光ファイバーケーブルなど情報通信産業の一翼をになう産業として注目されている。

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