内科学 第10版 「骨・関節感染症」の解説
骨・関節感染症(臓器別感染症)
骨・関節感染症には,骨髄炎ならびに感染性関節炎がある.両者とも難治性で,外科的処置が必要なことも多く,4~6週間などの長期間にわたる抗菌薬投与が求められる. 骨髄炎(osteomyelitis)は細菌性であることが多いが,まれに結核性脊椎炎(Pott病)などを認めることがある(図4-2-3).
急性の細菌性関節炎は緊急事態であり,対応が遅れると関節が不可逆的な傷害を受ける.感染性関節炎のおもなものは【⇨10-18】で触れており,本項では人工関節置換術後の感染性関節炎について述べる.
米国感染症学会は人工関節感染症(prosthetic joint infection)を以下のいずれかの条件をみたすものと定義している.①人工関節と交通する瘻孔が形成されていること,②人工関節周囲の組織が病理学的に急性炎症を認めること,③ほかに原因が考えにくい膿が認められること,④術中の2つ以上の培養,もしくは,術前と術中の培養で同じ起因菌が認められること(黄色ブドウ球菌のような毒性の強いものは,1回の培養のみでも感染を示唆する可能性がある)(Osmonら,2013).
分類
急性骨髄炎は数日から数週間の単位で進行していくが,慢性骨髄炎は数カ月から数年の単位で進行し,腐骨形成,関節や骨膜下への浸潤,果ては瘻孔形成まで認めるようになる(Lewら,2004).
人工関節感染症の分類については,表4-2-4参照(Zimmerliら,2004).
原因・病因
骨髄炎,感染性関節炎ともに,感染経路は①外傷,手術や関節穿刺などに伴う直接感染,②遠隔感染巣からの血行性感染,③皮膚など軟部組織の感染巣や隣接する感染巣からの波及(骨から関節へ,関節から骨へ)が考えられる. 骨髄炎の原因菌としては,黄色ブドウ球菌が圧倒的に多い.人工物が関係している場合には,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌やプロピオンバクテリウム属菌なども認められる(Lewら,2004). 人工関節感染症の起因菌については表4-2-4参照.
臨床症状
骨髄炎に至る事例の所見は多彩である(Lewら,2004).骨が露出している開放創,瘻孔形成,骨病変の周囲の蜂窩織炎の所見,視診上皮膚に問題はないにもかかわらず認める骨の圧痛,などが認められる.発熱や炎症の所見が乏しいことも珍しくない.ただし,菌血症合併時には,発熱・悪寒,倦怠感なども認められる.また,潰瘍部分にゾンデを当てて奥に進めたときに骨に到達する場合,probe to bone test陽性といい,患者が骨髄炎といえる確率が上がる.
人工関節感染症の臨床症状については表4-2-4参照.
検査成績
骨髄炎の評価には,白血球数はあてにならない.感染している状態でも,白血球数は正常のことがある.しかし,赤沈はほとんどの場合上昇している.赤沈やCRPは治療効果判定にも用いられるが,CRPを好む意見もある(Lewら,2004).
骨髄炎の診療で最も大切なのは,原因菌を突き止めることである.理想的には,骨生検を行って,好気・嫌気両方の培養検査を提出するのがよい.人工物に関連した感染の場合には,デブリドマンを行うときに,留置部位周辺の深い部分から検体を採取して培養に提出してもよい.血行性感染の場合には,血液培養から菌が検出されることがある.皮膚の表面や瘻孔の部分をスワブして培養を提出してはならない(Lewら,2004).真の原因菌が検出されなかったり,常在菌が検出されることで,判断が困難になることが予想される.
骨髄炎の画像評価については,MRIが早期発見に適している.病変部位はT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号として認められる.しかし,MRIは治療効果判定には向いていない.MRI画像では,感染が落ち着いても何カ月も異常所見が残ってしまうためである.単純X線像では,感染後10~21日経過してから,ようやく病変が確認できるようになる(Lewら,2004).
人工関節感染症の場合も,白血球数や分画には頼れない(Zimmerliら,2004).人工関節感染症が臨床的に明らかでない場合には,赤沈やCRPが参考になる.両者を測定することも米国のガイドラインでは勧められている.どちらか陽性もしくは両方陰性という状況から,感染の有無についての次の行動が決まってくる(Osmonら,2013). 人工関節感染症を疑う場合には,関節穿刺が重要となる.関節液の細胞数,白血球分画,結晶の有無,好気・嫌気培養検査を評価する.Gram染色を行えば,原因菌の推定にもつながる.発熱などで菌血症を疑うときには,血液培養検査も大切である. ルーチンの画像検査については,関節の単純X線で十分である. 手術を施行する場合には,人工関節周囲の組織の病理学的検査や好気・嫌気培養検査を行う.
鑑別診断・合併症
骨髄炎の鑑別としては,膿瘍,皮膚軟部組織感染症,感染性関節炎などがあげられるが,互いに合併をしていることもある.脊椎炎の際には,種々の脊椎変性疾患や圧迫骨折などが鑑別にあがる.腸腰筋膿瘍も鑑別にあがるが,合併していることもある.
人工関節感染症の鑑別としては,コンポーネントのゆるみや破損,脱臼,骨折などがあげられる.また,一般の感染性関節炎での鑑別と同様,反応性関節炎,結晶性関節炎,痛風,偽痛風なども鑑別にあがる.
治療
骨髄炎の治療は,抗菌薬投与と手術の組み合わせとなる.ただし,血行性の場合には,一般的には手術は不要である. 抗菌薬については,4~6週間と長期にわたってなるべく静注薬を投与する.起因菌は黄色ブドウ球菌であることが多い.メチシリン感性黄色ブドウ球菌(MSSA)を想定する場合には,第1世代セフェム系薬のセファゾリン,MRSAを想定する場合には,バンコマイシンを用いる.想定する起因菌や同定された細菌ならびに薬剤感受性によって,抗菌薬を調整していく.
手術のおもな目的は,病変部に良好な血流を保つことと腐骨を除去することである(Lewら,2004). 人工関節感染症の治療は(Osmonら,2013;Zimmerliら,2004),抗菌薬投与と人工関節の抜去が基本である.ただし,人工関節を留置したばかりで,状態も比較的良好であれば,デブリドマンを行ったうえでの人工関節の温存も選択肢にあがる. 抗菌薬については,想定する起因菌や同定された細菌ならびに薬剤感受性によって調整していく.
手術については,2段階法が行われることが多い.人工関節を抜去してデブリドマンを行い,抗菌薬含有セメントスぺーサーやセメントビーズを挿入する第1段階の手術を施行した後,4~6週間静注抗菌薬を投与し,2〜8週間抗菌薬を中止してから,再び人工関節を留置する方法である.1回の手術で,人工関節の抜去,デブリドマン,人工関節の再置換まで行う方法もある.[松永直久]
■文献
Lew DP and Waldvogel FA: Osteomyelitis. Lancet, 364: 369-379, 2004.
Osmon DR, Berbari EF, et al: Diagnosis and management of prosthetic joint infection: clinical practice guidelines by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis, 56: e1-e25, 2013.
Zimmerli W, Trampuz A, et al: Prosthetic-joint infections. NEJM, 351: 1645-1654, 2004.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報