高野切(読み)コウヤギレ

デジタル大辞泉 「高野切」の意味・読み・例文・類語

こうや‐ぎれ〔カウヤ‐〕【高野切】

《もと高野山所蔵であったところから》古筆切こひつぎれの一。現存最古古今集写本断簡で、紀貫之筆の伝承がある。

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精選版 日本国語大辞典 「高野切」の意味・読み・例文・類語

こうや‐ぎれ カウヤ‥【高野切】

(もと高野山文珠院に蔵されていたところからいう) 古筆切れの一つ。紀貫之筆と伝えられる「古今集」の巻子本の断簡で、三種類に分類される。

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改訂新版 世界大百科事典 「高野切」の意味・わかりやすい解説

高野切 (こうやぎれ)

古筆切の最も有名なものの一つで,《古今和歌集》の巻子本(かんすぼん)を切ったもの。現在,巻一,二,三,九,十八,十九の6巻の分が残っている。そのほか,切られずに一巻完具しているものに巻五,八,二十の3巻がある。撰者紀貫之の自筆といわれて尊重されたが,それは信じがたく,下って11世紀中期の書と考えられるようになった。その筆跡には3人の手がみとめられ,巻一,九,二十を第1種,巻二,三,五,八を第2種,巻十八,十九を第3種と呼んでいる。第1種は字形整斉,墨色も変化多く,第2種は各字が右に傾いて線がねばり強く古雅,第3種は最も新しい書風で繊細流麗。いずれも連綿の美を十分に発揮しており,草仮名を学ぶ人が好んで手本とする。切の名称はこれ(一部分)がもと高野山文殊院に存したことがあるのによる。なお,同名の切で別に仏書の断簡もある。
筆者

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「高野切」の意味・わかりやすい解説

高野切
こうやぎれ

書跡。一面に雲母砂子(きらすなご)を撒(ま)いた白麻紙(しろまし)に、『古今和歌集』を書写したもので、同歌集最古の写本。もと20巻1セットの調度(ちょうど)手本として調じられた。名称は、かつて高野山文殊院(もんじゅいん)の木食応其(もくじきおうご)が豊臣(とよとみ)秀吉より巻第9の巻頭の断簡を拝領し、それが高野山に伝存したことに由来する。筆者を撰者(せんじゃ)紀貫之(きのつらゆき)と伝承するが、これは当たらない。3人の能書の筆者が分担執筆した寄合書(よりあいがき)で、現存遺品をそれぞれ第一種(巻1、9、20)、第二種(巻2、3、5、8)、第三種(巻18、19)とよんで書風の分類をしている。もと巻子本で、巻5、8、20の3巻が完存(国宝、諸家分蔵)。残りは断簡として諸家に分蔵される。このうち第二種の書は、宇治平等院鳳凰堂(ほうおうどう)の色紙形(しきしがた)の筆者である源兼行(かねゆき)の筆跡とするのが定説である。11世紀中ごろの書写と推定され、『古今和歌集』撰進後、約150年の写本である。優雅な連綿、墨継ぎの妙が特色で、格調高い書風を展開し、平安朝屈指の古筆遺品として、その価値は高い。

[神崎充晴]

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百科事典マイペディア 「高野切」の意味・わかりやすい解説

高野切【こうやぎれ】

古筆切の一つ。《古今和歌集》の巻子本(かんすぼん)を切ったもので,《古今集》の写本としては現存最古。仮名書きの名品。3巻の完本のほか断片が多く残っている。地は麻紙の表面に雲母砂子(きらすなご)をまいたもの。紀貫之筆と伝えるが,3種の書風が交じった寄合書(よりあいがき)で,11世紀中ごろの書写と思われる。一部がもと高野山文殊院にあったことにより,この名で呼ばれる。なお別に,同名の仏書の断簡がある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「高野切」の意味・わかりやすい解説

高野切
こうやぎれ

『古今和歌集』の最古の写本の一つ。高野山に伝来したのでこの名があるといわれる。実際は巻9と他の一部が高野山に伝来したのみであるが,同種のものを含めて「高野切」と称する。元来は巻子本 (かんすぼん) で 20巻と序が完備していたと推定されるが,現在は9巻分しか残っていない。そのうち完本は巻5,8,20の3巻 (ともに国宝) で,他の6巻は零本または断簡。これらは書風のうえから3種類に分類できる。平安時代中期のかなの書としてすぐれた遺品。紀貫之筆と伝えられるが,貫之よりのちの筆跡である。諸所に分蔵されている。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「高野切」の解説

高野切
こうやぎれ

「古今集」で現存する最古の巻子本。写本。「古今集」は序文を含めて21巻あるが,高野切は巻1・2・3・5・8・9・18・19・20の9巻のみ。このうち,巻5・8・20の3巻が完本。巻9の巻首の切が高野山に伝来したためこの名があり,巻子本を含めてすべて高野切という。書風で分類すると3人の寄合書で,3種に区別される。第1種は,巻1・9の断簡と完本の巻20。端正で貴族的な美しい連綿が特徴。第2種は,巻第2・3の断簡と完本の巻5・8。側筆で強い筆力があり個性的。第3種は,巻18の断簡と巻19の零本・断簡。平明でのびのびした線が特徴。筆者はすべて紀貫之(きのつらゆき)と伝えられるが確定されていない。

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世界大百科事典(旧版)内の高野切の言及

【仮名】より

…院政期に入ってからの例ではあるが,宣命においても,女に与える場合には平仮名で書いた。初期の女手の今日に伝存するものはきわめて少ないが,867年(貞観9)の讃岐国戸籍帳に記された大属藤原有年の申文や,《紀貫之(きのつらゆき)自筆本土佐日記》の臨模本と考えられる《藤原為家(ふじわらためいえ)本土佐日記》の仮名や,《小野道風消息》《高野切(こうやぎれ)》《桂本万葉集》の仮名などが古い資料である。女手は現在ではきわめて多数の異体字が知られているが,もともと簡易を求めて発達したものであるから,発達の当初はかえって異体字は少なく,原則として一つの文献の内部では1音に2字を用いず,1字1音を原則として清濁の区別も書き分けず,もっぱら実用的でやさしいことを目ざしたらしい。…

※「高野切」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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