横に長くて軸に巻いた,普通にいう〈巻物〉をさし,図書装丁の一形式で,冊子(さつし)形式をとる以前,東西両洋ともに行われた。ヨーロッパではポンペイ壁画の中に現れている。東洋では中国後漢に紙が発明されていらい一般化し,当初は紙を何枚か継ぎ合わせ,巻きたたむ〈継紙(つぎがみ)〉というものであったが,これに軸,表紙などをつけて,今日見るようなものとなった。隋・唐に最もひろく用いられたが,巻物の不便さに加えて木版がおこったので,図書の形式は折本(おりほん),冊子となり,巻子本はすたれた。軸には木や竹のほか瑠璃(るり)や象牙などを用いたことが隋・唐の〈経籍志〉に記されている。日本へは奈良時代に伝わり,当時の絵巻や経巻などにその形が残っている。巻子本という言葉はその後も書目録などに多く使われている。《延喜式》の巻十二には,巻の前2行と末1行あけて書名を書くことが定められている。これらの巻子は細織の竹簾(すだれ)様の内側に絹布をはった帙(ちつ)で5巻あるいは10巻を包んだ。《源氏物語》の〈賢木(さかき)〉〈若菜〉の巻にも帙簀(ぢす)とあるのはそれである。また別に囊(ふくろ)にいれたことも古記録に多く見える。
執筆者:倉田 淳之助
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「けんすぼん」とも読む。冊子形式をとる以前に行われた図書の古い形の装丁である。絹などの裂(きれ)や紙を横に長く継ぎ合わせ、軸を芯(しん)にして巻いたもので「巻物(まきもの)」ともいう。中国では後漢(ごかん)から唐にかけて広く行われた。わが国へは奈良時代に伝えられ、以来江戸時代まで経巻や絵巻物などにこの形のものは少なくない。軸は細い1本の棒を使うのが普通であるが、平安朝以後には、料紙の高さに応じて伸縮できる「合せ軸」も用いられた。軸頭には、紫檀(したん)などの木や琥珀(こはく)などの玉や石、金属、牙(きば)などが付され、その形も銀杏(いちょう)型、丸型、角型などがある。平安末期の善美を尽くした装飾経『平家納経』は、巻子本の極致を示すものである。
[金子和正]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…書物形態の一種。古く巻子本(かんすぼん)(巻物)から変形したもの。巻子本は開閉に不便なので,それを避けるため区欄を設け,区欄と区欄のあいだの空白をちょうど折りたたみ屛風(びようぶ)のように前後に折って冊子の形とした。…
…それによると,三国魏の荀勗(じゆんきよく)が編集した官府の蔵書目録には2万9945巻を数え,劉宋の秘書監謝霊運の目録では6万4582巻に増えている。当時の書物は紙を長く張り合わせ,中に芯を入れて巻いた〈巻子本〉であった。書物ははじめ儒教経典を中心としたものであったが,仏教が盛んになるにつれ,仏教経典の抄写も盛んになり,抄写を職業とする〈経生〉が生まれた。…
…このころから大量の出版製本は,蒸気機関や電力の力をかり,従来の手工芸的なものから漸次機械化され,各種製本機械の発明とともに,今日のような機械工業に発展した。 一方,東洋における製本の様式は,中国に端を発し,後漢のとき,紙の発明とともに,〈巻子本(かんすぼん)〉の形態がとられ,ついで繙読(はんどく)に便利なため,これをジグザグに折って,上下に薄板をあて〈折本〉の形をとった。さらに隋・唐のころには〈旋風葉(せんぷうよう)〉といって,表紙を二つ折りにし,そのなかに折本をはさみこみ,上下を表紙にはりつけたものがはやった。…
※「巻子本」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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