歯肉(歯ぐき)の炎症性の疾患をいう。歯肉炎はもっとも罹患(りかん)率の高い口腔(こうくう)疾患の一つである。病理組織学的にみると、臨床的には健康歯肉であっても、そのほとんどに歯肉炎の所見が認められるといわれている。単に歯肉炎と称される場合は、単純性歯肉炎をさすことが多い。そのほかに特殊な疾患として、慢性剥離(はくり)性歯肉炎、急性壊死(えし)性潰瘍(かいよう)性歯肉炎があるが、ここでは単純性歯肉炎について述べる。臨床的に健康な歯肉は淡いピンク色を呈し、比較的硬く、歯肉表面にはミカンの皮の表面のような微細なくぼみ(スティップリングstippling)がみられる。歯ブラシなどによる口腔清掃が不十分であると、歯肉の炎症誘発因子である歯垢(しこう)、歯石が歯および口腔粘膜の表面に堆積(たいせき)し、歯肉炎がおこる。歯垢、歯石以外の原因としては、不適合な人工物(充填(じゅうてん)物、補綴(ほてつ)物)、口呼吸癖、食片圧入(食物が歯と歯の間に挟まること)などがあげられる。臨床症状には歯肉の充血または腫脹(しゅちょう)があり、罹患部位は出血しやすい。歯肉炎の自覚症状は少ないが、歯肉がむずがゆいような不快感を覚えることがある。歯肉炎の予防ならびに治療法は歯ブラシと歯間部清掃器具(歯間ブラシまたはデンタル・フロス)を用い、徹底したプラーク・コントロールとスケーリング(歯石除去)を行うことによって目的を達成することができる。治療処置を施さないで放置すると、歯周病原細菌の感染によって炎症は深部の歯根膜および歯槽骨に波及し、歯周炎を発症する。
[加藤伊八]
歯周組織(歯肉、セメント質、
プラークがたまりやすい環境やプラークを除去しにくい因子(歯石、大きなむし歯、古くなった詰め物や冠など)、病状を悪化させる全身的な因子(口呼吸、血液疾患など)などが、複雑に絡み合って炎症が進行します。
一般的に経過は慢性に進行しますが、急性に起こることもあります(急性壊死性潰瘍性(えしせいかいようせい)歯肉炎)。
伊藤 公一
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
歯肉の炎症。急性のものと慢性のものとがあり,後者が圧倒的に多い。急性歯肉炎は,歯ブラシによる擦傷,ヘルペスウイルスの感染,食品や薬剤へのアレルギーなどによって起こるほか,まれに細菌感染が原因と考えられる急性壊死性潰瘍性歯肉炎がある。慢性歯肉炎は小児から成人まで多くのヒトにみられる。その原因の主体は歯石による局所的な刺激と考えられている。歯肉炎は,最も不潔になりやすい歯の隣接面に接する歯間乳頭の発赤,浮腫,腫張に始まり,辺縁歯肉へ,さらには付着歯肉にまで波及する。慢性歯肉炎は,出血や腫張以外にほとんど自覚症状がないので放置されやすく,しだいに歯根の支持組織の慢性辺縁性歯周炎(歯槽膿漏)に移行する。慢性歯肉炎は全身の状態に敏感に反応して病像が変わる。たとえば,鎮痙薬ダイランチン服用時,思春期,妊娠時には歯肉の増殖性変化が起こる。炎症の予防には,歯石の除去と歯肉の血行をよくするブラッシングが必要である。
執筆者:小野 博志
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