いっしょに食べるとさまざまな中毒症状などを起こすとされていた2種あるいは2種以上の食品の組合せ。古くは合食禁(がつしよくきん),あるいは単に食禁(しよつきん)/(じつきん)といった。中国では古く梁代の《神農本草経》のような,食経と呼ばれる典籍類が成立し,陰陽五行説にもとづく正しい食事のあり方が説かれたが,その中心は食法上の禁忌,つまり食禁であった。食禁の中には,季節による食物の禁忌,月や日による禁忌,夜食・飽食・飲酒についての禁などといったものもあるが,最も重視されたのは合食禁だったようである。こうした食経の禁忌が日本に伝えられると,日本では,食膳は食経にもとづいて調えねばならぬという方針を国が打ち出したのである。《養老職制(しきせい)律》には,天皇の食膳をつくる者が食禁を犯した場合,膳部(かしわで)を指揮して調理にあたる典膳(てんぜん)は3年の徒刑(ずけい)(懲役)に処されることになっており,その食禁の具体例としては〈乾脯〉と〈黍米〉,〈莧菜〉と〈鼈肉〉という組合せが挙げられている。乾脯は魚鳥,獣肉のいずれであるか不明だが乾肉をいい,黍米はキビ,莧菜はヒユ,鼈肉はスッポンである。ヒユとスッポンの組合せは中国唐代において代表的な合食禁とされていたもので,スッポンとヒユを合食すると,腹の中で肉片が生きたスッポンになり,腹壁を食い破って外へ出ようとするので人が死ぬと信じられていたためだという。とにかく,食経の示す食合せを避けることは法の志向するところであり,それは天子の食事だけでなく当然国民一般の食生活にも浸透していった。南北朝時代に洞院公賢(とういんきんかた)が著したとされる《拾芥抄(しゆうがいしよう)》には,ゴマ,ダイズ以下62種の動植物性食品について食合せになるものの名を挙げているが,その中には最近まで最も危険な食合せとされていたものの名が見られない。すなわち,ウナギと梅干し,てんぷらとスイカ,そばとタニシといったところであるが,ウナギの蒲焼,そば切り,てんぷらのいずれもが江戸時代に入ってからのものであることを思えば当然である。近世以降の発祥である以上のものをも含めて,食合せの害は長い間日本人に信じられてきたが,現在の学問はそれらが科学的根拠をもたぬものであることを証している。他の諸条件と結びつけて合理的な解釈を施そうとする試みもあったが,そうした正当化よりは,滝川政次郎の論考に見られるように,一つの歴史的事実として受けとめ,そこに内包されるさまざまな問題を解明したいものである。
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加