悪い(読み)ワルイ

デジタル大辞泉 「悪い」の意味・読み・例文・類語

わる・い【悪い】

[形][文]わる・し[ク]
人の行動・性質事物の状態などが水準より劣っているさま。
㋐質が低い。下等である。「成績が―・い」「画質の―・いテレビ」⇔よい
能力が劣っている。下手である。「方向感覚が―・い」「やり方が―・い」⇔よい
㋒美的な面で劣っている。醜い。「スタイルが―・い」「眺めが―・い」⇔よい
㋓正常・良好な状態でない。すぐれない。「体調が―・い」「胃が―・い」⇔よい
地位身分が低い。また、社会的にしっかりしていない。「―・い家庭環境」⇔よい
㋕経済的に衰えている。貧乏である。「景気が―・い」「金回りが―・い」⇔よい
利益の面で劣っている。損である。不利である。「―・い役割」「利率が―・い」⇔よい
㋗好ましくない効果やよくない結果をもたらすさま。逆効果である。「手助けしたのが、かえって―・かった」⇔よい
㋘ふさわしくない。不向きである。不適当である。「―・い所で―・い人に会ってしまった」「が―・い」⇔よい
人の行動・性質や事物の状態が、正邪・当否の判断基準に達していないさま。
㋐正しくない。不当である。善でない。「心がけが―・い」「人を―・く言う」⇔よい
㋑不親切である。やさしくない。「客扱いが―・い」「心の配り方が―・い」⇔よい
㋒人と人との間が円満でない。「兄弟仲が―・い」⇔よい
㋓不足している。万全でない。「整理が―・いから、すぐ物をなくす」⇔よい
不吉である。縁起がよくない。めでたくない。「結婚式には日が―・い」「占いが―・い」⇔よい
(多く「悪くなる」の形で)食べ物が傷んでいる。食べられないほど鮮度が落ちている。「弁当の魚が―・くなっている」
謝罪・感謝の意を表す語。申し訳ない。すまない。「心配をかけて、―・いね」「―・いけれど先に帰るよ」「―・い―・い。こんど埋め合わせします」
名詞に付いて、不快な気持ちを表す形容詞をつくる。「気味―・い」「気色きしょく―・い」
[補説](1) 「わろし」「わるし」は平安時代にほぼ並行して現れるが、「わろし」が優勢。中世から「わるし」が優勢となり、近世初頭から「わるい」となった。(2) 「わろし」「わるし」は、元来「よろし」の対義語で「よし」と対をなすものではなく、中世以降「あし」が衰退するのに従って「あし」のもっていた意を「わろし」「わるし」が表すようになり、しだいに「よい」「わるい」という対義語関係が生じていった。
[派生]わるがる[動ラ五]わるげ[形動]わるさ[名]
[下接句]風向きが悪い気色が悪いまりが悪い気味が悪い口が悪い卦体けたいが悪い筋が悪い手癖が悪い寝覚めが悪いばつが悪い早かろう悪かろう腹の虫の居所が悪いが悪い冥利みょうりが悪い虫の居所が悪い胸糞むなくそが悪い胸が悪い安かろう悪かろう割が悪い
[類語](1いけないけしからん禁物駄目粗悪劣悪不良不可いかん良からぬ/(2悪辣奸悪邪悪奸佞陰険性悪悪性俗悪凶悪極悪罪悪悪徳背徳悪行悪事悪逆巨悪諸悪暴悪卑劣陋劣ろうれつ狡猾こうかつよこしまさがない腹黒い腹汚い悪賢いずる賢い小賢しいずるいこすいこすっからいあくどいさかしいさかしら老獪

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精選版 日本国語大辞典 「悪い」の意味・読み・例文・類語

わる・い【悪】

  1. 〘 形容詞口語形活用 〙
    [ 文語形 ]わる・し 〘 形容詞ク活用 〙 本来「いい(よい)」「よろしい」などに対して、適切でない、劣っているなどの消極的意味をもつ。上代には「あし」があるが、「わるし」は「わろし」とともに平安時代に入って例を見るようになり、さらに口語としては「わるい」が一般化した。
  2. あるべき状態でない。
    1. (イ) 不適切である。不都合である。また、好ましくない。感心しない。いけない。「口がわるい」
      1. [初出の実例]「宮仕する人を、あはあはしうわるきことにいひおもひたる男などこそ、いとにくけれ」(出典:枕草子(10C終)二四)
      2. 「だんだん寒うなって来て、老人にはわるい季節ですわ」(出典:羽なければ(1975)〈小田実〉二八)
    2. (ロ) 道徳上よくない。社会的な通念、道に反する。また、性質がよくない。
      1. [初出の実例]「桀紂がわるい事をする程に天下の民も暴虐をする也」(出典:寛永七年刊本大学抄(16C前))
    3. (ハ) めでたくない。運にめぐまれない。不吉である。「日がわるい」「わるい知らせ」
      1. [初出の実例]「宮の五節いださせ給ふに〈略〉女御・御息所の御方の人いだすをば、わるきことにすると聞くを」(出典:枕草子(10C終)九〇)
  3. 価値や品質、機能、成績などの程度が低い。
    1. (イ) 上等でない。十分そなわっていない。「頭がわるい」「質がわるい」「安かろうわるかろう」
      1. [初出の実例]「木塔禅は老婆のこせついたやうな禅でわるいぞ」(出典:京大本臨済録抄)
    2. (ロ) 地位や身分、生活程度が低い。
      1. [初出の実例]「この女おやもなくなりて、家もわるくなり行くあひだに」(出典:古今和歌集(905‐914)雑下・九九四・左注)
    3. (ハ) 容貌などが美しくない。みにくい。みっともない。
      1. [初出の実例]「いのちをうしなふとも、みめわるふなる事は、めいわくでござる」(出典:虎明本狂言・眉目吉(室町末‐近世初))
  4. 気持がよくない。快くない。不愉快である。
    1. [初出の実例]「わるく聞えさする、御気色もかかり」(出典:蜻蛉日記(974頃)下)
  5. 期待される状態でない。のぞましくない。
    1. (イ) 食べ物がいたんでいる状態である。「冷蔵庫に入れ忘れたこのサラダはわるくなってしまった」
    2. (ロ) 病気や故障が望ましくない状態・程度である。
      1. [初出の実例]「自分で身体を不健(ワルク)するよ」(出典:当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉一一)
    3. (ハ) 活気がない。劣勢である。
      1. [初出の実例]「『これぢゃ仕方がありません。投げですよ』『そんなことがあるもんですか。私の方が悪いでせう〈略〉』」(出典:伊豆の踊子(1926)〈川端康成〉三)
    4. (ニ) 取引市場で用いる語。相場が下がって活気がない。〔取引所用語字彙(1917)〕
  6. 間柄がうまくいっていない。むつまじくない。「二国間の関係が悪くなる」「仲が悪い」
  7. 好ましくない結果をまねく。ためにならない。
    1. (イ) 不都合を起こした原因である。「夕べの飲み過ぎがわるかった」「この状況は政治が悪い」
      1. [初出の実例]「母が恩ある家へ対して、済ぬのなんのと得手勝手、みんなわたしがわるかった」(出典:人情本・春色梅児誉美(1832‐33)四)
    2. (ロ) 申し訳ない。相済まない。「わるいけど、このコピーをとってください」
      1. [初出の実例]「大人しい息子を、唆のかしちゃア悪(ワル)いと思って」(出典:人情本・閑情末摘花(1839‐41)初)
  8. 善意でない。悪意がある。「意地が悪い」
    1. [初出の実例]「おねがひ申して置くンですよ。わるくお聞きなすっちゃアいけないよ」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三)
  9. やり方や程度が適切でない。
    1. (イ) やり方が下手である。上手でない。
      1. [初出の実例]「わるい工面な為され様」(出典:浄瑠璃・五十年忌歌念仏(1707)上)
    2. (ロ) 配慮が十分でない。丁寧でない。ぞんざいである。
      1. [初出の実例]「意地にかかってわるくしなんすが、ついぞはらをたちなんした事もなく」(出典:洒落本・傾城買二筋道(1798)冬の床)
    3. (ハ) 度が過ぎる。
      1. [初出の実例]「おきやアがれ。悪(ワル)くおりるぜへ」(出典:滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)上)

悪いの派生語

わる‐が・る
  1. 〘 他動詞 ラ行五(四) 〙

悪いの派生語

わる‐げ
  1. 〘 形容動詞ナリ活用 〙

悪いの派生語

わる‐さ
  1. 〘 名詞 〙

わろ・い【悪】

  1. 〘 形容詞口語形活用 〙
    [ 文語形 ]わろ・し 〘 形容詞ク活用 〙 本来、「よろし」の反対で、物事の程度が普通より、あるいは他に比して劣っている意を表わす。「あし」よりは程度が軽く、消極的によくないと判断する場合などに用いる。後世は、「わるい」が多く用いられる。→わるい
  2. あるべき状態でない。
    1. (イ) 不都合である。好ましくない。いけない。
      1. [初出の実例]「いとわろき朝臣なりけり」(出典:宇津保物語(970‐999頃)蔵開中)
      2. 「Varoi(ワロイ)ワルイに同じ。〈訳〉悪い。文書ではワロシが用いられる」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    2. (ロ) めでたくない。運にめぐまれない。不吉である。
      1. [初出の実例]「こと所には、御息所の人出だすをば、わろき事にぞすると聞くに」(出典:能因本枕(10C終)九四)
    3. (ハ) 性質がよくない。たちがよくない。
      1. [初出の実例]「人性は怯(つたな)ふ懦(ワロク)して」(出典:大唐西域記長寛元年点(1163)三)
    4. (ニ) 間違っている。誤りである。
      1. [初出の実例]「行法も、法の字を澄みていふ、わろし。濁りていふ」(出典:徒然草(1331頃)一六〇)
  3. 価値や品質、程度などが劣っている。
    1. (イ) 上等でない。
      1. [初出の実例]「其中に此とりてもちてまうできたりしは、いとわろかりしかども、の給しにたがはましかばと此花を折てまうで来る也」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
    2. (ロ) 地位や身分、生活程度が劣っている。
      1. [初出の実例]「姿なけれど、すろの木、唐めきて、わろき家のものとは見えず」(出典:前田本枕(10C終)四五)
    3. (ハ) 見劣りがする。みっともない。また、容貌などが美しくない。みにくい。
      1. [初出の実例]「下襲の裾みじかくて随身のなきぞいとわろきや」(出典:枕草子(10C終)四八)
  4. 期待される状態でない。のぞましくない。
    1. (イ) 食べ物がいたんでいる状態である。
      1. [初出の実例]「瓜をとりいでたりけるが、わろくなりて、水ぐみたりければ」(出典:古今著聞集(1254)一八)
    2. (ロ) 勢力などが衰えている。貧しい。乏しい。
      1. [初出の実例]「年頃わたらひなどもわろくなりて、家もこぼれ」(出典:大和物語(947‐957頃)一四八)
  5. やり方などが上手でない。できがよくない。下手である。
    1. [初出の実例]「蔵人少将の君も、御衣どもわろしとて、出づと入と、むつかりて著給はず」(出典:落窪物語(10C後)二)

悪いの派生語

わろ‐が・る
  1. 〘 他動詞 ラ行四段活用 〙

悪いの派生語

わろ‐げ
  1. 〘 形容動詞ナリ活用 〙

悪いの派生語

わろ‐さ
  1. 〘 名詞 〙

わり・い【悪】

  1. 〘 形容詞口語形活用 〙 「わるい(悪)」の変化した語。
    1. [初出の実例]「おつるさん、おらが内へきな、うすげゑぶんのわりい女はおんなのひいきだ」(出典:洒落本・大劇場世界の幕なし(1782))

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