日本大百科全書(ニッポニカ) 「黄金の鉈」の意味・わかりやすい解説
黄金の鉈
こがねのなた
昔話。竜宮から宝物をもらってくることを主題にした異郷訪問譚(たん)の一つ。木こりが淵(ふち)に鉈を落とし、水中に捜しに行く。御殿があり、りっぱな人が金の鉈と銀の鉈を持ってくるが、自分のものではないと受け取らない。次に粗末な木こりの鉈を持ってくる。それを受け取ると、正直な爺(じじ)だと金の鉈と銀の鉈もくれる。御殿のことは他言するなといわれて家に帰ると、家では三年忌をしている。どこに行っていたかと問われ、つい淵の話をすると、大雨になって木こりは淵に流されて死ぬ。この話には「金の斧(おの)・銀の斧」の要素もあり、『イソップ寓話(ぐうわ)集』の影響も否定できないが、落とした鉈を捜しに行き、竜宮から宝物をもらってくる話が各地で伝説化しており、この形式の昔話の歴史はけっして新しくない。竜宮で耳に当てると小鳥のことばがわかる「雀(すずめ)の空音(そらね)」という宝物をもらったという「聴耳(ききみみ)」型の話もあり、竜宮の土産(みやげ)の玉手箱に入っていた竜灯観音を本尊としているという寺院も現存する。明治以後の成立とは考えにくい例も少なくない。この昔話は、水の神は鉄を忌むという信仰を基盤に、かなり古くから伝説として成長していたのかもしれない。刀を落としたという話もいくつかある。
北ヨーロッパのサーミ人には、一つだけだが、日本の話によく似た例がある。木こりが、なくした斧のかわりに銀の斧を水の精霊ナウセラ(水の男)から贈られるという話である。『イソップ寓話集』とは別個に、斧をなくした男が水の神から宝物の斧をもらう話が生育する余地があったことを推測させる。
[小島瓔]