血圧とは、血液が、限られた血管というスペース内を血流として流れることで生じる、血管の壁にかかる圧力である。血圧は動脈血圧、毛細血管血圧、静脈血圧などに分類されるが、通常の血圧は動脈血圧をさす。大動脈、小動脈、細動脈と末梢(まっしょう)に行くほど血圧は低くなり、静脈血圧は0である。
血圧は水銀柱の高さで示される。成人における正常血圧(診療室血圧)は120/80ミリメートル水銀柱(mmHg)未満で、この血圧を例にとると、安静時に心臓から血液を拍出する収縮期に、水銀を120ミリメートル噴きあげる圧がかかっている状態で、これを最大血圧ともいう。つぎに心臓から血液の拍出がない拡張期には、収縮期に出た血液を心臓近位の大動脈が膨らんでプールし、これを拡張期に収縮して送り出す際に水銀を80ミリメートル噴きあげる圧がかかっていることを示す。年をとるに従い血管の弾力性が動脈硬化により減弱するため、大動脈の膨らみが減って血液をためられなくなってくるので、拡張期の血圧はだんだん下がり、収縮期と拡張期の血圧の差(脈圧とよぶ)が大きくなっていく。拡張期血圧が下がることにより脳などの血液循環が減ると、十分な酸素や栄養を末梢の細胞に送れなくなるので、全体の血圧を上げて拡張期でも血流が行くようにしている。高齢になると血圧が上がるのはこのためで、老年性高血圧はこうしておこる。老年性高血圧は収縮期血圧だけが高いものをよぶ。このため高齢者(75歳以上)の血圧管理目標値は若い人より高くなる。また高齢者では自律神経のバランスも悪くなり、夜間に下がるはずが逆に上がってしまう夜間高血圧も多い。
[都島基夫 2020年8月20日]
通常の血圧が仮に120/80mmHgであるとすれば、それは安静にしているときの血圧で、その人にとっては覚醒(かくせい)時でもっとも低い血圧である。安静時毎分70拍の脈拍が、走って毎分120拍になると、水道の蛇口をひねって水をたくさん出したのと同じように血圧は上昇し、収縮期で約80~100mmHgは上昇し200~220mmHgになっている。通常、緊張して仕事をしているときには140~160mmHgになっていると想定できる。安静時に収縮期血圧が150mmHgあれば、その人は走ったときには250mmHgに上がっていることになる。
120mmHgという血圧は、水圧に直すと水銀の比重14をかけた1680ミリメートル水柱(mmH2O)、すなわち水を1.68メートル噴きあげる圧が血管壁に1拍ごとに死ぬまで休むことなくかかっていることになる。走ったとき200mmHg(2800mmH2O)に上がれば、水を2.8メートル噴きあげる圧が血管壁にかかっていることになる。
血液は赤血球や白血球、血小板という固形成分が40~45%あり、これをヘマトクリットとよぶ。残りの55~60%の液体成分にもタンパク、糖、脂肪などが含まれていて、浸透圧を保ちながらドロドロの土石流のような状態で、秒速1メートル前後のスピードで血管の中を流れている。血圧が高いほどこれが血管壁に強く押しつけられ、「ずり応力」という引きずる力がかかる。それが血管壁を傷つけ、そこからコレステロールが進入したり、傷ついたあとが硬くなる。血圧が高くて血管壁にかかる刺激が強いと、防御反応により血管壁が厚くなり動脈硬化が進む。高LDLコレステロール血症や、トリグリセライド(中性脂肪)が高くHDLコレステロールが低い状態があれば、比較的太い動脈で、コレステロールが血管壁内にしみ込んで蓄積したアテローム性動脈硬化が進む。コレステロールが高くなくても血圧が高いと細い血管は硬くなって細動脈硬化が進み、ラクナ梗塞(こうそく)の原因となる。さらに細動脈では栄養が足りなくて抵抗力がなくなると、小さな細動脈瘤(さいどうみゃくりゅう)が多発して脳出血を発症させる。
このように高血圧はすべての種類の動脈硬化の危険因子になる。高血圧の管理目標値(診察室血圧)は、75歳未満の成人では130/80mmHg未満、75歳以上の高齢者では140/90mmHg未満とされる。高齢者で動脈硬化が進んでいる場合や基礎疾患がある場合には、年齢や病態に応じて個別に目標血圧が設定される。
[都島基夫 2020年8月20日]
自律神経は自分の意思と無関係に循環をうまく調節し、血液を必要なところへ送り、酸素と栄養を細胞に供給して、個体にある60兆個ともいわれる末梢細胞を細胞死から守っている。食後眠くなるのは腸の蠕動(ぜんどう)や消化酵素の産生等のため、働いている消化器や組織に血液をたくさん送っているので、脳へ行く血液の循環が減るためである。走ったり飲酒した後にドキドキ感じて脈拍が増えるのも、不足した酸素やエネルギーを末梢細胞へすばやく送って補充するためである。体細胞にエネルギーがなくなれば人はストレスと感じ、ストレスホルモンであるアドレナリンやノルアドレナリンなどを分泌して血圧を上げ、心拍数を増やす。さらに、脂肪細胞に蓄積された中性脂肪を分解してエネルギーにしている。すなわちストレスホルモンはα(アルファ)1受容体を介して血管を収縮させるので、毛細血管の血流は速くなる。このときホースにあたる大中動脈では血圧が上がっている。またストレスホルモンはβ(ベータ)受容体に作用して心臓の拍動を高めて心拍数を増やすので、水道の蛇口を広げて流水量を増やすのと同じ理屈で血圧を上げる。毛細血管が収縮すると、ホースの出口を握ってやるのと同じ機序(メカニズム)で、血圧が上がる。
健康な人では、適当な交感神経の刺激によりストレスホルモンが出て反応が適切に作用すれば、心拍数の増加で増えた血液は血管が締まることでどんどん末梢細胞に送り込まれ、酸素とエネルギーを末梢細胞に供給でき、ストレスは解消される。過剰な持続的ストレスがかかって血管が締まりすぎたり、血液の粘度があがり流れが悪くなると、末梢動脈の血流に対する過剰な抵抗が生じて、血液の末梢細胞への供給は遅延し、血流が滞り、細胞はますますストレスを高めてストレスホルモンを出す悪循環が生じる。この微小循環障害によって血圧はさらに上がり、中性脂肪を含む大型リポタンパクは末梢細胞近くで待っているリポタンパクリパーゼに達するのが遅れる。このため高中性脂肪となり、HDLコレステロールが低下した脂質異常症を生じる。ブドウ糖の末梢細胞への取り込みが低下するだけでなく、ストレスがインスリンの効き目を悪くする原因となり、血糖値が上がり、いわゆるメタボリックシンドロームが出現する。
ストレスホルモンは精神的に緊張しても分泌され、血圧上昇の原因となる。家では血圧が正常なのに、病院へ行くとドキドキして血圧が上がる白衣高血圧はこれにあたる。
また、人は自律神経の二重支配を受けており、日中は闘争神経である交感神経が緊張してストレスホルモンであるアドレナリンやノルアドレナリンなどの分泌が多く、血圧は高めになる。夜は副交感神経の緊張が高まり交感神経活性は低下して、血圧が下がり、脈拍数は減り、静かな眠りにつくことができる。眠りから覚める早朝から交感神経の緊張が高まるため、早朝高血圧がおこり、朝10時ごろまでは血圧が高いことが多く、この時間帯に脳卒中や心筋梗塞(こうそく)の発症が多発する。さらに早朝高血圧を引き起こす原因には夜の多量飲酒があり、酔い覚め時に交感神経が活性化して顔が青白くなり、血管が収縮して、明け方に高血圧や脳卒中を引き起こす原因になる。
早朝に食事をせずに散歩に出る人がいるが、空腹時はストレス状態にあり、脂肪細胞に蓄積した中性脂肪を分解してエネルギーにしている。この中性脂肪の分解にはノルアドレナリンが必要で、早朝空腹時の散歩はストレスの二重負荷になって危険である。エネルギーになるものを食べてから歩くようにするとよい。
[都島基夫 2020年8月20日]
よく高血圧は遺伝するといわれている。遺伝子解析が行われるようになり、高血圧になりやすい遺伝子も解明されてきた。しかし、住民健診での調査では、多くの高血圧の人では食塩に対する味覚感受性が低下していた。高血圧の人に入院中に食塩摂取量1日7gに設定した減塩食を食べてもらうと、7~10日で食塩に対する舌の味覚感受性が回復して、以前の食事が塩辛いと感じるようになった。子供のときから塩分の多い食事をしていると塩味がわからなくなる人が多くみられ、これが高血圧の原因になっていると考えられる。すなわち、食塩は腎臓(じんぞう)からの排泄(はいせつ)が遅く、たくさんとり過ぎるとのどが渇いて水分を多く摂取するので血管内は水分であふれ、血管が血液で張った状態になる。このため血圧は上がり、また血管内の水が細胞内外にあふれて浮腫(ふしゅ)(むくみ)となりやすい。また内臓脂肪型肥満ではストレスホルモン濃度も高く、高インスリン状態となり、これが腎臓からの食塩の排泄をさらに遅らせるので、肥満者では高血圧が出現しやすくなる。食塩摂取量が多いとわずかなストレスでも昇圧反応は著明となり、白衣高血圧もおきやすい。
歩行などの適切な有酸素運動によって筋肉の緊張弛緩(しかん)が行われ、末梢の微小循環をよくするので、膝(ひざ)などの故障のない人では毎日6000歩以上歩くことを心がけるとよい。運動を継続することにより細動脈の循環がよくなり、血管も新生されて血圧は下がってくる。しかし、競技者が行う激しい運動にはストレスが伴い、運動中は血圧が上昇し心血管系に負担がかかり、スポーツマンハートといわれるような心臓の肥大や、大血管の蛇行を生じることもある。
血圧降下剤(薬)の多くは末梢血管を広げて循環をよくする薬で、ホースの出口を開く効果により血圧を下げる。ところがこれとまったく逆の作用があるのが喫煙で、たばこ中のニコチンは交感神経を刺激して血管を収縮したり、脈拍数をあげる作用がある。たばこの煙は一酸化炭素を含み、酸素を運ぶ赤血球に一酸化炭素が結合し末梢細胞の酸素不足をきたしてストレス状態を生み、心拍数が増えて血圧を上げる。習慣的に喫煙していると酸素を運ぶ赤血球が増え、血液という土石流の土石部分が増えるのと同様のドロドロ血液となり、血球成分が43~45%から46%以上に増える。そして、赤血球どうしがくっついた連銭形成が生じ毛細血管の循環を悪くして、血圧が上昇する方向に働く。高血圧治療中の人の喫煙は、投薬などの治療の効果を減じることとなる。
夏は体温の熱を放散しようと末梢血管が開き、血管抵抗が低下して血圧は下がり、冬は血管が収縮して保温に働き、血圧が上がる傾向にある。高血圧の人では夏よりも冬に血圧降下剤の量が増える人も多い。
[都島基夫 2020年8月20日]
低血圧では、めまい、全身倦怠(けんたい)感、朝なかなか離床できないなどの症状が、往々にして現れる。慢性疲労症候群、滴状心(胸部X線検査で心臓がたれ下がったようにみえる)の人に多いが、多くは長命であり、とくに症状がなく、日常生活に支障がなければ治療の必要はない。
[都島基夫 2020年8月20日]
血圧とは血液が血管壁に及ぼす側圧のことである。血液は心臓のポンプ作用によって心臓から送り出され,動脈系から毛細血管に至り,静脈系を経て心臓に還流するが,血圧はこの血管の部位によって異なる。しかし一般に血圧といえば,体循環系における動脈の血圧を指す。心臓からの血流は,心臓の定期的拍動によって押し出されるので,定常流ではなく脈流である。すなわち心臓の収縮期に対応して血圧は最大となり,心臓の拡張期に対応して血圧は最小となる。前者を最大血圧または収縮期血圧と呼び,後者を最小血圧あるいは拡張期血圧と呼ぶ。最大血圧と最小血圧の差は脈圧と呼ばれる。心臓の1回の拍動期間におけるすべての瞬間の血圧の平均を平均血圧という。平均血圧は最大血圧と最小血圧の算術平均を意味するのではなく,最小血圧+脈圧×1/3で概算される。
血圧のことは古くから知られていたと考えられるが,実際に血圧というものを測定するようになったのは19世紀後半になってからである。初めのころは,血圧を測るといっても,動脈を切開して直接測ることができるにすぎなかった。ところが1860年ころから脈波記録法によって間接的に血圧を知る方法が行われるようになった。96年にイタリアの小児科医リバ・ロッチScipione Riva-Rocci(1863-1937)が,上腕に巻いた脈波測定用カフを用いて血圧を測ることを始め,さらに1905年にはロシアの外科医コロトコフNikolai Korotkovがカフと聴診器を用いて血圧測定を行い,動脈の雑音(コロトコフ音)を聴いて血圧を間接的に知る方法を発表した。これが現在広く用いられている血圧測定法である。この方法では,あらかじめ高めておいたカフ内の圧力を徐々に下げていき,最初に血管雑音が聞こえた点を最大血圧,聞こえなくなった点を最小血圧とする。なお血圧の単位はmmHg(水銀柱mm)で表す。
ヒト以外の動物でも血圧は測定されている。たとえば,キリンの血圧はきわめて高い値を示し,それによってあの高い頭まで血液を送ることができるのではないかという報告もなされている。またヒトの高血圧を研究するための実験モデルをつくるのにイヌ,ウサギ,ネズミなどがしばしば用いられているが,イヌの血圧は大腿動脈を用いて直接法により,ウサギやネズミの血圧は耳や尾を用いて間接法で測定することが多い。
血圧は季節によって変化する。一般に寒い冬の血圧のほうが暑い夏よりも高い。また血圧は1日のうちでも時刻によって変化する。ヒトの血圧は一般に昼間高く,夜低い。ところが夜行性動物であるネズミなどでは夜高く,昼間低い。血圧は一般に上腕で測定するが,血圧は場所によっても違い,下肢の血圧は上肢のそれよりも20~30mmHg高いのが普通である。
血圧は一般に精神的緊張によって上昇し,外来ではじめて医者に測ってもらうときの血圧は,2回以後に測ってもらう血圧よりも高く,病院で測った血圧よりも家庭で測った血圧のほうが低いのが普通である。正常人でも,一過性の血圧上昇はしばしばみられるので,高血圧と診断するには,1回だけの血圧測定によるのではなく,くり返し血圧を測定し,高い血圧がある程度持続することを確認することが必要である。世界保健機関(WHO)の高血圧専門委員会では,〈血圧は,少なくとも2回以上時をかえて,3回以上の測定を行い,その値の平均値が収縮期で160mmHg以上あるいは拡張期で95mmHg以上のときに高血圧とし,収縮期が140mmHg以下でしかも拡張期が90mmHg以下のときを正常血圧とする。この間のときは境界域高血圧〉と決めている。
軽い高血圧では一般に症状はみられないが,長く続くと血管に病変が現れるようになり,これが,脳卒中,冠動脈疾患,心不全,腎不全などの原因となることが明らかにされている。重症の高血圧には頭痛,めまいなどの症状を伴うことが多く,高血圧性血管病変の進行が速い。
収縮期血圧が100mmHg以下あるいは拡張期血圧が50mmHg以下の場合を低血圧と呼ぶ人が多いが,たとえ血圧が低くても,それによる病的な症状がなければ一般に病気としては取り扱わない。
高血圧の治療には食塩制限やストレスの除去などの一般療法もたいせつであるが,1960年ころから高血圧の治療薬が数多く登場するようになり,現在では,これらの薬をうまく使用すれば,たいていの高血圧は薬で治療することができるといえるようになった。
→高血圧 →低血圧
執筆者:海老原 昭夫
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…胸部では心臓の運動を抑制し,腹部では食道,胃,小腸,大腸の運動を促進する。迷走神経はまた,これらの内臓からの感覚を延髄に伝えたり,大動脈(弓)に加わる血圧の状態を延髄に伝え,それに応じて心臓の運動を調節する。舌咽神経は,舌と咽頭に分布し,知覚,運動,分泌をつかさどる。…
…寄生から自立への激しい変化が,血管系を中心に生後間もない瞬時の間に行われる。
[血管系の生理と病理]
動脈血圧は性別や年齢で異なるほか,情動や代謝状態などによって影響を受ける。正常値の限界を明確に定めることはできないが,健康な成人男子について上腕動脈で測定した結果は,収縮期血圧は100~150mmHg,弛緩期血圧は60~90mmHgとされ,年齢とともに上昇する。…
…血圧の高い状態が続き,これに特有な心臓血管系の障害(高血圧性血管障害)を伴う病気を,高血圧または高血圧症という。正常な人でも時には血圧の上昇することがあるが,それは一時的な血圧上昇であって高血圧とはいわない。…
※「血圧」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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