絵巻。残欠2巻。東京・静嘉(せいか)堂および大阪・和泉(いずみ)市久保惣(そう)記念美術館蔵。いずれも重要文化財。『栄花物語』の「駒競べ」の巻に取材したもので、静嘉堂本は1024年(万寿1)9月14日、上東門院彰子(じょうとうもんいんしょうし)が藤原頼通(よりみち)の邸宅高陽院(かやのいん)に行啓になった光景を描き、輦(れん)(手車)を担ぎ随身が従うありさまが描かれる。和泉市本は静嘉堂本のあとに続くもので、9月19日後一条(ごいちじょう)天皇や東宮が同じく高陽院に行幸啓になったときの模様を描き、門外の光景に続いて門内の東宮入御の景、次に東の対(たい)や泉殿(いずみどの)の光景となり、御殿に公家(くげ)、女房たちが控え、池に竜頭鷁首(りょうとうげきす)の船が浮かぶありさまが描かれている。両巻とも同一人の筆で、濃彩の華やかな画風で、平安貴族の生活、風俗を伝える資料としても貴重である。鎌倉時代(14世紀)の作、筆者は明らかでない。
[村重 寧]
『小松茂美編『日本絵巻大成23 駒競行幸絵巻他』(1979・中央公論社)』
《栄華物語》こまくらべの巻に記される1024年(万寿1)9月藤原頼通邸高陽院(かやいん)での駒競べの盛儀を描いた絵巻。14世紀初めころの制作で,王朝の風雅をしのぶ鎌倉時代貴族の回顧趣味を背景に生まれた絵巻の一つ。主題である競馬の場面などはすでに失われ,現存部分は,競馬に先立って上東門院彰子一行が高陽院に到着したときのにぎやかな光景を描いた絵1段が静嘉堂に,またこれに続く競馬当日の東宮の行啓と寝殿前庭の池における船遊びの優雅な催しをあらわした詞・絵1段が和泉市久保惣記念美術館に蔵されている。静嘉堂本は焼けこげや変色がみられるが,旧久保家本は鮮麗な色彩をとどめ,保存状態は異なるものの当初一具の絵巻であったと考えられる。行啓の行列,寝殿前庭の華やかな光景など完璧なまでに整えられた構図や綿密細緻な描写,とりわけ掘り塗りの技法を駆使し装飾性に富んだ賦彩は,高階隆兼筆《春日権現験記》や《法相宗秘事絵詞》など,隆兼様式ともいうべき画風に近似している。
執筆者:田口 栄一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
鎌倉後期の絵巻物。「栄花物語」には,関白藤原頼通が後一条天皇らを迎えて,1024年(万寿元)に高陽院(かやのいん)で競馬の盛儀を開いたことがのるが,そのありさまを描いた作品。現在2種類の断簡が数点残る。そのうち静嘉堂文庫蔵(縦31.5cm,横155.2cm)と久保惣記念美術館蔵(縦34.2cm,横383cm)の断簡は,高階(たかしな)隆兼の画風につながる華麗な色彩が特徴で,当時の活発な古典復興の産物と考えられる。紙本着色。両者とも重文。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
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