日本大百科全書(ニッポニカ) 「非金属鉱業」の意味・わかりやすい解説
非金属鉱業
ひきんぞくこうぎょう
非金属鉱物を探査・採掘し、選鉱して品位を高めたり、粒度をそろえて出荷する鉱業の総称。非金属鉱物には、石灰石、ドロマイト、硫黄(いおう)、耐火粘土、ろう石、珪石(けいせき)、長石、滑石など鉱業法で規制されるものと、花崗岩(かこうがん)、砂岩、安山岩、橄欖(かんらん)岩等の岩石類、ベントナイト、酸性白土、珪藻土(けいそうど)、陶石、雲母(うんも)、蛭石(ひるいし)など採石法の規制下に置かれるものが含まれる。一般に、産業や経済の発展は、工業用原料として各種非金属鉱物の需要を高め、その鉱業生産を発展させる。たとえば、セメント工業の発展は石灰石や珪石の需要を、ガラス工業の発展は珪砂の需要を高め、タイル・衛生陶器を含む陶磁器産業は木節(きぶし)粘土、蛙目(かえろめ)粘土、長石、陶石、カオリンの生産を、鉄鋼業や非鉄製錬業の発展は石灰石のほか炉材用耐火煉瓦(れんが)の原料となる耐火粘土・珪石・ドロマイトなどの需要を増大させる。同時に、需要先の産業がいずれも土木建設業や住宅産業などと関連しているため、公共事業や民間投資の動向が非金属鉱業の消長に大きく影響するという特徴をもっている。
日本の場合、非金属鉱物資源は全体的に豊富で、輸入は石膏(せっこう)、重晶石(じゅうしょうせき)などごく一部に限られ、自給率はきわめて高いが、為替レートの変動によって安価な外国産鉱物が輸入を増やすこともある。国内の代表的な非金属鉱物資源である石灰石は、世界有数の埋蔵量を誇り、その生産量も日本経済の高度成長とともに鉄鋼・セメントの需要を中心に伸びてきた。とくにセメント生産は内需を中心に第二次石油危機までソ連についで世界2位の生産量を維持していたが、安定成長移行後、中国に追い抜かれ、バブル経済崩壊後にはインド、アメリカにも抜かれ世界4位(5000万トン台)に転落している(1991年のソ連崩壊後はロシアは日本を下まわる水準となり、中国、インド、アメリカ、日本という順になった)。石灰石の生産量も、1980年(昭和55)の1億7800万トンをピークに低迷し、その後、バブル経済期に活況を呈したものの、バブル崩壊後、ふたたび生産が低迷し、2003年(平成15)には1億3300万トンまで減少している。
骨材に占める砂利の割合は、1981年(昭和56)以降砕石に追い抜かれているが、2005年(平成17)時には約1.9億トン(砕石3.4億トン)で、河川砂利の大幅な減少に対し、北海道を中心とする陸砂利の増加が目だっている。石灰石とともに豊富な資源量を誇り、硫酸(りゅうさん)等の原料として、かつては日本を代表する非金属鉱物資源とされてきた硫黄は、1960年代後半からの公害規制の強化と石油の脱硫過程で得られる回収硫黄の生産増に押され、国内鉱山のすべてが閉山した。1985年(昭和60)のプラザ合意以降の円高によるガラス類・陶磁器輸出の落ち込みは珪砂、粘土・陶石の生産に影響を与えたが、珪砂は1973年の536万トンのピークからバブル崩壊後に生産量が一気に落ち込み、2003年(平成15)の生産量は139万トンであった。しかし、ガラス類・陶磁器産業とも高級化(ガラスでは熱反射ガラス・複層断熱ガラスなど)による新たな需要増が期待される。陶磁器原料、耐火煉瓦、製鉄用溶剤、研磨剤等に使われる珪石の生産は、1992年の1396万トンをピークとしつつも、2003年時も1041万トンと比較的安定した生産量を維持している。珪石は光学レンズ用のほか、半導体シリコンの原料として注目されているが、シリコン製造には大量の電気が必要であるため、電力価格の安い中国、ノルウェー、ブラジル、カナダなどからの100%輸入でまかなわれている。
[殿村晋一・永江雅和]