驚き(読み)おどろき(英語表記)surprise

翻訳|surprise

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

驚き
おどろき
surprise

予期しない事態の突然の出現に伴う強い一時的情緒。プラトン (『テアイテトス』) とアリストテレス (『形而上学』) は,驚きから哲学が始るとした。デカルトは驚きを基本的6情念の筆頭におき,他のあらゆる情念に先立って起り反対情念をもたないものとした (『情念論』) 。つまり驚きは,未知のもの,新しいものとの出会いを知らせるという特色をもった情緒である。

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デジタル大辞泉の解説

おどろき【驚き/×愕き/×駭き】

驚くこと。また、驚くべき事件・事柄。「―のあまり立ちすくむ」「―のを上げる」

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

驚き
おどろき

一般的に、大きな音、強い光、見知らない人などによって生じる急激な心の動きをいう。年齢的な差異はほとんどない。年齢を超えて驚きの情動が存在するということは、この情動の重要性を示唆するものである。
 それでは驚きという情動の正体はなんだろうか。アメリカの大学で、ある教授が講義時間中におもしろい実験を行った。それは次のようなものである。自動車の警笛を急に鳴らして学生にその感想を尋ねたのである。その結果、緊張したという学生が第1位で、第2位は興奮した学生、第3位は不快を感じた学生、第4位は恐れを感じた学生という結果が得られたという。この実験をした教授は、驚きは、緊張、興奮、不快、恐れの4情動で代表されるとまとめている。このような分析は被験者である学生の内観報告に基づくものである。心理学でよくやる手段であるがもちろんくふうを要することである。また、ある教授は講義時間中に予告なしにピストルを発射した。もちろん空砲だったがアメリカ的な研究である。教授はそのときそばにいる学生の顔面表情を映写している。驚きの表情というより凍り付いたような表情であったという。彼はここで恐れとの微妙な差異がよく現れていると述べている。顔面表情の研究については「日本顔学会」が組織され、コンピュータによる分析も行われている。
 人間の情動の発達・分化を自然的行動観察の形で研究したブリッジスK. M. B. Bridges(1897―?)は、驚きの情動についてはその分化の過程では触れていない。しかし、驚きは、恐れとともに生命維持と個体保存に密接に関連しているので、早期の出現が推察される。生来的に視聴覚をなくしていた女の子についての観察によると、彼女が抱いていた人形をうっかり床に落としたとき、急激に首と肩を縮め、口をなかば開いて、見えない目を見開き、まゆ毛をつり上げたといわれている。生来の失明者は表情を学習することはできないのに、彼女は普通の人たちと同じ反応を現したのである。もちろん、驚きの姿勢や顔の表情は生後の経験によって変容してくる。基本的なもののうえに文化的な影響が重なってくるのである。家族の情動表現を模倣することが多いが、保育園や幼稚園における同年齢の子供たちの動作の模倣によることも目だっている。驚いたときに舌を出したり、両腕をハの字に開いてのけぞったりするのがそれである。
 驚きの対象が年齢を超えて差異がないということについてはすでに触れているが、青年期を過ぎ成人になってもまだ幼児のような驚きを表出していたら問題である。大きな音がしたときに子供のように跳び上がったり、期待はずれのとき驚きのあまり卒倒してしまったりするのは、情動的に未成熟の証拠である。社会の成員である人間は、社会的に好ましい情動を発達させ、好ましくない情動を統制しなければならない。子供は日常の生活を通して両親の行動を学習する。そこで、両親がまず情動的に安定することが必要になる。親たちの精神保健と親のしつけが、社会的に好ましくない情動を矯正し、子供をよりよい情動的成熟に導くことができることを理解すべきである。夜驚(やきょう)症という疾患がある。家庭内の緊張、幼稚園や小学校における人間関係に原因していることが多いという。[大村政男]

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最新 心理学事典の解説

おどろき
驚き
surprise,fright,shock

想定外の出来事が発生したときに受ける強い心的衝撃を驚きという。生理的・行動的な驚き反応は,強い刺激で惹起されるが,心的な驚き反応は必ずしも刺激の物理的強度によらない。生理的であれ心理的であれ,驚きは覚醒効果を高め,感覚や記憶に影響し,感情の状態によって驚き,反応は多様である。

 強い音や眩しい光,地の揺らぎ,突然の景色の変化などは,あらゆる動物に固有の驚愕反応startle reaction(驚き反応ともいう)を誘発する。これはきわめて原始的な生得的防御反応で,全身的な身を守る姿勢・行動を導く。ランディスLandis,C.とハントHunt,W.A.(1939)は,銃声に対するヒトの驚愕反応パターンを,高速度カメラを用いて観察し,銃声後40ms(ミリ秒)で瞼が閉じ始め,続いて口輪筋や皺眉筋の収縮,頸部の前傾,上肢関節の屈曲,下肢の屈曲,全身の前屈姿勢へと連なって,いわゆるすくみこみ姿勢crouching pauseとなることを記録した。爆発物の破裂音に対して意識せずに取る自然な防御姿勢は驚愕反応が基本である。

 驚愕反応を定量的に測定するには,110dB(デシベル)超の強い音刺激を持続時間50msの突発音としてヘッドホンからヒトに呈示し,目の周りの眼輪筋orbicularis oculiの筋電図electromyogram(EMG)を測定し,その活動量を評価する。刺激後20msで眼輪筋に活動が出現し,40msで上眼瞼が下降を始め,閉瞼状態が50~100ms持続した後に開瞼する。刺激後20~120ms間のEMG積分値を驚愕反射量startle reflex magnitudeとして計測し,驚愕反応の指標とする。反射誘発音に100ms先行付加される微弱音をプレパルス抑制prepulse inhibition(PPI)の評価に用い,統合失調症の症状把握や治療薬の効果判定を行なっている。またラングLang,P.J.(1990)らの一連の研究は,不快な感情状態のもとでは驚愕反射量が増大し,快適感情状態では逆に抑制されることを示し,驚愕反射量の多寡から感情状態を評価する驚愕プローブパラダイムstartle probe paradigmという技法が確立されている。驚愕反応は,ラットなどの小動物ではすくみこみ反応として現われ,スタビリメーターで量的測定が行なわれる。

 自伝的記憶autobiographical memory研究では,驚きは記憶を促進するとみなされている。日常の出来事や想定内の出来事と比べて,予想に反する,あるいは想定外の出来事は何年たってもよく覚えているからである。またその驚きが大きいほど,たとえば衝撃的な出来事であるほど,その記憶は長期間保持され,生々しく想起される。ストロボの光によって映像が鮮明に撮影されるのに模して,フラッシュバルブ記憶flashbulb memoryとよばれる。犯罪目撃者の証言で語られる記憶の正確さや,トラウマ体験による強烈な光景の記憶と,その自発的想起(フラッシュバック)が主訴の心的外傷後ストレス障害(PTSD)などとも関連づけて,感情記憶と驚きとの関係に焦点が当てられている。驚きが生理的賦活activationを生み,覚醒水準arousal levelを高めた結果,記銘や保持の過程が促進するとする説,強い驚きに引き続く感情がストレス状態を生み,コルチゾールが脳内に影響して海馬を萎縮させるとする説,あるいは感情記憶の脳内中枢(扁桃体amygdala)が刺激されることによるとする神経生理学的仮説などが考えられている。

 動物の学習実験では,古典的条件づけ試行の直後に,それまでとは違う意外なCS-US(条件刺激-無条件刺激)対呈示操作をすると,条件づけ形成が遅れる現象が報告されている。これは,短期記憶に不可欠なリハーサルを驚きを伴う経験が妨害することによると考えられている。 →記憶 →レスポンデント条件づけ
〔山田 冨美雄〕

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