家庭医学館 「鼻のがん」の解説
はなのがん【鼻のがん Cancer of the Nose and Paranasal Sinuses】
いわゆる鼻のがんは、正確には鼻副鼻腔(びふくびくう)がんといいます。
2対1の割合で、女性より男性に多く、50~60歳代に多くおこります。
鼻副鼻腔のがんは、上顎洞(じょうがくどう)がん、篩骨洞(しこつどう)がん、前頭洞(ぜんとうどう)がん、蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)がん、鼻腔(びくう)がん、外鼻(がいび)がんに分類されます。
このうち頻度(ひんど)が高いのは、上顎洞がん、次いで篩骨洞がんです。
[原因]
慢性副鼻腔炎(まんせいふくびくうえん)(いわゆる蓄膿症(ちくのうしょう)(「慢性副鼻腔炎(蓄膿症)」))が続いていることが、原因に大きく関係しています。
最近、鼻副鼻腔のがんの一部は、ヒトパピローマウイルスが関与していることが明らかになりました。
[症状]
たとえば上顎洞がんの場合、腫瘍(しゅよう)は上顎洞と呼ばれる、骨に囲まれた部位にできるので、初期には無症状です。したがって、腫瘍がこれらの骨を破壊して周辺に進展すると、症状が現われてきます。
腫瘍が内側、つまり鼻腔のほうへ進むと、鼻づまりや、膿(うみ)や血がまじった鼻汁(びじゅう)が出たりします。涙の管(鼻涙管(びるいかん))がつまってしまうと、その鼻涙管がある側の目から涙が出やすくなります。
前方や外側に進むと、頬部(きょうぶ)が腫(は)れたり、しびれ感や痛みを感じたりします。
一方、下方に進むと、歯痛(しつう)、歯肉(しにく)の腫れ、口蓋(こうがい)(口の中の天井にあたる部分)に腫瘤(しゅりゅう)や潰瘍(かいよう)ができたりします。
上方に進むと、眼球が押されて上転(じょうてん)するため、目の下方の白目(しろめ)が目立ってきたり、眼球が少し突出(とっしゅつ)したりします。
後方に進むと、顔面の知覚(ちかく)を司(つかさど)る神経が圧迫され、歯や頭の痛みがおこったり、口が開きにくくなったりします。
篩骨洞がんは、鼻づまりや血膿性鼻汁(けつのうせいびじゅう)、また眼球突出(がんきゅうとっしゅつ)、視力障害(しりょくしょうがい)や眼球運動障害がおこることがあります。
[検査と診断]
最初は、視診(ししん)、触診(しょくしん)、鼻鏡検査(びきょうけんさ)やファイバースコープなどの検査が行なわれ、その後にCTやMRIなどの画像診断(がぞうしんだん)が行なわれます。肉眼で腫瘍が見える場合は、そこから生検(せいけん)(組織検査)を行ないます。必要があれば入院のうえ、上顎洞を開けて生検を行ないます。
●受診する科
耳鼻咽喉科(じびいんこうか)、または、頭頸科(とうけいか)(がん専門病院など)を受診してください。
[治療]
腫瘍の進展範囲によりますが、可能であれば、放射線治療、化学療法、上顎部分切除などの、上顎を温存する治療を行ないます。
しかし、場合によっては上顎全摘術(じょうがくぜんてきじゅつ)および眼球摘出術が必要となることがあります。また、腫瘍が頭蓋底(ずがいてい)に進展している場合は、頭蓋底手術を行ないます。篩骨洞がんの場合は、篩骨洞が頭蓋底に近いため、頭蓋底手術が必要となることも少なくありません。
●予後
30年以上前は、もっとも予後の悪い疾患の1つでしたが、最近では50~70%が治癒(ちゆ)しています。
とくに、嗅神経芽細胞腫(きゅうしんけいがさいぼうしゅ)の篩骨洞がんの場合は、頭蓋底手術の適応となることが多いのですが、その予後は5年生存率が60~65%前後と、比較的良好です。