改訂新版 世界大百科事典 「機織淵」の意味・わかりやすい解説
機織淵 (はたおりぶち)
淵の底に機を織る女性がいる,または,機織の音が聞こえてくるという伝説。広く各地に分布している。岩手県二戸市では,みかみという長者の妻が若い僧に懸想して果たせず,蛇身になって淵に入り,水底で機を織っていると伝える。深夜その淵の側を通ると白い布が干してあるとか,淵に潜って機を織っている姿を見た者がいるという。古く,祭りの時には,人里離れた神聖な淵の傍らに棚を設け,選ばれた村の乙女がそこで神衣を織り,訪れ来る神を迎える習俗があったと想定されている。のちに,この習俗が水底で機を織る女の伝承と結びついたものと考えられている。土地によっては,この伝説が特定の日に機織を忌む習慣と結びついていて,伝説と信仰の関係を考える上で興味深い問題を提起している。しかし,現在伝えられる伝承地のすべてがこうした信仰的背景を持った場所というのではなく,神秘的な淵にこの伝説が付着した結果であろう。
執筆者:常光 徹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報