恐れ(読み)オソレ

デジタル大辞泉 「恐れ」の意味・読み・例文・類語

おそれ【恐れ/畏れ/虞】

(恐れ)こわがる気持ち。恐怖。不安。「将来への漠たる―」
(畏れ)敬い、かしこまる気持ち。畏怖いふ畏敬いけいの念。「神の偉大さに―をいだく」
(虞)よくないことが起こるかもしれないという心配。懸念。「自殺の―がある」
[類語](1恐怖畏怖/(3考え事思案物思い考え気疲れ気苦労心痛心労懸念憂慮取り越し苦労危惧杞憂悲観危険心配不安危懼きく疑懼ぎく胸騒ぎ気がかり心がかり不安心心細い心許こころもとない憂い気遣い煩い怖い危なっかしい頼り無いおののく動揺心騒ぎ煩慮憂惧ゆうぐ憂懼ゆうく憂い事気遣わしい痛心鬼胎ひやひやはらはらどきどきおどおどあぶなあぶな恐る恐るこわごわおっかなびっくりおじおじおずおずびくびくこわがる臆するおびえるびくつくおじるおじける恐れをなす悪びれる案ずる気が気でないそぞろ足が地につかない気が揉める居ても立ってもいられない矢も楯もたまらない居たたまれない生きた心地もしない気になる気に病むおぼつかない

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精選版 日本国語大辞典 「恐れ」の意味・読み・例文・類語

おそれ【恐・畏・虞】

  1. 〘 名詞 〙 ( 動詞「おそれる(恐)」の連用形の名詞化 )
  2. こわがること。心がひるむこと。恐怖。
    1. [初出の実例]「天衆地類神祇冥道まもりはくくみたてまつり給らむ。これによりてをそれをなすべからず」(出典:法華修法一百座聞書抄(1110)三月二四日)
  3. 心配すること。何か悪い結果を予想しての気づかい。不安。心労。
    1. [初出の実例]「財あればおそれ多く、貧しければうらみ切なり」(出典:方丈記(1212))
  4. かしこまること。つつしむこと。おそれおおいこと。畏敬。多く敬意を伴って用いる。
    1. [初出の実例]「君を後になしまゐらせむが恐なる間、さかさまにはきるぞかし」(出典:平治物語(1220頃か)中)
  5. おそれいる」「おそれいった」の略。
    1. [初出の実例]「おまはんにきらずを食わせて重い荷を持たすとか、それはおそれ」(出典:洒落本・北川蜆殻(1826)上)
  6. 葬式、出産、月経など穢れの忌をいう。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「恐れ」の意味・わかりやすい解説

恐れ
おそれ

生命維持、個体保全に密接に関連しているもっとも基本的・原始的な感情である。ブリッジスK. M. B. Bridges(1897―?)は、新生児における情動は興奮だけであるが、乳児期になると、快や不快が分化し、不快から怒りや恐れが現れてくるという有名な分化のシステムを発表している。スルーフL. Alan Sroufeは乳児期の初期にはすでに恐れが発現していることを発表している。このような研究はすべて自然的行動観察に近いものなので研究者の主観によってさまざまに異なってくる。そこでどちらが正当であるかはわからないが、恐れという情動は、生命維持、個体保存に密接に関連しているために早期に出現していることは確実であろう。

 乳児期の恐れの対象は、大きな音、強い光、イヌやネコのような動物、トカゲカエルのような変わった形態の小動物、見知らない人、突発的なできごと(急に身辺に変化がおきる)、暗闇(くらやみ)などのような具体的な刺激に限られているが、幼児期に入ってくると、空想的な対象、たとえばお化けや宇宙人などに対する恐れが現れ、さらに予期的な危険に対する恐れがわいてくる。母親がそばにいないというような場面である。現実の危険に遭遇しなくてもきたるべき危険を予期して恐れを感じるのである。このような恐れを不安という。不安は生後6か月ごろ「人見知り」として現れてくる。これはフロイトの弟子の精神分析医スピッツR. A. Spitz(1887―1974)の意見である。しかし、ブリッジスは5歳ぐらいのときに不安の発現を認めている。不安は恐れよりも観察できない情動であるからその発現の時期を判定するのは実に困難である、このように大きなずれが生じているのは、スピッツが精神分析学のほうからの観察、ブリッジスが発達心理学のほうからの観察だからかもしれない。どちらの見方にせよ、不安は小学校入学とともに急速に分化してくる。勉強における失敗の恐れ、友人関係における葛藤(かっとう)と仲間割れの恐れなどであり、このような不安の種がどんどん発芽してくるのである。

 アメリカの心理学者ワトソンは、乳児が白ウサギをかわいがっているのに目をつけ、その子が白ウサギに触れるたびに強烈な音響を出して驚かせた。その結果その子は白いウサギを見ると後ずさりをするようになり、白いシーツやおじいさんの白いひげにまで恐れを抱くようになってしまったという。ヒューマニティーに反する実験であるが、恐れという情動が周囲の人々の条件づけによって生じてくることを証明している。子供の養育上重要な問題といえよう。

 神経症のなかに恐怖症という疾患が含まれている。ある特定の対象に対して他の人々が容易に理解できそうもない恐れを抱き、日常生活にさまざまな支障が生ずる神経症である。赤面恐怖対人恐怖の一種で人に会ったときに赤面してしまうのではないかという恐れ)、広場恐怖(広場が突っ切れないので端に沿って歩かなければならない)、先端恐怖(先が尖んがった錐(きり)や鉛筆を恐れる)、涜神(とくしん)恐怖(だれかが神聖な場面を打ち壊すようなことをするのではないかという恐れ)などさまざまな症状がみられる。原因がわからないものが多いが、父親に対する恐れが、ある動物に対する恐れになって夢のなかに現れてきたケースをフロイトが報告している。

[大村政男]

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改訂新版 世界大百科事典 「恐れ」の意味・わかりやすい解説

恐れ (おそれ)
fear

危険を感じた時に生じる情動的反応。身体的には交感神経が興奮して,冷や汗が流れたり,ふるえたりする。末梢血管が収縮するために,顔面が蒼白となり,呼吸が激しくなり,心臓の鼓動が異常に早まったり,または遅くなったりする。また副腎からはアドレナリンが分泌され,血液が固まりやすくなり,糖分が出る。これらの情動的反応は,P.ジャネによれば,適応の失敗によるものだが,W.B.キャノンによれば,むしろ,血圧をあげて血行をよくしたり,糖分を出してエネルギーを強め,身体を守るための生理的反応と考えられている。これらの反応は危険から逃げるための逃避本能によるものとする学者は多いが,場合によっては随意筋が弛緩して,手足が前に進まず,心臓が止まりそうになり,身体が麻痺して,逃走にはもっとも都合の悪い状態になることもある。これは死んだまねをして逃げるためと説明されており,擬死反射と呼ばれている。実際に逃走する場合を能動的恐怖,擬死反射による反応を受動的逃避と呼ぶこともある。

 これらの反応のほとんどの部分は条件反射によって後天的に修得されるとする学者もいるが,恐れそのものは,より根源的な人間の本能と考えられる。実際の危険ではない想像上の危険でも,人は恐れを感じるが,いずれの場合でも,対象がはっきりしている時には恐れ,対象が漠然としている時には不安と呼ぶのが通例である。根源的恐れとしては,宗教的体験による情動として,R.オットーが,その著《聖なるもの》(1917)で,宗教的感情を分析し,神の力や意志,または聖なる力を意味するラテン語のヌーメンnumenから,ヌミノーゼNuminose感情という言葉を作り,その基底に相反する1対の感情が存在することを明確にした。それが畏怖(トレメンドゥムtremendum)と魅惑(ファスキナンスfascinans)であり,心理学者のユングは,人間が心の深奥にある元型にふれる時に,この根源的恐れと魅惑を感じると述べている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「恐れ」の意味・わかりやすい解説

恐れ
おそれ
fear

典型的な情動の一つで,有害ないし危険な事態に対して有効に対処することがむずかしいような場合に生じる。その事態から逃避しようとする行動傾向のほかに,心拍数の増加,顔面蒼白,震え,発汗など各種の身体的反応が伴う。強度の恐れはときに行動の完全な麻痺を引起す。なお,具体的な事態になってはいないが明確な対象のある恐れが「心配」であり,また,対象の不明確な恐れを不安という。

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