高麗青磁(読み)コウライセイジ

デジタル大辞泉 「高麗青磁」の意味・読み・例文・類語

こうらい‐せいじ〔カウライ‐〕【高麗青磁】

朝鮮、高麗時代の青磁。素地きじに彫った文様に赤土・白土などを嵌入かんにゅうして製する象眼青磁は、その代表。

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精選版 日本国語大辞典 「高麗青磁」の意味・読み・例文・類語

こうらい‐せいじ カウライ‥【高麗青磁】

〘名〙 朝鮮、高麗時代(九一八‐一三九二)の青磁。一〇世紀頃、中国越州窯の青磁を学んではじまったとされ、窯址朝鮮半島全域に及ぶが、全羅南道康津郡大口面、全羅北道扶安郡保安面などで逸品が焼成された。精巧な陰刻文、象嵌特徴とする。特に一二世紀初頭の毅宗、明宗時代のものは釉(うわぐすり)の色がもっともすぐれ、翡色(ひしょく)といわれる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「高麗青磁」の意味・わかりやすい解説

高麗青磁
こうらいせいじ

朝鮮半島で高麗時代(918~1392)に焼かれた青磁の総称。高麗建国の前後、つまり9世紀から10世紀にかけて、中国越州窯(えっしゅうよう)の青磁技術を導入して始まった。当時、低火度の緑釉(りょくゆう)陶はすでに焼かれていたが、これによって初めて高火度の施釉磁器がつくられた。

 今日、初期の青磁窯址(し)として確認されているものは2か所あり、その一つは朝鮮半島の南端、全羅南道(ぜんらなんどう/チョルラナムド)康津(こうしん)地区にある康津郡大口面龍雲里(りゅううんり)の青磁窯である。ここからは中国・晩唐五代の越州青磁に特徴的な蛇の目高台を削り出した碗(わん)や、見込みに双鸚鵡(おうむ)文様を線彫りした鉢、さらに五代越州窯の影響色濃い陶片が出土している。いま一つはソウルに近い仁川(じんせん/インチョン)広域市景西洞で、1966年に発見された。磁化は浅いが緑みの強い柔らかい青磁で、蛇の目高台の碗や盤、瓶などに中国・五代陶磁の様式を写している。これらは総じて晩唐より五代の要素が強く、高麗青磁の始源は10世紀ごろの可能性が強い。

 11世紀になると、青磁の焼成技術は目覚ましい発展を遂げ、12世紀にみごとに開花した。1123年に高麗を訪れた中国・北宋(ほくそう)の徐兢(じょきょう)をして「高麗には翡色(ひしょく)とよばれる神妙な青磁が焼造され、人々これを珍重し、近年とみにその技も巧みで色沢はもっとも佳(よろ)しい」といわしめたとある。この頂点を極めた翡色青磁は、北宋の器皿を手本としているが、装飾文様や片切彫りの毛彫り文様などに、高麗ならではの独自の創意が認められる。釉色も中国のそれとは異なり、ほのかな灰色を含む沈んだ深い青で、幽邃(ゆうすい)な趣(おもむき)を呈している。高麗青磁の窯址は朝鮮半島のほとんど全土で発見されるが、この時期の窯では、全羅南道康津郡大口面沙堂里(しゃどうり)窯と、全羅北道(ぜんらほくどう/チョルラブクト)扶安郡柳川里窯とが優品を産した窯として双璧(そうへき)をなす。

 12世紀中葉には新たに象眼(ぞうがん)技法が考案され、高麗青磁は一大展開を示した。これは素地(きじ)に文様を彫るか型押しをし、白土・赤土または辰砂(しんしゃ)(酸化銅)を象眼し、青磁釉をかけて焼き上げたもので、釉は半透明化して気泡多く、釉裏(ゆうり)の象眼文様をくっきりと浮かび上げている。白土と赤土を素地肌に嵌入(かんにゅう)して白と黒の線や面をつくる繊細な表現は絶妙を極め、以後、高麗青磁の主流となった。また象眼に銅を用い、鉄絵で文様を描く鉄絵青磁、白土で文様をイッチン描き(袋や筒の先から、つめた土をしぼり出し文様を描く技法)する白堆文(はくたいもん)青磁、金箔(きんぱく)文様を焼き付けた画金(がきん)青磁なども焼かれた。

 13世紀後半に入るとモンゴル民族の元(げん)王朝下に組み込まれ、青磁の作陶は著しく衰退し、象眼技法も退化して、李朝(りちょう)期に入ると、いわゆる三島(みしま)、刷毛目(はけめ)などの作風に移行した。

[矢部良明]

『崔淳雨・長谷部楽爾編『世界陶磁全集18 高麗』(1978・小学館)』

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改訂新版 世界大百科事典 「高麗青磁」の意味・わかりやすい解説

高麗青磁 (こうらいせいじ)

朝鮮半島で高麗時代に焼造された青磁。中国浙江省の越州窯青磁の影響を強く受けて,南部の全羅南道康津地方で11世紀ころから焼き始められた。さらに中国北宋代の青磁,白磁の影響下に,独特の落ち着いた青緑色釉に発展した。17代仁宗の王陵から出土した素文の青磁瓜形花瓶は,12世紀初めには翡色(ひしよく)青磁といわれる優れた青磁釉の完成をみていたことを明らかにする。12世紀半ばになると,中国の影響を脱して独特の優美な器形をもち,象嵌で文様を施す象嵌青磁が考案され,もっとも完成したものとなった。象嵌以外に鉄絵,鉄釉,辰砂彩,練理文,画金青磁など,多様な技法が行われた。康津郡の窯は,竜雲里から沙堂里に及ぶ広大なものとなり,全羅北道扶安郡保安面にも大規模な青磁窯が開設され,生産量の増大を物語っている。13世紀末ころから,高麗青磁の生産も貴族社会と政治の混乱の中で変質し,おもに象嵌青磁が生産されるようになり,これが次の李朝時代の青磁,そして粉青沙器(三島(みしま))へと受けつがれてゆく。
執筆者:

青磁製の瓦であるが,高麗青磁だけにみられる。《高麗史》毅宗11年(1157)の条に,別宮に建てられた養怡(ようい)亭を青磁瓦で葺いたという記事がある。1928年に,これと符号すると考えられる青磁平瓦の破片数個が,高麗の首都開京(現在の開城)の満月台付近と,高麗青磁の著名な窯業地である全羅南道康津郡大口面沙堂里で発見された。その後,64-69年に沙堂里窯址が発掘され,平瓦,丸瓦,鬼瓦,鴟尾の良好な資料が得られた。軒平瓦の瓦当面は陽刻の唐草文で飾られ,軒丸瓦は陽刻の蓮華(れんげ)文,宝相華文,牡丹(ぼたん)文,陰刻の宝相華文など豊富な文様をもつ。全体に,釉色,文様ともきわめて優美である。これら多種多様な青磁瓦が得られたことから,養怡亭以外にも用いられたと推定される。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「高麗青磁」の意味・わかりやすい解説

高麗青磁
こうらいせいじ
Koryǒ ch'ǒngja

朝鮮,高麗時代初・中期に流行した磁器。器体に青緑色を呈する釉 (うわぐすり) をかけ,強火度の還元炎で焼いた。中国の宋代青磁を学んで制作されたが,宋青磁をしのぐ作品が多く,翡色 (ひしょく) 青磁と呼ばれる。 10世紀末から作られ最盛期は 12~14世紀。文様のない純青磁と,釉下に文様を象眼 (ぞうがん) した象眼青磁の2種類が多く,後期には鉄砂で絵をかいた上に青磁釉をかけて焼いた鉄絵青磁が作られた。また,まれに釉裏紅 (ゆうりこう) もある。器形は瓶,壺,香合,印章などで,高麗青磁を焼いた窯は朝鮮各地に散在した。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「高麗青磁」の解説

高麗青磁(こうらいせいじ)

朝鮮の高麗時代につくられた青磁。中国浙江(せっこう)省越州窯(えっしゅうよう)青磁の影響を受けてつくられ始めたが,12世紀頃に,翡色(ひしょく)青磁や象嵌(ぞうがん)青磁など高麗独特の色調と技法をもった青磁が完成。全羅南道康津(カンジン)や全羅北道扶安(プアン)の窯址が著名。

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旺文社世界史事典 三訂版 「高麗青磁」の解説

高麗青磁
こうらいせいじ

中国宋代の影響下に高麗時代の朝鮮半島で製造された青緑色釉の陶磁器
11世紀から焼きはじめられたもので,当初は中国と同じく文様をつけなかったが,12世紀には象嵌で文様を施す朝鮮独特の象嵌 (ぞうがん) 青磁が生まれた。李朝の白磁と並ぶ朝鮮工芸の頂点。

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世界大百科事典(旧版)内の高麗青磁の言及

【青磁】より

… 朝鮮では高麗時代,11世紀ころから越州窯の影響を受けて青磁の生産が始まった。これを高麗青磁といい,越州窯の〈秘色青磁〉に対して〈翡色青磁〉と呼んでいる。無文で深い釉調を呈している。…

【陶磁器】より

…11世紀ころ,高麗では中国の青磁に勝るとも劣らない〈翡色青磁〉をつくり上げ,これをみた中国の徐兢が〈近年以来制作工巧,色沢尤佳〉と絶賛したことはあまりにも有名である。翡色とは翡翠(カワセミ)の羽の青みにたとえた美称であるが,たしかに高麗青磁のあがりのよいものは,中国の青磁にもみられないふしぎな釉調をたたえたものがある。高麗青磁の最盛期は仁宗(在位1122‐46),毅宗(在位1146‐70)のころといわれ,中国青磁の影響を残しながらも高麗独特の作風をたたえた優品が多くつくられた。…

※「高麗青磁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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