工芸品の加飾法の一種。象嵌とも書く。金属、陶磁、木材などの表面を削り取り、ここに他の素材をはめ込む技法。金属では中国の春秋戦国時代の青銅器に金・銀を象眼したものがすでにあり、わが国では古墳時代の刀剣金具などにみられる。技法から糸象眼、平(ひら)象眼、高肉(たかにく)象眼、布目(ぬのめ)象眼、切嵌(きりはめ)象眼、銷込(とかしこみ)象眼などに分けられる。
糸象眼は線象眼ともいい、鏨(たがね)で文様や文字を線彫りし、そのあとに糸状の細い金属をはめ込む技法。象眼のなかではもっとも簡単な技法で、石上(いそのかみ)神社(奈良県)の七支刀、稲荷山(いなりやま)古墳(埼玉県)出土の鉄剣の文字などがこの技法による。平象眼は線ではなく平板をはめ込むが、地金と文様部が平らになるところに特色がある。わが国では中尊寺(岩手県)舎利壇の「蓮唐草団窠文(はすからくさだんかもん)銀象眼」が最古の作例で、平安末期ごろ(12世紀初頭)からみられる。高肉象眼は高肉彫り(立体的に肉高に彫る技法)したものをはめ込んだり、高肉彫りした一部に他の金属をはめ込む複雑な技法で、近世に発展し、装剣小道具に多用されている。布目象眼は鏨で地金に縦横細かく布目状の刻みを入れ、ここに金・銀の針金や薄板をのせ、鎚(つち)でたたき込んで貼(は)り付ける技法で、南蛮渡来といわれ、近世以降の肥後象眼などにみられる。切嵌象眼は地金を透かし、その部分に他の金属をはめて表裏同じ文様にする技法であるが、作例は少ない。銷込象眼は地金の表面を薄く毛彫りしたり、傷つけて金箔(きんぱく)などを擦り込む法である。一般にわが国の象眼遺品は上代と近世に多いが、その流れは糸象眼に始まって平象眼となり、近世に入って布目、高肉へと移行した。
陶磁では、器胎に文様を削り、そこに素地(きじ)と異なった色の土を嵌入(かんにゅう)し、釉(うわぐすり)をかけて焼成したものをいうが、朝鮮の高麗(こうらい)時代(10~14世紀)に焼かれた象眼青磁はその代表例で、李朝(りちょう)の三島(みしま)とよばれるものにもこの手法がみられる。木材では、板に色や種類の異なる木をはめ込んで文様を表す木画(もくが)がある。奈良時代(8世紀)に多くみられ、正倉院宝物の木画紫檀碁局(したんのききょく)では象牙(ぞうげ)・角(つの)・木などの細片をモザイク風に象眼している。また板に貝をはめ込む螺鈿(らでん)なども象眼の一種といえる。染織でも切嵌象眼の手法を用いたものがあり、正倉院の花氈(かせん)はその好例である。
西洋でも象眼の歴史は古く、古代エジプトでは木の素地に象牙をはめる手法がすでに発達しており、ツタンカーメン王墓の出土品にこの手法による椅子(いす)や箱などがみられる。ほかに精緻(せいち)な銀象眼で知られるミケーネの青銅の剣や短刀、ギリシアの青銅鏡などがある。
[原田一敏]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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